81 勝利の行方
刹那、レオさんの剣が一閃し、白姫を囲む魔法陣が一瞬だけ光を弱める。
二人の視線が交わり、互いを認め合う雰囲気が漂った。
彼は白姫を見つめ、かすかに微笑む。
「やはりあなたは、最高の剣士です」
その言葉は観客席の喧騒にかき消されたけど、白姫の動きがわずかに遅れた。
白いフードの下で、彼女の瞳が光った気がした。
彼女が静かに剣を受け流す。
「私はあなたが作る、この国の未来に興味があるのです」
やっぱりレオさんは、相手がローゼさんであることを知っているんだ。
私は二人にどんな過去があるのか知らないけど、それでも二人がこの国の未来を思う気持ちは、誰よりもわかっていると思いたい。
レオさんはその隙を逃さず、渾身の一撃を白姫に叩き込む。
シールドが砕け散り、闘技場に一瞬の静寂が訪れた⋯⋯。
次の瞬間、観客席が割れんばかりの歓声に包まれた。
「レオクス様、お見事です!」、「新たな帝国の星だ!」と叫び声が響き、私も手を振って、「レオさん、すごい!」と声援を送った。
その後、皇帝陛下が静かに手を挙げると、一斉に大闘技場が鎮まりかえった。
全員の視線が二人へと注がれ、その勇姿を誰もが見守る。
白姫は剣を下げ、レオさんに一礼した。
「素晴らしい戦いでしたよ、レオクス皇子」
その声は穏やかで、慈愛に満ちたローゼさんのものだ。
声色を変えずにそう告げたことが、レオさんに対する最大の敬意に感じた。
レオさんも剣を下げ、微笑みながら、「あなたの剣は、私に大切なことを教えてくれました」 と答えたあと、白姫に近付いてこう囁いた。
「⋯⋯この戦いで、私を高めようと導いてくれていたのではありませんか? 私はまだあなたに遠く及ばないと感じています。あなたは最も得意なはずのバルマード様の剣技を使わず、白姫としての剣で私に対峙してくれました。だからこそ私は、予測不能に繰り出される技の数々に、多くのものを学ばせてもらったと思っています。バルマード様の剣技だったら、私はきっと何も得ることはできなかったはずです」
「買いかぶりすぎですよ、レオさん。あなたこそ、お父様に近付こうと得意の水魔法を一切使わなかったではありませんか」
「魔法の詠唱などする暇がなかったのです。ーー必死であなたに追いつこうと剣を振るっていたら、突然、剣がオーラを帯びたのには驚かされました。その瞬間、バルマード様しか使い手を知らない、伝説の剣技『オーラブレード』を自分が使えていることに興奮しました。偶然出たとはいえ、あの力はなんとしても身に付けたいものです」
「お父様との日々の鍛錬の結果でしょう。これからもっと強くなって、私やエストさんを守ってくださいね」
「そう言われると、もっと高みを目指さなくてはなりませんね。もしや、ローゼさんもオーラブレードを使えるのでは!?」
「うふふ、乙女のヒミツです。さあ、そんなことより新たな帝国の英雄として、私たちを見守る大勢の人々に、今こそこたえる時ではありませんか?」
二人の強者のやり取りを、誰もが固唾を呑んで見守っていた。
観客席にいる私に、どうやって二人のやり取りが聞こえたのかわからないでいると、白姫のローゼさんが私の方を向いて、深く被ったフードの下から、穏やかに口元を緩めた。
⋯⋯彼女が私に聞かせてくれていたのね。
二人が再び距離をとると、その様子に皇帝陛下が立ち上がり、大声で手を広げた。
「良くやった、二人の新たな英雄たちよ! 白姫殿もレオクスも実に見事な戦いぶりであった。まさに帝国の誇りを見せてもらったようで、余も心より嬉しく思うぞ」
その陛下の声に、皇妃は唇を噛みながら静かに手を叩いた。
バルマード様は二人の姿を大らかに見つめながら歩み寄ると、それぞれの剣を握る手を取って、天高く掲げて高らかに宣言した。
「優勝、レオクス皇子! 準優勝、白姫ロゼリア! この勝負を見届けた人たちに、私はこうお願いしたい。最高の戦いを見せてくれた彼らを、どうか盛大に祝福してはくれないだろうか!」
バルマード様の言葉に、鳴り止まない拍手と賞賛の声が湧き上がり、大地を震わせた。
レオさんはバルマード様に満面の笑みで応え、白姫のローゼさんも、フードを深く被ったまま、口元を優しげに緩ませた。
試合後、私たちはアカデミーの理事長室に集まった。
初めて来た豪華な部屋に目を奪われていると、ローゼさんが微笑んで手を広げた。
その気品ある笑顔に、ふと白姫の戦いぶりが頭をよぎる。
親友のこんな姿がなんだかとても誇らしい。
「みなさん、素晴らしい戦いでしたわ。帝国中がこの大会の熱気に沸いたことでしょう!」
ローゼさんの優しい声に、勝利の喜びが響き合う。
私は彼女の手を握って、笑顔を見せた。
「レオさんの優勝、ほんとすごかったです! みんなの戦いも最高でした!」
ローゼさんは軽く握り返し、くすくすと笑った。
「あらエストさんのロッドの舞も、まるで星空を彩る光のように素敵でしたよ」
その褒め言葉に顔が少し熱くなる。
レオさんが汗に濡れた額を拭い、穏やかに笑った。
「みんながいなければ、白姫には勝てなかったと思います。エストさん、貴族派の妨害を潰してくれて、本当にありがとうございます」
レオさんがローゼさんをチラッと見て、かすかにうなずいた。
二人とも、まだ決勝の余韻が残っているんだと思う。




