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77 大会前夜

 その日の夕方、レオさんやウィル君、ミハイルさんたちと一緒にバルマード様の執務室に呼ばれた。

 バルマード様が何だか気まずそうに、私たちに目を向けて軽く咳払いした。


「実は君たちがSランクに昇格したことを、皇帝陛下がたいそうお喜びでね」


 それって喜ばしいことだよねって思っていると、バルマード様が頭をかきながら続けた。


「それでアカデミーで武闘大会を開催して欲しいってことなんだけど、君たちは大丈夫かい?」


 えっ、舞踏会じゃなくて、戦うほう!?

 でも、もしそうなっても、人前で神聖魔法を使えない私は出なくてもいいよね?

 ⋯⋯悪徳教会にこき使われるなんて嫌だもの。


 ウィル君が目を輝かせて拳を握りしめた。


「僕たちの実力を試す良い機会と思います!」


 ミハイルさんも胸を張って剣の柄に手を添えた。


「バルマード様との訓練の成果を試す時ですよね!」


 そんな中、レオさんが気まずそうに眉を顰めた。


「それって、皇帝派の権威を高めようという父上の思惑ですよね。素直に喜んで良いものか悩みます」


 確かにレオさんの皇太子問題を有利に進めるには、いいイベントだ。

 私たちに気を使ってるのが、レオさんらしい。

 だったら、私も応援しなきゃ!


「レオさんにとっては良い機会なんですよね! でしたら、私も大賛成です」

「エストさんまで。⋯⋯その、ありがとうございます」


 レオさんの表情が和らぐ。

 これはレオさんの皇太子争いを巡る、皇帝派と貴族派の争いなんだ。




 武闘大会の開催が決まった瞬間、アカデミーはまるで祭りのように沸き立った。


 二週間後に迫った大会は、バルマード様が審判を務めることで、帝国中から熱い視線を集めていた。


 準備期間中、噂を聞きつけた腕自慢の冒険者たちが名声を求めて、次々とアカデミーに押し寄せてきた。

 私とローゼさんは、アカデミーの二階の窓からその光景を眺めていた。


「何だか大騒ぎになりましたね、物騒な方も結構いますけど」


 そんな私に、ローゼさんが嬉しそうに答えた。


「お父様が審判だなんて、きっと皇帝陛下がごねたのでしょうね。私はお父様の勇姿を眺める予定です」

「レイラさんが帰ってきても、ローゼさんってブレないですよね!」

「お父様と過ごした時間で言えば、私はお母様に勝っています。って、何を張り合ってるんだか、ですよね」


 そんなローゼさんと見つめ合って笑い合う。


 屈強な斧使い、歴戦の剣闘士、オーラをまとう魔術師。

 彼らの野心に満ちた視線が、訓練場を熱くする。


 訓練場は昼夜を問わず剣戟と魔法の炸裂音で響き合った。

 私たち生徒会メンバーは、大闘技場の設営と訓練に駆け回る事に。


 安全のため、訓練の段階から全員にシールド魔法がかけられた銀の指輪が支給された。

 大会の公平性を保つため、武器はすべて支給品になった。

 相棒のホーリーロッドが使えないのが残念だけど。




 次の日、ローゼさんとアカデミーの庭園で二人きりで話した。

 彼女の制服のリボンが風に揺れる。


「レオさんを狙った貴族派が、懲りもせずにギルドの腕利きたちを送り込んだようです」

「でも、バルマード様が見てますし、レオさんが優勝候補ですよね!」

「そうですね、レオさんが優勝するのが理想的かと思います」


 私は、あの厳しい特訓の日々を思い出す。


「レオさんが優勝すれば、きっと皇太子争いも少しは楽になりますよね! でも、ウィル君やミハイルさんも応援したいです」


 ローゼさんがくすりと笑う。


「そうですね。ウィルやミハイルさんにも活躍してもらって、その上でレオさんが勝つのが理想でしょうか」




 三日目、私たちは訓練場で外部の冒険者たちと模擬戦を重ねた。


 これまで人を相手にしたことなんてなかったから、駆け引きが大事だって勉強になる。

 そんな中、巨漢の斧使いが私に挑んできた。


「剣聖様のご息女の実力、どれほどのものか見せてもらおう!」

「お義父さまの名に恥じない、戦いを見せますから!」


 ロッドが相手の胴を捉え、シールドを一気に削る。

 ⋯⋯でも、ロッドが違うせいか、動きにくさを感じた。


 観客の生徒たちがどよめく中、ウィル君が剣に炎を乗せて斬りかかり、「エストさん、さすがです!」と叫んだ。


 違和感を覚えた私は、控室でロッドを手に取り、慎重にその感触を確かめた。

【鑑定】すると、なんと能力ダウンの呪いがかけられていた。


 呪いの魔力は闘技場の結界と共鳴し、装備者の動きを鈍らせ、シールドの反応を遅らせる高度な仕掛けだった。

 もし本戦まで放置したら、レオさんやみんなが危険な戦いを強いられ、ケガをするかもしれない。


 誰もいないのを確認して、解除魔法の『ディスペル』を唱えた。

 だけど、呪いは予想以上に複雑で、何重にもかけられていた。

 淡い光がロッドを包むけど、一本の解除にかなりの時間がかかって、額に汗が滲んだ。


 こんな姑息な手を使うなんて、ほんと貴族派の人たちってロクでもないわ。


 私は貴族派の監視を気にかけながら、落ち着いて魔法を唱え、一つずつ武器を浄化した。

 控室の外で足音が響くたび、ビクッとする。


 もし見つかったら、私が何か細工してるって言われかねない。

 でも、みんなには全力で戦ってもらいたい。

 全ての武器を浄化し終えた時、私は息を整えて壁に寄りかかった。


 このことは黙っておこう。

 今は、余計な気を使わせたくないもの。

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