71 執務室にて
バルマード様の静止も聞かず、レイラさんが続ける。
「ここにいるみんなでレベルを上げて、強くなってしまいましょう!」
おお、レベル上げって。
さすがローゼさんのお母さんだ。
その言葉にすぐに反応したのが、レオさんだった。
「はい、私も強くなりたいです! 己の力不足で、不覚を取ったばかりです。あの時は、ローゼさんやエストさんにもご迷惑をおかけしました」
私は傷ついてベッドに横たわったレオさんの姿を思い出した。
二度とあんな目にあって欲しくない。
ミハイルさんがその話をレオさんに尋ねると、それを初めて耳にしたバルマード様が眉をひそめた。
「貴族派の連中は、そこまで愚かな行動に出たんだね」
バルマード様に、ローゼさんがそのことを説明した。
「なるほど、グランハルト卿と聖女アンリエットがいたことは幸運だったね。彼らは行方不明になったと聞いていたが、この皇都にいるとはね」
そのグランハルトさんに、今は護衛をしてもらっているとレオさんが答えた。
「もしやレイラは、これらを全て知った上で、そんなことを言ったのかい?」
「いいえ。でも、今後もそういう衝突が起こるのは、簡単に想像できるでしょう? 私は魔王との戦いの時、最後まであなたを支えられずに、悔しい思いをしました。全ては私の力不足が招いたことです」
その後、私たちは部屋を移り、今後のことを話し合うことになった。
バルマード様の執務室に通された私たちは、席に着いた。
ここに来るのは初めてだけど、隣の部屋が公爵家の宝物庫になってるって聞いて、ちょっと緊張する。
バルマード様が隣の部屋から立派な剣を持ち出し、レオさんに手渡した。
「ここで眠っているより、レオ君に使ってもらった方が剣も喜ぶことだろう」
剣を受け取ったレオさんが、動揺しながら答える。
「これはバルマード様の愛剣、聖剣『オメガ』ではないのですか!?」
ミハイルさんも初めて見た伝説の剣に目を丸くした。
「レイラの言うように、自分を鍛えるなら君にこそふさわしいよ。そう、ミハイル君やウィルにも、渡しておかなければね」
バルマード様が私たちを宝物庫へ案内すると、そこにはまばゆいばかりの武器や防具が並び、知識のない私でさえ心が躍った。
ウィル君もミハイルさんも、受け取った見事な装備に感激している。
「こんな伝説級の武具を貸していただいても、よろしいのですか!?」
驚きと感動が入り混じるミハイルさんに、バルマード様は優しく答えた。
「私も昔を思い出すね。君たちはこれからもっと強くなる、ウィルも頑張るんだよ」
「ありがとう、お父様!」
ヒルダもバルマード様から剣を受け取った。
「これは君が持ってこそ輝くからね、レオ君たちを守ってやってほしい」
ヒルダは懐かしそうに剣を見つめ、バルマード様に一礼した。
執務室に戻った私たちを、バルマード様が見つめる。
「立場上、私はここを離れるわけにはいかないけど、応援してるよ」
そのバルマード様を見て、レイラさんが私たちに話しかけた。
「バルマードはレベルが95もあるので、もうほとんど上がらないからお留守です」
その言葉に私だけじゃなく、ローゼさん以外の全員が驚いた。
真っ先に反応したのはウィル君だ。
「人のレベル限界って確か50だよね!? どうやってそんなに上げたの」
レイラさんは得意そうに微笑む。
「それは世間で知られているモンスターが、ドラゴンで最大レベル50だからです。それ以上を倒せば、もちろん上がりますよ。ああ、そういえば能力測定の魔水晶がレベル49以上に対応していませんでしたね」
レイラさんが「あれを出して」とバルマード様に伝えると、テーブルに虹色に輝く水晶玉が置かれた。
「とりあえず、それに触れてみてくださいね」
レイラさんに促され、レオさんから順に水晶に触れていった。
すると、一人ひとりのレベルがすぐに表示された。
レオさんはレベル43、ウィル君がレベル45、ミハイルさんがレベル38、私はレベル40まで上がってた。
ヒルダが戸惑いながらそれにそっと触れると、レベル69なのがわかって、私たちは少しざわついた。
ローゼさんはそれに触ろうとせず、口元に人差し指を当てた。
「乙女のヒミツですっ」
そんなローゼさんの手を、レイラさんが無理やり水晶に近づけようとしたけど、ローゼさんに軽くあしらわれてしまった。
「お母様も触らなくても大丈夫ですよ、レベル62だってわかりますので」
レイラさんのレベルにも驚いたけど、それを見抜くローゼさんに、私やみんなの視線が集まった。
バルマード様がローゼさんを見つめる。
「いやぁ、やはりか。それがわかるってことは、ローゼはもっと上だよね? 【鑑定】では相手よりレベルが上でないと見ることができないからね」
バルマード様に、ローゼさんは可愛らしく頬を膨らませる。
「もう、お父様ったら。では、私はレベル63ということにしておいてくださいね」
たぶん控えめに言ってるんだろうけど、それでもすごいって、この場にいたレイラさん以外の尊敬の集めるローゼさんだった。
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