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69 行動的な夫人

 レイラさんは公爵家に戻ってから、ものすごく行動的だった。

 これまでずっと我慢していた反動だと思う。


 一緒にカフェを巡った後、レイラさんは執務室にいるバルマード様にこう話しかけた。


「ああいう場所があるって、女性には嬉しいことね。甘いものは正義ですもの。あんな素敵な場所が一つだけなんて、もったいなさすぎるわ」


 バルマード様はレイラさんにうなずき、すぐに私の方を向いた。


「エストちゃんに言われていたからね。すでに二カ所でカフェを開く準備はできてるから、いつでもオープンできるよ」


 バルマード様は私の願いをちゃんと形にしてくれてたんだ。


「もうそんなに進んでるなんて、とても楽しみです」

「カフェで働きたいって子がずいぶん多くてね。エストちゃんが、楽しそうに男爵家の話をしてくれていたのもあってのことだよ」

「ありがとうございます、バルマード様!」

「ヒルダは元気にしてるかい?」

「はいっ、ヒルダが男爵家にいてくれて、本当に助かってます」


 そのヒルダの話にレイラさんが柔らかく微笑んだ。


「まあ、あの子がエストさんのところにいるんですね。ぜひ会いたいわ」


 レイラさんの反応に、バルマード様がヒルダを公爵家に呼ぼうとすると、レイラさんは両親を含め、男爵家に挨拶したいと返す。


 そのまま私たちは馬車で、男爵家に向かった。

 最初にレイラさんを出迎えたのは、お義父さまだった。


「お久しぶりです、レイラ様。わざわざ我が家を訪ねてくださるとは」

「スレク卿も夫人もお元気そうで何よりです」


 両親はまるで孫のように見えるレイラさんを、温かく受け入れる。

 使用人のみんなは彼女の訪問に驚き、しばらく固まっていた。


 そんな中でヒルダがレイラさんの前に出て、帝国の礼法で挨拶をした。

 その美しいヒルダの所作に、彼女がまるであの白銀の鎧をまとっているようかのように感じた。


「レイラ様、ご無沙汰しております」

「まあ、こんなに美しく成長していたなんて」


 レイラさんは両親とソファでお茶を飲みながら談笑し、ヒルダを伴って男爵家を後にした。

 馬車の中で、私は二人の話に耳を傾けた。


「レイラ様より『ブリュンヒルド』の名を頂いた日より、私は胸の奥から勇気が湧き上がるような気持ちで、これまで頑張れました」


 おお、ヒルダの名付け親がレイラさんだったなんて。


「私はこの地を離れてから、その名があなたの重荷にならないかと案じていました。本来なら、あなたを導くべき私が、すぐにいなくなってごめんなさいね」

「いえ、私はたくさんの出会いに恵まれて幸せです」


 話を聞いていると、「ブリュンヒルド」という名は有名な天使のもので、勇敢で慈悲深く育ってほしいという願いが込められているとわかった。


「これからは私もエストさんのように、ヒルダって呼んで良いかしら」

「ぜひそうお呼びください!」

「うふふ、ローゼからあなたの武勇伝を聞かされて、今はあなたをヒルダって呼んだ方が都合が良いかなって。もちろん、ヒルダって名前、素敵よ」


 その言葉にヒルダは、笑みを浮かべた。


 確かに私も最初は驚いたけど、ブリュンヒルドが天使の名前なら、『黒髪の戦乙女』という二つ名もそこに由来しているのかもしれない。




 馬車が止まった場所は、アンリエットさんの孤児院の前だった。

 レイラさんが馬車を降りる際、私に弾んだ笑みを向けた。


「だって、私と同じような経験をした方に会ってみたいもの」


 ローゼさんの行動力はレイラさん譲りかもしれないと思った瞬間、孤児院の入り口で私を見てにこりと微笑むローゼさんの姿があった。


「あら、今日はヒルダも一緒だったんですね。お母様は奔放ですから、エストさんもヒルダも振り回されてなければいいですが」


 ローゼさんに、レイラさんが返す。


「もう、ローゼはそうやって、私をすぐお子様扱いするんですから」

「でしたらお母様も、食事の前はお菓子を我慢できますね」


 ローゼさんの言葉にレイラさんはブンブンと首を振った。

 確かに私も、あの魅惑のお菓子に抗えなくなっちゃってるけど。


 ヒルダは「こちらのお手伝いをしてきますね」と言って、一礼すると、建物の奥に入っていった。


 レイラさんは子供たちと接するのがとても上手で、会う子みんなに好かれているようだった。

 そんなレイラさんと話したアランとミレットが、私の元に駆け寄ってきた。


 アランが最初に聞いてきたから、ローゼさんのお母さんだよって答えた。


「す、すげーっ!」


 うん、確かにあの若さにはびっくりだよね。

 ミレットも驚いてる。


「ローゼねーちゃんのお母さんって、魔女なの?」


 こらこら。


 そのままアンリエットさんのいる部屋に行くと、そこにレオさんとミハイルさんがいた。

 レイラさんはアンリエットさんの姿を見るなり、彼女に耳打ちした。

 アンリエットさんはすぐにこう返した。


「あ、はい! そうしてもらうと、助かります」


 よく聞こえなかった私に、ローゼさんが囁く。


「アンリエットさんは、教会の元聖女なんですね。それを知るお母様は、お互い元聖女同士、お友達になりましょうと」


 レイラさんはレオさんの方に近づき、こう語りかけた。


「レオ君ですよね」

「再びお会いできて光栄です、レイラ様」


 少し緊張した様子のレオさんの手を握りながら、レイラさんは語る。


「こんなに立派になって、⋯⋯たくさん苦労をしたのですね」

「いえ、私は恵まれています。バルマード様をはじめとする公爵家の方々、エストさんにミハイル君、それにアンリエットさんに支えられ、今があると思っています」

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