表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ令嬢に転生したけど、悪役令嬢と親友になって活躍したら聖女に持ち上げられました  作者: アヤコさん
第3章 新たな聖女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/92

67 愉快なお母様

 静かにドアを閉じると、逃げ出そうとしたお母様が私の方へと振り返り、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で口を開いた。


「あ、あなたは、一度、夢の中でお会いしたエストさんですよね!?」

「少し静かな場所でお話しでもいたしましょう、レイラ様」


 お父様のプライベートを覗き見るなんて、たとえ相手がお母様でも、見逃すわけにはまいりません。




   ◇◇◇




「え!? ここはバルマードと初めて会ったアリスタ侯爵邸では」


 私はエストさんの中に眠る【時の権能】を理解し、初めてお父様がお母様に出会った、過去のアリスタ侯爵邸へとお邪魔した。

 と言っても、実際に過去に干渉できるわけではない。

 私がヒミツの力の全てを引き出しては、エストさんに申し訳ないですもの。


 私を見て驚くお母様は、私と同い年くらいに若々しい。


「ど、どうしてエストさんが、私と一緒にこの思い出の場所に」

「人を見た目だけで判断されてはダメですよ。私がお母様を捕まえた時の動きに、何か思い当たりませんか?」

「ハッ、そういえば。あの身のこなしは、まるでローゼのように見事でしたね。でも、私はエストさんのお母さんではありませんよ。⋯⋯おろおろ、母親の愛に飢えているのですね。私がエストさんの母親代わりになれるなら、いくらでも言ってください!」


 ちょ、そんなに強く抱きしめない!

 まったく、この天然で、ノリで生きてるお母様は、まだ私の中身がローゼだということに気が付かないようですね。


 私が軽く一本背負いをすると、お母様は大きく宙を舞って、ピタッと見事に十点満点の着地する。


「そろそろ分かっていただけましたか? 確かに私の見た目はエストさんです。ですが週に二度は私の夢に割り込んでは、のんきにお父様とののろけ話を朝まで語り、私の乙女心をズタボロにするものですから、いつも私に投げ飛ばされているではありませんか」


 お母様が一瞬、時が止まったようにこちらを見つめると、ポンと思いついたようにこう応える。


「まあ、ローゼがエストさんに変装しているのですか? ローゼは昔からいろんなことができましたね。あの時、私の正体を言い当てた時なんかは、もう、生きた心地がしませんでしたよ」




 ーーむかしむかし。

 お母様は帝国一の『聖女』と呼ばれていました。


 壮絶なる決戦。

 お父様をかばって、魔王の一撃を浴びたお母様。


 お母様は最期の力で、お父様の握る剣に光の加護を与えた瞬間、花びらを散らすかのように、そこから消えてしまったのです。


 というのが英雄譚に出てくるお話しです。




「どうしたの、ローゼ? お腹が痛いの?」

「今、回想中ですので、これでも食べてお待ちください」


 私は袖からシフォンケーキを取り出すと、お母様はスプーンを入れて満足そうな顔をする。

 見た目通り、心も若返ってしまったお母様を大人しくさせるには、これが一番です。


 ーーコホン、再開します。


 その時、お父様は最愛の女性を失った悲しみを耐え、強い信念で魔王を斬り裂き、世界の闇を退けて勝利をお母様に捧げたのです。


 まさかお母様が本当に生きているなんて、私でさえ信じられませんでしたが。


「ローゼ、アイスも欲しいわ」

「⋯⋯これをどうぞ、お母様」


 私はお母様の冷蔵庫のようですね。

 マイペースなお母様が魔王との戦いの後に、私たちの夢の中に鮮明な姿で訪ねてきた時は、はじめは奇跡だと信じておりました。


 ですが、お父様の未来を案じて『全知の書』を手にした瞬間、その全てを理解したのです。


「はい。あの時、私はもうダメーッ! って思ったのですが。気が付くと、何と豊穣の女神ジラ様の元にいて、『女神の祝福』を受け、一瞬で傷が治っただけでなく、奇跡の力が強烈過ぎて、バルマードに出会った頃の、十六歳の姿まで若返ってしまったのです!」

「そこ、お母様が言っちゃうんですね」


 と、まあ元気なお母様は、女神ジラの戦乙女に選ばれ、第二の人生を始めたわけです。


「こんなに若返るものだから、バルマードのところにも戻れなくて、仕方なく夢の中限定で会っているんです。それでどうして私を、初めてバルマードに会ったあのお屋敷に連れて来たんです?」


 そんなお母様に、私はいたずらっぽく笑みを浮かべる。


「それはもちろん、お母様にお説教をするためです。ただの説教では、お母様には通じませんので。あの屋敷で、初めてお父様と一緒にコーヒーを飲む相手を、過去のお母様ではなく、私、もとい、エストさんにして、お母様の出会いをなかったことに」


 その時、私は初めて、お母様の真っ青な顔を見た。


「そんなことしちゃダメーっ! だって、あそこで私とバルマードが出会わなかったら、ローゼもウィルもいなくなっちゃうじゃない。そんな悲しいこと耐えられません!」


 ーーその言葉に、どこかホッとする私がいた。




 私はエストさんの【時の権能】を使い、再度、お父様の部屋の前へともどる。


 お母様は戻るなり、部屋をこっそり覗き込み、お父様の夢に入る隙を窺う。

 その姿はあまりに滑稽だけど、今のお母様には姿を隠す能力があり、普通の者では見ることはできない。

 でなければ、こんな間抜けな侵入者、すぐに追い出されてしまいますもの。


 エストさんと入れ替わって良かったこと。

 それは彼女が秘める力の真の価値に気付けたことです。

 この力を魔王に狙われ、実家であるアリスタ侯爵家を失ったエストさん。


 そんな彼女の一番の理解者でありたいと、私は強く決意する。


「さて、エストさんが目を覚ます前に、元に戻っておきましょう」




   ◇◇◇




「ふわーっ、なぜかローゼさんになった夢をみてしまった」


 朝になると、私は豪華なベッドの上で目覚めた。

 昨日はローゼさんとの話が盛り上がったところから、記憶がないんだけど。


 身支度を整え、食堂に向かう廊下を歩いていると、バルマード様に出会った。


「おはようございます!」

「い、いやぁ、おはよう、エストちゃん。えっと昨日は良く眠れたかい」


 バルマード様の声は少しぎこちなく、いつも堂々としてる雰囲気とはどこか違う。

 そわそわしているような⋯⋯?

 私が首をかしげていると、バルマード様がふいに話しかけてきた。


「私でよければ、いつでもクマのぬいぐるみになるからね。いつでも、言うんだよ」

「クマのぬいぐるみってなんですか?」


 私の素直な質問に、バルマード様は一瞬目を丸くした。


「え、そうなの? 私の勘違いなら気にしないでくれると嬉しいな」


 バルマード様はいつもの落ち着いた笑顔に戻る。

 その瞬間、廊下の向こうからローゼさんが現れた。


「さきほど、お話しが聞こえたもので。お父様は、私のクマのぬいぐるみにはなってくれるのでしょうか?」


 ローゼさんの言葉に、バルマード様が思わず噴き出した。


「ブハッ! ローゼ、何のことを言ってるんだい?」

「あら、私にはあのことをヒミツになさるのですね」


 ローゼさんがいたずらっぽく微笑みながら、珍しくバルマード様の腕に抱きつく。

 バルマード様は少し照れたように頭をかき、「たまに、だよ」と小さく答えた。


 それを聞いたローゼさんが、嬉しそうに微笑んで、私にウインクしてくる。

 彼女の笑顔はまるで陽だまりのようで、私も自然と頬が緩んだ。


 私たちは軽い足取りで食堂へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ