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ハズレ令嬢に転生したけど、悪役令嬢と親友になって活躍したら聖女に持ち上げられました  作者: アヤコさん
第2章 聖女の兆し

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56 黄金の奇跡

「ごめんなさい、グランハルト。こんなことにあなたを巻き込めないわ」

「教会とやらは、一体どんな難題を押し付けてきたんだ! 俺も関係してるのはわかっている。最近、やたらと視線を感じるようになったからな」

「⋯⋯言えないわ、あまりにも無茶すぎるもの」


 グランハルトは彼女が隠すように抱えていた密書を、半ば強引にとりあげる。


「くっ、この国でも魔王討伐の話か。魔王はこの世界に一人じゃないのか!?」

「なにを言っているの?」

「⋯⋯とにかく、これに従うしかないなら、俺も行かせてもらうぞ」


 一度魔王と戦った経験を持つ彼は、厳しい戦いを覚悟する。


「約束してくれ。この戦いが終わるまで、必ず俺のそばにいること。ようやく帰る場所ができたんだ。厄介ごとを片付けたら、また二人でここに戻ってこよう」

「あなたを巻き込んでしまってごめんなさい。⋯⋯でも、本当にありがとう」


 それから、「共に挑む」と約束した二人は、教会が用意した監視役の冒険者たちと共に、幾つものダンジョンに挑み、実力を磨いていった。


 その活躍に目を付けた教皇は、野心を膨らませる。

 帝国が窮地に陥った隙を突き、教会の権力を皇帝に匹敵するものへ押し上げようと画策していた。


 そして教皇は、最難関とされる「災禍の剣廟」への挑戦を二人に強要する。


 切り立つ断崖絶壁を抜け、たどり着いた入り口は、不穏な空気の漂う場所だった。

 アンリエットはすぐに、引き返すように警告する。


「いくら聖剣をバルマード様に渡したくないからって、私たちが無理に行くことはないわ。ここからは嫌な予感しかしないもの」

「君がそう言うなら引き返そう。たかが剣一つでなにも変わるものか。それに魔王なら、⋯⋯いや何でもない」


 しかし二人の活躍によって、異常なレベルアップを果たした監視たちは、その快進撃を己の実力のように勘違いをしていた。


「教会の意向に背くなら、聖女の裏切りとして報告するぞ。怖気付いてるんだったら、そこでじっと待ってるんだな! 俺たちで聖剣を手に入れて、二度と故郷に戻れないようにしてやる」


 グランハルトはすぐにでも、監視たちを叩き潰してやりたかった。

 教会が狡猾だったのは、彼らに与えた魔道具自体に監視能力があることだ。

 何かが起これば、その責任はアンリエットに向けられる。


「もう貴様らに構ってやる気はない。今度、彼女に軽口を叩いたら、魔道具ごと切り捨てるぞ!」


 彼の言葉を鼻で笑った監視たちは、われ先にとダンジョンへ潜った。


 だが、そこは予想を超えた死地だった。

 聖剣には倒された魔王たちの怨念が宿り、内部は恐るべき魔物の巣窟と化していた。


 監視たちが次々と行方不明になる中、グランハルトは彼女の加護と共に、迫り来る敵を打ち倒し、ついにボスである邪龍の討伐を果たす。


 グランハルトが聖剣に手を伸ばしたその瞬間、アンリエットがとっさに彼を突き飛ばした。


「それに触れては駄目ッ!」

「ア、アンリエット!?」


 彼女は聖剣に宿る呪いを一身に受け、瞬く間に精気を奪われ、その姿は老婆のように変わってしまった。


 聖剣は悪意に満ちた呪いの刃だったのだ。

 それ以来、彼女の時間は止まったかのように、今に至っている。




   ◇◇◇




 ほどなくして、トントンと玄関を叩く音が聞こえた。


「アンリエットさん。こんにちは、エストです」


 エストの声が聞こえると、グランハルトはそっと裏口へ向かおうとした。

 だが、その腕をアンリエットにがっちり掴まれる。


「せっかく来てくれたんだから、エストちゃんに会って行きなさいよ。あの子は子供たちのために、本当に良くしてくれるんだから」

「今はなんとなく気まずくてな、少し外の空気を吸いたい気分なんだ」


 彼女は外見こそ老婦人だが、声は若々しく澄んでいた。

 グランハルトは振り解こうともがくが、アンリエットには敵わず、諦めたように肩を落とす。

 彼女はエストに聞こえるよう、玄関へ呼びかけた。


「空いてるから、入っていらっしゃい」


 ドアが開き、エストとローゼの二人が顔を覗かせた。

 アンリエットの姿に、先にエストが声をかける。


「少し疲れた感じに見えますが、もしかして休んでいました? だったら、出直します」

「私は大丈夫よ。それより、二人に見てほしい人がいるの。特にローゼお嬢様だったら、彼のことを知ってるかもしれないし」

「では、お邪魔しますね」


 アンリエットは二人をレオクスの元へと案内する。


 ベッドに横たわるレオクスを見たエストは目を丸くし、さらにそのそばに立つグランハルトに気付いて二度驚いた。


「いったいレオさんに、何があったんですか!?」


 アンリエットが静かにその経緯を語り始めた。

 森での襲撃、刺客との戦い、白姫ロゼリアの介入、そしてレオクスの命をつなげた応急処置。

 話を聞くエストの瞳が不安に揺れる。


「そんなことが! 魔法が効かない毒って、本当に大丈夫なんですか!?」

「解毒に効く薬湯は飲ませたのだけど、私ができるのはそこまで。後は彼の体力を信じるしかないの」

「そ、そんな⋯⋯」


 エストが狼狽える中、ローゼがそっと彼女の肩に手を置いた。


「こういう時こそ、冷静になりましょう」


 ローゼの言葉に、エストの焦りが少しずつ溶けていく。

 彼女はエストを落ち着かせながら、静かに問いかけた。


「エストさん、初めて魔法を使った時のことを覚えていますね」

「はい、もちろんです」


 二人がそっと指先を重ねる。

 ローゼがエストに魔力を流し始めると、エストはその無限にも思える潮流を感じ取った。

 そして、確信を持ったようにつぶやく。


「あの時の魔法を使えば良いんですね」


 ローゼがうなずくと、エストからまばゆい光が溢れ出した。

 それは前回とは明らかに違う、黄金の煌めきを放つ神聖な輝きだった。


 ローゼはその力に違和感を覚え、心の中で(時の権能!?)とつぶやき、瞳を輝かせる。


 その圧倒的な光に、グランハルトもアンリエットも目を奪われる。

 そして、エストの声が奇跡を呼び起こした。


「『エクスキュア!』」


 レオクスに天使の羽根のような光輝が降り注ぐ。

 彼は静かに瞳を開くと、まるで天界の使者が現れたような光景が広がった。


「エ、エストさん!? ⋯⋯まるで天使のようです」


 レオクスの言葉通り、その場にいた全員に、エストの背中に翼が広がっているかのような幻影が見えた。

 光が消え、レオクスが半身を起こすと、彼は穏やかに感謝を述べた。


「ありがとうございます、エストさん。身体を蝕むような苦しさが、嘘のように消えました」

「良かったです! でも、私だけじゃなくて、ローゼさんがたくさん力を貸してくれたんです」

「私はエストさんの背中をそっと押しただけですよ。レオさんの危機を救ったのは、ここにいるアンリエットさんとエストさんです」

「ローゼさんもありがとうございます。ところで、その恩人というアンリエットさんはどちらに?」


 エストはレオクスの笑顔に、瞳に涙を浮かべ、その心は安堵で満たされる。

 だが、その感動も束の間、さらなる驚きが彼女を襲った。


「アンリエット! 君の呪いが解けているぞ!」


 グランハルトの叫びに、アンリエットが自分の手を見下ろす。

 そこには、老人の皺だらけの肌ではなく、瑞々しい若さを取り戻した手があった。


「うそ、羽が生えたように身体が軽いわ! どうなっているの!? 身体の中から神聖力が溢れ出すようだわ」


 彼女の驚嘆に、グランハルトの顔に安堵が広がる。


「ああ、間違いない。あの日の聖女アンリエット、そのものだ」


 ローゼはアンリエットに手鏡を渡して微笑むと、静かにつぶやいた。


「奇跡が起こって良かったですね、レオさん、アンリエットさん」


 レオクスはエストの手を優しく握り、「ありがとう」と伝えた。

 アンリエットも彼女の手を両手で包み込み、「本当にありがとう、エストちゃん」と感謝を重ねる。


 エストはレオクスの回復を喜びつつも、アンリエットの変貌に頭が追いつかない様子だった。


「いつものレオさんに戻ったようで、良かったです! でも、目の前にいる、同い歳ぐらいの女の子が、本当にあのアンリエットさんなんですか!?」

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