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51 広がる夢

 みんなで作ってきた場所だけど、客として見ると、いつもと違う視点で新鮮に感じる。

 テラスの周りには、色とりどりの花が咲き乱れてて、まるで絵に描いたように華やかだ。


 香り高いコーヒーと、アイスが美しく盛られたデザートグラスが運ばれてきた。


 一口含むと、シルクのように滑らかな口当たりで、最初にナッツやカラメルのまろやかな甘さ、次に柑橘系の爽やかな酸味が広がる。

 ローストしたカカオやチョコレートのような甘い余韻が鼻を抜けた。


「生徒会室でもいただきましたが、バルマード様のコーヒーを手軽に飲めるのはいいですね」


 レオさんがクッキー&クリームを口に運ぶと、目を細めて幸せそうにした。


 私もアイスを味わって、「やっぱり美味しい!」ってうなずいた。

 クッキーのサクサク感とクリームのまろやかさが絶妙で、コーヒーの苦味と合わさると最高な気分。


「この組み合わせは初めてですが、本当に美味しいですね。コーヒーとの相性も抜群ですし、なるほどお店が流行るわけです」

「このアイスも美味しいですが、新しく追加した苺や桃、オレンジにキャラメルもおすすめです。レオさんはどれが好きそうです?」

「桃が気になりますね。甘いものが好きなので、エストさんのおすすめなら間違いなさそうです。ちなみにどれがお好みですか?」

「私は苺とか好きですよ。甘酸っぱさがコーヒーと合って、後味もさっぱりします。マリスたちと一緒に試作した時、みんなで味見して大盛り上がりでした」


 レオさんはアイスクリームがお気に入りみたいで、「エストさんは、こういうアイデアがすごいですね」って嬉しそうに話した。


「もしカフェで何か新メニュー出すなら、どんなのがいいと思います?」

「⋯⋯そうですね。フルーツを使った焼き菓子なんてどうでしょう? 苺のタルトとか、コーヒーと一緒に食べたら美味しそうです」

「それはいいですね。みんなと相談して、試してみようと思います。レオさんがそう言うなら、きっと人気が出るはずです」


 私がレオさんの提案を試してみたいと思っていると、「今度、公爵家のキッチンをお借りして、一緒に試作品を作ってみませんか?」って言ってくれて、つい「うん、絶対楽しいですよ」って即答した。

 一緒に何か作るって想像しただけで、こんなにも心が浮き立つのね!


「エストさんがカフェの話をするときは、いつも楽しそうで、聞いてる私まで楽しくさせられます」

「そうですか? レオさんにそう言ってもらえるなら、これからはもっといろいろ話してみますね」


 レオさんがニコッと微笑んで、「これからもたくさん聞かせてくださいね」って言ってくれて、ほっとした気持ちになった。


 レオさんって本当にすごい。

 私が話している時は聞き上手になってくれて、話題が尽きると、新しい話を振ってくれる。


「私は本を読むのが好きで、自分で作ったお菓子を食べながら読みふけると、読書がはかどります。夜でも冒険小説に夢中になったりして、つい時間を忘れてしまいますね。エストさんは、どんな本を読まれますか?」

「えっと、公爵家の図書館でよく借りて読んでいます。恋愛小説が特に好きです」

「恋愛小説ですね、どんなの物語が好みですか?」

「ハッピーエンドで、ドキドキするのが好きです。幸せなお話って、読んでるこっちも幸せになってきますから」

「私も試してみますね。良かったら今度、おすすめを教えてください」


 レオさんと話していると、時間があっという間に過ぎる。


 コーヒーのおかわりを飲み終える頃には、陽が少し西に傾いてて、テラスに差し込む光が柔らかくなっていた。


 レオさんが、「外でもこれだけ楽しいなら、店内はもっと賑やかなんでしょうね」って言ったから、私が案内することに。

 店内に入ると、木の温もりが感じられる内装に、客の多くが話に花を咲かせていて、雰囲気の良さが伝わってくる。


 コーヒードリッパーやサイフォンが並ぶ場所を抜けて、カウンター近くのケーキケースとアイスクリームケースへ。

 ガラス越しに苺のピンクやオレンジの鮮やかさが目を引いて、私はつい「可愛い」ってつぶやいた。


「アイスのケースって面白いですね。透明な冷凍庫内に並ぶアイスを見て選ぶのって、目移りしてしまいます」

「この時間だと結構売れてしまってますが、残ってる物も美味しいですから、次はそっちが売り切れてるかなって思うと楽しみです」

「エストさんは、スタッフと一緒に新しい味を試しているんですか?」

「はい。みんなでアイデア出し合って、試してみるのが楽しいです。レオさんも何か思いついたら教えてくださいね!」

「では、桃のアイスを提案してみます。エストさんたちが作ってくれたら、きっと美味しいことでしょう」


 私たちはテラスに戻って、コーヒーを飲み終える。


 会計に向かおうとしたら、「ここは私にまかせてください」とレオさんが店員を呼び止めて支払いを済ませてくれた。

 その自然な気遣いが素直に嬉しい。


「ありがとうございます! 次は私に奢らせてくださいね」

「そんなつもりではなかったのですが⋯⋯。でも、あなたにそう言ってもらえるなら、次を楽しみにしています」


 レオさんが微かに照れたように微笑んでくれて、私もきてよかったと嬉しくなる。

 二人で馬車に乗って、公爵邸に戻る間もたくさん話した。


「この様子だと、近いうちに次のカフェもオープンできそうですね。カフェには軽食もありましたから、朝食を済ませる方も増えそうです。午後からはご婦人や令嬢たちで賑わうでしょうし、皇都にカフェが広がるのが目に浮かぶようです」


 皇都にはいろんな食べ物が露天で売られてるけど、落ち着ける場所って、だいたい酒場か宿屋くらいなんだよね。

 私はもっと気軽に楽しめる、食堂みたいな場所があってもいいなと思って、それをレオさんに話してみた。


「食堂ですか。⋯⋯それだと酒類が提供されるようになりますので、料理が良いだけの酒場化しないとよいのですが」

「確かに、お酒がメインになると気軽な場所って感じじゃなくなっちゃいますね」


 私はレオさんの意見に感心した。

 コーヒーもお酒も嗜好品だけど、お酒だけ酔うと人が変わるから、その線引きをしっかりしないと、皇都に新しい外食の形を広めるのは難しい気がする。

 それで私はカフェの経験が生かせる今の仕事に、ますます前向きになれたんだ。




 公爵邸に戻った後、私は将来を思い浮かべながら、勇気を出して話しかけた。


「バルマード様。私はカフェが増えたら、この皇都がもっと素敵になるってそう思うんです。みんなが安心して集まれる場所が増えていけば、使用人の方たちや、騎士を目指してる人たちの故郷にも、きっと良い影響が広がっていくような、そんな気がするんです」


 緊張しながら語る私に、バルマード様は一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐに優しい笑みを浮かべてくれた。


「とても嬉しいことを言ってくれるね。エストちゃんと私で始めた夢だけど、そんなふうに広がっていけば、本当に素晴らしいことだね。それが彼らの未来に繋がるのなら、なおさら価値があるように思えるよ」


 私たちが話してると、ローゼさんが柔らかな笑みを浮かべた。


「お二人の夢ですもの、私たちにも応援させてくださいね」


 レオさんやウィル君も、その言葉にうなずいてくれる。

 バルマード様を尊敬してるからこそ、ちゃんと伝えられたことがなにより嬉しかった。

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