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46 二人の勇姿と一人の勇気

 今回まで、第三者視点になっています。

 ローゼは薄絹の仮面をつけると、エストと共にギルドのポータル装置に飛び乗り、「風咆の遺跡」へ転移した。


 ダンジョンに降り立った瞬間、パーティはすでに壊滅状態だった。

 セシリアとソフィアは怯えて膝をつき、ただ一人、ジャンだけが剣を手に立ち向かっていた。


「エストさん、助けてくださいっ!」


 ソフィアがその姿に声を張り上げる。

 二人はエストには気付くが、背後で暗躍するローゼには気付けなかった。


 ローゼが風のように動く。

 その速さはエスト以外には捉えられず、白い影が嵐を巻き起こす。


 彼女の周りに青白い魔法陣が浮かび上がり、空間が輝く。

 鋭い刃が全ての魔狼を瞬時に切り刻み、黒い霧と化して消し去った。


「エストさん、今こそ存分に力を見せる時です」

 

 ローゼは影から彼女を支えた。

 混乱するセシリアたちには、エストが全てを制しているように見えた。


 新たに現れた魔狼の群れを、素早く一掃したエストは、二人の元へと駆け寄った。


 光が淡く輝き、彼女の周りに小さな魔法陣が現れる。

 エストの流れるような魔法に、二人は目を奪われた。


「『エリアヒール』」


 白いベールがセシリアとソフィアを包み、傷が瞬時に癒える。


「みんなは私が守るから!」


 エストはホーリーロッドに神聖力を込め、華麗な棒術で残るゴーレムたちを次々と倒す。

 ロッドが光の軌跡となって敵を貫き、その姿はまるで光の戦士のように輝いていた。


 その時、ジャンがローゼの姿を目撃する。

 白いマントと仮面の麗人を見て、彼の目が驚きに見開かれた。


「白姫ロゼリア様!」


 その名を叫んだ瞬間、その気高く美しい戦いに見入られ、一気に力が湧いてくるようだった。


 その時、ダンジョンの奥から大地を揺るがす咆哮が轟く。

 ボスモンスター「嵐哭のキマイラ」が現れた!


 キマイラの咆哮が大地を震わすほどの威圧感を放つ。

 獅子の頭が雷鳴を呼び、蛇の尾が毒風を撒き、山羊の角が嵐をまとう異形が、エストたちに迫る。


 ローゼの声が静かに響く。


「エストさん、ここは私が終わらせます」


 突然、二つの巨大な魔法陣が姿を現し、剣に雷と風が渦巻き、空間が震える。


 一閃。


 キマイラが断末魔を上げ、巨体が崩れ落ちた。


 だが、その衝撃でローゼの仮面が吹き飛び、その素顔があらわになる。


 ーーセシリアとソフィアが息を呑む。


「あの伝説の白姫が、ローゼさんだったんですの!?」

「白姫の正体がローゼお姉さまだなんて、すごすぎますっ!」


 ローゼは苦笑し、マントで顔を隠す。


「ここだけのヒミツでお願いしますね。このことが知れるとアカデミーに居づらくなりますので」


 ジャンが、ローゼに敬意を込めて頭を下げる。

 憧れの白姫を前に胸が詰まり、緊張しながら声を振り絞った。


「俺はあなた様に、何をいっていいのかわからないくらい尊敬してます。ただ、二人が危険な目にあうのを放っておけなくて⋯⋯」


 ローゼがその美しい素顔をさらして、ジャンにだけ聞こえるよう、耳元でそっとささやく。


「あなたと一緒にいられた彼女たちは幸運でしたね。その勇気に私は敬意を表します」


 その美貌と温かな言葉に、ジャンは顔を真っ赤にして目を輝かせた。


「白姫様に恥じないよう、もっと上を目指します!」


 そんなジャンに応えるように、ローゼは柔らかく微笑みを浮かべた。




 セシリアとソフィアはローゼに感激しつつ、エストとジャンに深く頭を下げる。


「エストさん、あなたが私たちを救ってくれたあの勇姿は決して忘れません。これまでの自分の態度が恥ずかしくて涙がでますわ。⋯⋯本当にありがとう」


 セシリアの声から気位の高さが消え、素直な感謝がにじむ。


「ジャンさん、私たちを守ってくれてありがとう。エストさん、私はあなたの勇気に憧れます!」


 ソフィアが涙ぐみながら笑う。




   ◇◇◇





 後日、アカデミーの庭でセシリアとソフィアは、ジャンと穏やかに語り合っていた。


 エストが少し離れた場所で花壇の手入れをしていると、二人が近づいてくる。

 セシリアが柔らかな笑みを浮かべた。


「⋯⋯私はあなたを誤解していました。もし許されるなら、これからは仲良くできればと思います」

「私はエストさんみたいになりたいです。ぜひ、仲良くしてください!」


 ソフィアが目を輝かせると、エストは二人にうなずいた。


「私も仲良くしたいです」


 ローゼが木陰からさりげなく現れ、打ち解けた三人の姿に微笑んだ。


「エストさんがいてくれたから、私も安心して動けましたよ」


 セシリアとソフィアは二人に深くお辞儀すると、ジャンの元へと戻った。


「ジャンさん。あの時、あなたが決死の覚悟で私たちをかばってくれたこと、心より感謝しています」

「私もセシリアさんと同じ気持ちです!」


 二人が笑顔で感謝を伝えると、ジャンがその頬をわずかに赤らめる。


「あの時は無我夢中で、自分でも驚いてるんだ。⋯⋯二人を見ていたら、バルマード様の勇士が浮かんできて、自然と身体が動いて、今でもまだ不思議な気分だよ。白姫様の言葉に、俺は冒険者としてもっと頑張ってみたいって思ったんだ。その、俺でよければ、また一緒に行ってくれるかな」

「「もちろんですっ!」」


 エストが花壇から立ち上がって、彼らの姿を見つめる。

 ローゼがそっと隣に立ち、静かに話しかけた。


「無事に済んでなによりです。エストさんの勇姿が見れたことも良かったです」

「ローゼさんには白姫っていう、すごく綺麗な二つ名があったんですね」

「あらあら、それはここでは内緒にしておいてくださいね。エストさんに『聖女』あたりの二つ名が付いた時にでも、今度は二人で、お父様のように活躍してみましょう」

「それにしてもあの三人、前から仲が良かったみたいな雰囲気になってるのがいいですね」

「そうですね。こういう信頼で結ばれた仲間というものは、とても得難いものです。きっと、よい関係を築いていくと思いますよ」

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