45 セシリアとソフィアの苦難
今回は第三者の視点になっています。
セシリアとソフィアは、冒険者として一人前とされるDランクへ昇格したことで、自信に満ち溢れていた。
その日、彼女たちを指導してきた三人は揃って不在。
レオクスは皇室での公務に呼ばれ、ウィルとミハイルは廃教会の事件に進展があった為、その捜査にあたっていた。
二人は彼らがいない今こそ、これまでの成長を見せる時だと考えた。
魔法使いであるセシリアは、杖を握り闘志をにじませる。
「レオクス様に、私の実力を見てもらいますわ!」
回復役であるソフィアは、純粋な瞳を輝かせながら、ロッドに神聖力を込めた。
「ウィル君に、最高の笑顔で褒められたいです!」
二人はアカデミーの冒険者ギルドで出会った、Dランク以上の生徒たちと手を組んだ。
彼らの大半はセシリアの実家、レムローズ公爵家に名を売るチャンスとばかりに、欲に駆られた者たちだ。
「新たに発見された「風咆の遺跡」を制覇すれば、公爵家に俺たちの名が刻まれるぞ!」
素行の悪い生徒たちに、セシリアとソフィアはそそのかされるままに乗せられた。
そんな二人を普段から見守っていた一人の青年ジャンは、彼女たちが危ないと感じた。
彼はバルマードの教えを胸に刻んだ、勇敢で正義感の強い生徒だった。
冒険に出ようとする二人を見過ごせず、ギルドの受付嬢が警告を発したその時、彼が動いた。
「風咆の遺跡はDランクでも危険すぎます、無謀ですよ!」
受付嬢の声に、ジャンがすかさず割って入る。
「俺もパーティーに加わるよ。お嬢様たちが頑張る姿には感心してたけど、このまま放ってはおけない」
セシリアは鼻で笑い、「Eランクのあなたに何ができますの?」と見下したが、ソフィアは彼に微笑んだ。
「私はソフィアです、よろしくお願いします」
「俺はジャンだ、よろしく頼むよ」
受付嬢はジャンの姿に小さくうなずく。
彼はDランク昇格間近の堅実な人物で、その誠実さはギルドでも知られていた。
「まともな人が一人入っただけでも、少しはマシになるかしら。⋯⋯少なくとも、ペナルティを気にして救援を使わないだなんて、バカなことは起こらないはず」と、彼女は内心で安堵した。
かくして彼らは「風咆の遺跡」へと足を踏み入れた。
最初は軽やかに進んだ。
セシリアの炎魔法が「風刃の魔狼」を焼き払い、ソフィアの『ヒール』が仲間を癒す。
ーーしかし、深部に踏み込んだ瞬間、ダンジョンが牙を剥いた。
ゴーレムが三体、轟音と共に立ちはだかり、魔狼が五匹、飢えた咆哮を上げて襲いかかる。
「『ウインドカッター!』」
セシリアは連続して風魔法を放つが、魔法はゴーレムに弾かれ、素早い魔狼には当たらない。
彼女の死角から魔狼が奇襲する!
鋭い爪がマントを切り裂き、すんでのところでセシリアは身をかわした。
「えっ、 囲まれましたの!?」
ソフィアがメンバーたちに防御魔法の『プロテクション』をかける。
セシリアを襲った魔狼は魔法に弾かれ、一旦後方へと下がった。
「みんな、持ちこたえてっ」
大口をたたいていた冒険者たちは、自分たちではかなわないと思い知るや、恐怖に支配されると一気に統率を失った。
⋯⋯即席のパーティではよくあることだが、セシリアもソフィアも一流の冒険者である、レオクスやウィル、ミハイルらに支えられ、今までこんな経験をしたことなど一度もない。
冒険者たちがついに、逃げ出し始めた。
「お前らがやれよ、俺はもう限界だ!」
「こんな化け物、聞いてねえって!」
そんな彼らが魔物の群れを抜けられるはずもない。
一人がゴーレムの拳に吹き飛ばされ、重傷で意識を失う。
別の者は魔狼の突進に弾かれ、壁に激突して力尽きて倒れる。
だが、ジャンだけは違った。
味方の退却路を懸命に守っていたが、セシリアとソフィアの危機に魔物たちの前へと立ちはだかる。
強い正義感が彼を突き動かしていた。
「女の子を置き去りにして、勝手に逃げ出すなんて。後でギルドに報告してやる! さあ、お嬢様たちは早く後ろに下がって!」
ジャンは魔狼の爪を剣で受け止め、衝撃に耐えながら二人をかばう。
ゴーレムの一撃が彼の肩をかすめるも、強く剣を握り直した。
その姿が、崩れ落ちそうだった二人の心に希望を灯した。
「ジャンさん、援護します!」
ソフィアの『ヒール』がジャンの傷を癒すと、彼は体当たりで魔狼を床へと叩きつけ、そこに剣を振り下ろす!
ジャンが魔物に向けて大声で叫ぶ。
「【挑発!】」
彼は敵を一手に引き受けるスキルで、セシリアとソフィアを守る。
背中に背負った大盾を構え、その猛攻を受け止めた。
「この魔法でも喰らいなさいっ!」
その隙にセシリアは魔力を出し惜しみすることなく、無数の『ファイヤーボール』を放ち、魔物たちをわずかに押し戻す。
ジャンはスキルで魔物の群れをその場に止め、大盾で耐えながら魔狼に剣を振るった。
「ゴーレムは後回しにして、魔狼を先に片付けるんだ! ゴーレムにはほとんど魔法が効かない。先に魔狼さえなんとかすれば、動きの鈍いゴーレムじゃ俺たちには追いつけない」
彼の的確な指示に風魔法を放って魔狼の数を減らすが、セシリアの魔法が止まった。
「もう、魔力がありません!」
セシリアの魔法は限界を迎え、杖を握る手が震えた。
不意に現れた魔狼がセシリアに飛びかかり、ジャンのスキルが間に合わない!
彼がとっさに飛び出し、全身で魔狼を受け止めると、その衝撃で膝をついた。
ジャンが腰の袋から石のような物を取り出すと、ダンジョンに眩い白の光が放たれた!
ソフィアは『ヒール』の詠唱に手間取り、魔力が尽きかけていた。
ゴーレムの拳が地面を叩き、衝撃波で彼女がよろけると、ロッドが手から滑り落ちる。
ジャンは二人から距離を取ると再度、【挑発】スキルを使い、魔物の群れを引き寄せた。
彼の必死の抵抗で、二人は持ちこたえていた。
絶望が二人を飲み込む中、心の底から叫びが漏れる。
「レオクス様がいてくれたら、こんな目には遭わなかったのに!」
セシリアが取り乱し、息が荒くなる。
「ウィル君、助けて! 私、もう無理ですっ!」
ソフィアが大声をあげ、震える手でロッドを探す。
ーー彼らの不在が、こんなにも重くのしかかるとは。
二人は自分たちの未熟さを噛み締め、迫りくる敵の影に震えた。
◇◇◇
ダンジョンの深部に突入からわずか数分、壊滅の淵に立たされたその時、ジャンは迷うことなく、「発光石」を使っていた。
アカデミーや近隣の冒険者ギルドに救援要請が届く。
その時、ギルドの近くにいた、エストとローゼが異変に気付く。
ローゼは一瞬、目を鋭く光らせ、手のひらを見つめるような仕草を見せる。
ーー彼女が手に持つ『全知の書』。
そこに浮かぶ情報で、彼女は状況を把握していた。
「エストさんにもこれが見えるとは、相当レベルを上げたようですね」
ローゼの手に浮かぶ何かを、エストは見つめた。
「どうやらセシリアさんたちが危険なようです。救援を呼んだようですが、それではおそらく間に合いません」
二人の危機に、エストがホーリーロッドを構える。
「セシリア、ソフィア、無事でいて! 私が絶対に助けるから!」
「行きましょう、エストさん」
ーーローゼはアカデミーではその正体を隠し、穏やかな生徒として過ごしていたが、彼女はSランク冒険者、「白姫ロゼリア」の名で知られる孤高の存在だった。
全ての偉業を単独で成し遂げ、ダンジョンでの戦いでは白いフードをまとい、剣を手に持つ。
その姿は男装の麗人のように美しく、フードから垣間見える絶世の美貌で広く知られている。
皇都でも最強と謳われる「白姫」は、冒険者たちの憧れの象徴だった。




