44 評判
アカデミーではセシリアとソフィアの二人が、レオさんやウィル君の指導もあって、めきめきと冒険者としての腕を上げていた。
恋する乙女は本当に強いと、私も唖然とさせられる成長ぶりで、いつの間にか二人揃ってDランクへと昇格を果たしていた。
私がローゼさんと廊下で話していると、セシリアとソフィアが近づいてくる。
第一声はセシリアだ。
「あら、ローゼさんもご一緒でしたか。最近は弟のウィル君とも親しくさせていただいてますわ。将来、私やソフィアさんのお姉さまになるかもしれない方ですもの。これからも、ぜひ親しくさせていただきたいものです」
セシリアは、ローゼさんがレオさんと親しいことを知って、彼女を表面的に悪く言うことはなくなった。
ソフィアに至っては、意中のウィル君の姉ということもあって、ローゼさんを慕うようになってる。
「ローゼお姉さま、今日も相変わらずお美しいです」
「まあ、そんな。ソフィアさんだって、とても魅力的ですよ。同い年なんですし、普通にローゼで構いませんよ。お二人のこと、ウィルやレオさんが褒めていましたよ。どちらも素晴らしい才能を持っているのに、その上、努力が素晴らしいって」
ローゼさんの言葉に、二人の顔が乙女へと変わる。
「レ、レオさん⋯⋯いえ、レオクス生徒会長がそう言ってくれているのですね!」
「ウ、ウィル君が私を褒めてくれているんですか!? 誰にでも優しいから、どこまで本気にしていいかと悩んでいましたが、ローゼお姉さまの言葉で確信いたしました!」
「お二人とも親しみやすくなったと評判ですよ。レベル上げが良い結果を生んでいますね。一緒に行くと仲も深まりますし、それが気になる方となればなおさらです。特にセシリアさんは公爵令嬢でありながら、率先してギルドに通う姿が、生徒たちの模範になっています。理事長であるお父様も、さぞかしお喜びになるでしょう。もちろん、ソフィアさんもですね」
「「はい、頑張りますっ!」」
二人は晴れやかな顔で元気に答える。
立ち去り際にセシリアが、「実力を見せてもらおうと、エストさんと闘技場で一戦交えるつもりでしたが、ローゼさんがそうおっしゃるなら、より励んだ方が良さそうですね」と、私に囁いた。
ソフィアもやる気だったようで、そんな展開にならなくて本当に助かった⋯⋯。
だって神聖魔法は人前では堂々とは使えないし、かといって武器を振り回すのも、「野蛮すぎますわよ!」って二人に野次られそうで。
それにしても、さすがローゼさん。
ちゃっかりと大好きな「レベル上げ」や「お父様」のワードを絡めてるし、戦わずして勝つみたいな、そのさりげないカッコ良さを私も見習いたい。
「ところでローゼさん。ひょっとしてずいぶん前から、二人をあんな風にやる気にさせていました?」
「ええ、二人が冒険者になりたいという話を、ウィルに聞いた時から応援しようと思いましたよ。それがどんな目的であれ、結果的にお父様の助けになるのですから、応援したくなりますね」
これはすっかり、ローゼさんに乗せられてるパターンだ。
確かに強くなれる人は強くなっておいた方が良いって、ローゼさんの言い分はわかる。
バルマード様だけに大きな負担がかかるのは、私だって良くないと思うから。
ローゼさんは人をやる気にさせる達人だから、二人のランクアップがあんなに早かったのも納得がいった。
そういえば、二人で歩いていて気が付いた。
以前はローゼさんに激しい嫉妬や悪意の視線が飛んできてたけど、それがまるで嘘みたいに無くなってる。
するとローゼさんは、それが私のおかげだと言ってくれた。
「エストさんがアカデミーに復帰されてからというもの、レオさんやミハイルさんと話すことも多くなりまして。アランやミレットの一件で、お二人が私のやってることを大々的に触れ回ってくれまして、それが私の評価を大きく変えたんですよ。エストさんの機転で、素早く事件が解決できたのが良かったんです」
それからローゼさんを見習い、奉仕活動に参加する生徒も増えたらしい。
特に褒められるのが大好きな貴族令嬢たちは、子供たちが感謝するその姿に心を打たれたそうで。
アカデミーを中心に奉仕の輪が広がってると、彼女は屈託のない笑みを浮かべた。
「エストさんの手がける衣装や、カフェの評判も私にとっては追い風になってるんですよ。私とエストさんの仲は能力測定のあの日、ヒルダが目立ってくれたおかげで一気に広まりましたので」
「ヒルダの人気、すごかったですよね! 「あそこまで慕われるのは正直しんどいです」って、ヒルダが漏らしてました」
「私もヒルダは大好きですよ。お父様に何かあれば、いつでも駆けつけてくれますし。私の手合わせに付き合ってくれるのも、お父様かヒルダくらいなんです。でも、お父様には心配をおかけしたくありませんので、とても助かっているんですよ」
ヒルダって確か、アカデミー初のSランク冒険者だよね。
ローゼさんの強さが気になって、しょうがないんですけど。
「エストさん。強さというものは、そういうものだけではありませんよ。エストさんの多才さだって、十分に魅力的な武器です。現にエストさんのことを気にする男性も増えてきていますね」
うっ、ローゼさんに気持ちが伝わっちゃってた。
確かにあらためて言われると、そんな視線を感じなくもない。
アホ姫も見た目だけは良かったからね。
私がバカなことをやらなくなった今、少しはまともになってるんだ。
でもローゼさんは評判が上がっても、やっぱり高嶺の花なのね。
私も自分が見知らぬ男子だったら、さすがに声はかけにくいもの。
その点、私なら敷居も低いわけね。
「エストさんは、もっと自分に自信を持ってくださいね」
「あ、はいっ!」
いつまでもローゼさんに頼りっきりじゃなくて、もっと自分に自信を持てるようにならなきゃ!
そして私も、彼女に何かをしてあげられるように早くなりたい。
ーーだけど、この時はまだ、セシリアとソフィアにあんなことが起こるなんて思いもしなかった。