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43 幸せを少しずつ

「大丈夫だよ、マリス。事前に準備しておいた、あの椅子とパラソルをみんなに出してもらって、お客さんには少しだけ待ってもらいましょう。並んでくれてる方たちに「お待たせしてすみません」って笑顔で伝えてね!」

「さすがエストお嬢様! 私、早速みんなに伝えて、お客さんに声かけやりますね」

「私も行くから、一緒に頑張ろうね」

「はいっ」


 外にカフェテラスを作ったら、お客さんの笑顔がもっと増えていったんだ。

 マリスたちの素早い対応のおかげで、並んでたお客さんも楽しそうに過ごしてくれて、私は内心ほっとした。


「ねえ、リリア。エストお嬢様ってほんとすごいよね。いつもいいアイデア出してくれて」

「そうね、マリス。私たちにも優しく教えてくれるし、お客さんへの気遣いも素敵だよ」


 二人がそんな話をしてるのが聞こえてきて、私は少し照れてしまう。

 マリスが「エストお嬢様のおかげで働きやすいんです」って笑ってくれたのが、特に胸に残ってる。


 私がカフェに顔を出して、みんなと一緒に動いてると、ご夫人たちの間で「あのお嬢さんはどなた?」って声が上がるようになってきて。

 するとマリスたちが「共同経営者のエストお嬢様です」って答えてくれた。


「ほんと素敵な方よね。どこかのご令嬢なんでしょうけど、飾らない上に丁寧で話しやすいわ」

「そうなの。私も昨日お話ししたけど、気遣いがすごくて感動したわ」


 そんな噂が貴族の間で広がって、私の名前が少しずつ知られるようになってきたんだ。

 褒めてもらえるのは嬉しいけど、言われ慣れてないから、ちょっと照れくさい。


 皇都で流行ってるメイド服やこのカフェの衣装も、そのデザインが私ってことが、カフェでも話題になって。

 マリスが「お客さんがこの衣装を、可愛いって褒めてくれるんです」って笑顔で教えてくれた。


 私はこのウエイトレス風のドレスを、みんなに喜んで欲しいって気持ちで作ったから素直に嬉しかった。


 マクスミルザー公爵家と縁のある令嬢として知られていくのは不思議な気持ちだったけど、そんな私にお茶会の招待状が送られてきた時には、しまったッ! と思った。


 好意的なお手紙はありがたいんだけど、これは絶対ウィル君狙いだってのも紛れてて、中にはお茶会と銘打った見合い話も混ざってて、嫌だーっ! って叫びそうになった。

 そしたら、バルマード様が全てお断りを入れてくれて、本当に助かった。


 バルマード様が目立たない格好でカフェに来てくれて、「男爵夫妻を騒がしくさせたくないからね。私に任せておきなさい」って穏やかに微笑んでくれた。


 カフェの中はいつものように賑やかで、その様子をキッチンから見てたバルマード様が、私に話しかけてきたんだ。


「エストちゃんのアイデアのおかげでカフェは繁盛してるし、カフェのドレスもエストちゃんだって言うじゃないか。私は生き生きとした、君の笑顔が見られて嬉しいね!」

「ありがとうございますっ。上手く行きすぎてる気がしてましたけど、公爵家の皆さんが事前にたくさん接客の練習をしてくれたことには感謝してます! それにバルマード様の名声がやっぱり一番です」

「それはエストちゃんやマリスたちの頑張りだと思うよ。広告になってるのは光栄だけど、一番大事なのは中身なんじゃない? だよね、マリス」

「はい、旦那様! エストお嬢様のおかげで、私たち自信持って働けてるんですよ。お客さんも喜んでくれてます」


 マリスがそう応えてくれたから、私も笑顔で返した。


「ありがとう、マリス。みんなにもありがとうって、伝えておいてね!」


 笑顔でお辞儀して、マリスが表に戻っていく。

 その姿を見送る私を見て、バルマード様が懐かしそうに続けた。


「木剣の騎士相手に、素手で百人抜きしてたあの頃が懐かしいねぇ。十人くらいまとめて跳び蹴りで倒して、夜とか自在に空を飛んでたし。あの鍛錬を土台に、今の清楚で気の利くエストちゃんがあるんだろうね」

「そ、その話は! ⋯⋯あの頃は無茶して、大変ご迷惑をおかけしましたが、今はみんなのお役に立てるよう、頑張ってるつもりです」


 やめてー!

 やってた記憶がよみがえってくるーっ!


 アホ姫の過激な行動力まで一緒に戻ってこないよう、必死に堪えながら、なんとか私は平静を装った。


 でもバルマード様は、そんなアホ姫だった頃の私も気に入ってたみたいで、微笑ましい顔で私を見てくる。


「エストちゃんが今も昔も、私を愉快にしてくれるのが何だか楽しくてね。それに、こんな光景が皇都で見られるのも、君のおかげだよ」

「私もこんなにコーヒーが受け入れられたのが、とても嬉しいです!」


 すると、表からマリスたちの声が聞こえてきた。


「エストお嬢様ってほんとすごいよね。いつも冷静で、お客さんへの対応も完璧だし」

「うん、リリア。私たちにも優しく教えてくれるから、働きやすいんだ。特にマリスはエストお嬢様と息がぴったりだよね」


 二人の話を聞いたバルマード様が、私を褒めてくれる。


「私のところには、エストちゃんを褒める言葉がよく届くよ。何でも臨機応変に対応できて、接客がとても手慣れていると聞くから、君の頑張りは大きいはずだよ」

「あ、ありがとうございますっ! みんなと一緒に、お客さんに喜んでもらえるお店にしていけたら嬉しいです」

「エストお嬢様のおかげでお客さんが笑顔で帰ってくれるんです。私たち、感謝してますよ。特に私、エストお嬢様と気持ちが通じ合ってる気がして、毎日楽しいです」


 マリスがそう言ってくれて、私は胸が温かくなる。


 その時、バルマード様が淹れたてのコーヒーを手に持って、静かに微笑んだ。

 私はその姿を見て、思ったんだ。


 紅茶が主流の中で、あえてコーヒーを選んで、貧しい人たちに新しい道を切り開こうとしたバルマード様の優しさって、本当にすごいなって。

 人々のことを思うその気高さには、ほんとうに尊敬しかない。


 私がこのカフェでコーヒーを淹れて、みんなの笑顔を見られるのも、バルマード様の想いを少しでも形にできてるってことだよね。

 そう思うと、バルマード様の夢にわずかでも力になれたらって気持ちが溢れてくる。


 カフェは少しずつ、みんなに幸せを届けてるんだ。

 いつかもっとたくさんの人に広がればいいなって、心から願ってる。

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