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41 待望のカフェ

 待望のカフェが皇都レトレアにオープンして、貴族令嬢やご夫人たちで賑わってる。


 バルマード様が用意してくれたこの場所で、みんなが笑顔になってくれるのが、私には何より嬉しい。


 建物選びから店内のレイアウトまで、色々考えたものが、みんなの力で想像どおりの形になっていった。

 ここまで完璧に仕上げてくれたことには、本当に感謝しかない。


 公爵家から志願して来てくれた、若くて頼りになる使用人たちには、接客のコツやコーヒーの淹れ方、ドリンクの出し方を丁寧に教えたつもりだけど、みんなの飲み込みの速さには、もうびっくりだ。


「エストお嬢様、このコーヒーの香りほんとすごいです! お客さんも喜んでますよ」


 そう笑顔で言ってくれるのは、ここで最初に仲良くなったマリスだ。


「ありがとう、マリス。あなたが上手に淹れてくれるから、私も感謝してるよ」

「そんな、エストお嬢様がちゃんと教えてくれたおかげです。私、もっと頑張りますね」

「もちろん頼りにしてるよ。でも、あまり気を張りすぎないでね、一緒に素敵なお店にしていこうよ」


 バルマード様がカフェの経費を全部負担してくれてるだけでもありがたいのに、私が発案者だからって、売り上げからロイヤリティを頂ける話になった。

 最初は遠慮したんだけど、バルマード様がこう言ってくれた。


「私は自分の趣味が、カフェという一つの形になっただけで満足してるんだよ。だからエストちゃんが、カフェを持てるようにその資金を貯めて欲しいんだ。私が譲ると言っても、エストちゃんの性格では、きっと遠慮してしまうよね?」


 私にちゃんとした形で店を任せたい、って気持ちが伝わってきて、ありがたく受けさせてもらった。

 いつかスレク男爵家で、皇都の一等地にカフェを持てるかもって想像するだけで、こんなすごいことはないよね!


 もちろん一番に両親やヒルダ、マリーたちに話した。


 みんな心から喜んでくれて、二人は「私たちもカフェを手伝いたい!」って言ってくれて、それがたまらなく嬉しかった。


 その心強さに背中を押されて、店名を決める時、私はバルマード様に「ぜひ決めてください」ってお願いしたんだけど、「名前よりもコーヒーが好まれるようになれば、それで満足だよ」って、穏やかに笑ってくれた。


 そこで私が「皇都の名前を取って『レトレアンカフェ』はどうですか?」って聞いてみたら、それに決まったんだ。


 バルマード様は、利益よりコーヒーが広く知られることを楽しみにしてるみたい。

 私も、紅茶が主流の帝国で、少しでもコーヒーを好きになってもらえたらって思ってる。


「エストお嬢様、旦那様ってほんとすごいですよね! こんな素敵な飲み物をご領地で前々から栽培してたなんて」


 マリスが感心した顔に、私はうなずいた。


「私もそう思うよ。その気持ちに少しでも応えられたらいいよね!」


 バルマード様の領地には多くのコーヒー農園があって、今も手を広げてるんだって。


 公爵家を訪ねると、もはや第二の我が家に帰ってきたみたい。

 なんとも居心地のいい場所にしてくれてて、ほんとうにありがたいんだよね。

 たくさんの使用人さんたちとも、すっかり仲良くなれたし、これからもっと気楽で親しい関係になれたらって思ってる。


 そんな中、私を部屋に招いてくれたローゼさん。

 彼女の部屋には何度も入ってるけど、毎回、お姫様みたいに美しい室内に目を奪われてしまう。


 今日は私のためにいろんなお菓子が用意されてて、紅茶とコーヒーがどっちも揃ってたの。

 ローゼさんのこの気配りを、私も見習いたい。


「お父様の見よう見まねですが、エストさんに楽しんでもらえたら幸いです」


 紅茶を淹れるのは何度も見てきたけど、コーヒーを淹れるローゼさんの姿は初めてで、その綺麗な所作に、つい見とれてしまった。


 白く美しい指先が動くたびに、カップから芳醇な香りが漂ってきて、私はそっと口をつけた。


「うわぁ、ローゼさんが淹れるとコーヒーまで一段と美味しくなっちゃうんですね!」

「そう言ってもらえると嬉しいです。良かったら、お菓子の方も召し上がってくださいね」


 ローゼさんが差し出してくれたお菓子を見て、私は思わず笑顔になった。

 だって、ローゼさんのお菓子はお世辞抜きに絶品なんだもの。


 ローゼさんと会うたびにお菓子をいただいてるけど、カフェを始めた今、公爵家のパティシエが作るどのお菓子と比べても、断然美味しいの!

 パティシエに聞かれたらまずいから、絶対言えないけどね。


 このお菓子を初めて味わってから、私はローゼさんの作る物に吸い寄せられるようになってしまってる。


 ちゅっ、中毒じゃないからね!


 この味をカフェに出せたらって思うけど、そうしたらカフェが、ローゼさんのお菓子屋さんになっちゃうんじゃないかってくらい、ほんとうに最高。


「いつも美味しそうに食べてくれるエストさんを見ていると、なんだか幸せな気持ちにさせられます」

「ローゼさんのお菓子作りってもう天才の域で、こんなに美味しい物を他に食べたことがないです。私のなかでは、この世の中で一番美味しいものが、ローゼさんの作るお菓子なんです」

「うふふ、おだてても何も出てきませんよ。実はお菓子ならもっと出せるんですが」


 うっ!

 ローゼさんのことだから、たぶん【収納空間(アイテムボックス)】に相当ストックしてるよね。


 食べきる自信があるから怖いんよね。

 食べたいけども!


  ⋯⋯やっぱり私は、ローゼさんのお菓子に抗えない身体にされちゃってるのね。

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