40 強敵
巨大な尾が振り下ろされ、恐怖が全身を凍りつかせるような感覚が迫ってくる。
レオさんが「エストさん!」って叫んで庇った瞬間、尾が空気を切り裂いて直撃寸前。
私が『ホーリーランス』を尾に向けて放つと、ドラゴンが怯んで動きが止まる。
ウィル君が炎魔法を岩壁に放ち、崩れた岩がドラゴンの翼を直撃。
咆哮が響き、動きが鈍る。
私は『ディバイン・ブレッシング』を放ち、みんなの攻撃力を高めた。
レオさんが剣を振り、鱗の隙間に斬り込む。
ドラゴンは、私に黒い炎を吐き出してきた。
熱風が迫ってきて、全身が焼けるような恐怖に包まれる。
ミハイルさんが盾で私を守り、「エストさん、回復を!」と叫んだ。
私は『ヒール』で彼の傷を癒すと、彼が盾を構え直して前に出た。
「何!? こいつ、明らかにエストさんを狙ってるぞ!」
レオさんが顔を歪め、「こいつ、エストさんの神聖魔法に反応したのかッ!」と言い放つ。
ドラゴンが咆哮し、紫の光が再び閃く。
口から毒霧が広がり、地面が腐食する。
ウィル君が風魔法を操り、霧を吹き飛ばす。
私は『ホーリー・グロウ』で光を放ち、ドラゴンの目を眩ませた。
ウィル君が「エストさんの援護があれば、僕たちはやれる!」と雷と炎の複合魔法で胴体を直撃した。鱗が砕け、血が飛び散る。
私に向かってくるドラゴンを、ミハイルさんが全力で防ぐと、背後から尾が盾を強打し、彼が地面に倒れる。
ここで私が動かなきゃ! 全滅なんて絶対にさせない。
「みんな、私を信じて!」
私はホーリーロッドを高く掲げ、使える限りの神聖魔法を放った。
「『セイクリッド・シールド!』」
まばゆい光が仲間たちを包み込んで、防御力を引き上げる。
レオさんが振り返る。
「エストさん、⋯⋯この魔法!」
「まだです! 『エリアヒール!』」
光がミハイルさんの傷を癒して、彼が立ち上がり盾を構える。
紫の光がまた閃いて、ドラゴンは咆哮を上げると、ミハイルさんを押し退けながら突進してきた。
「ダメだ、抑えきれん! 直撃を避けるんだ」
爪が地面を叩き、岩が飛び散る衝撃が走る。
レオさんが剣で受け止めるが、弾かれて後ずさる。
ウィル君が雷を重ねて目を狙うも、黒い炎が吹き荒れて剣が一瞬揺らぐ。
ドラゴンが口を開いて、私に黒い炎を溜め始めた。
空気が歪み、熱が迫ってくる。
「エストさん、逃げるんだ!」
レオさんがそう叫ぶけど、私は逃げない。
ここで私がやらなきゃ。
私はロッドを手に、ドラゴンの足元に飛び込んだ。
鱗の隙間を狙って、ロッドの先端を突き入れると手応えがあった。
ドラゴンが暴れ出し、全身を震わせるような威圧感が響く。
爪が空を切り、尾が地面を叩いて、岩が飛び散る。
私は、転びそうになりながら叫ぶ。
「みんな、お願いっ!」
レオさんの剣が無数の斬撃になって、ウィル君の雷剣が稲妻を放ちながら炸裂し、ミハイルさんが盾を捨て、両手で剣を突き立てる!
⋯⋯みんなが決死の覚悟で稼いでくれた時間は、絶対無駄にはできない!
全神経を集中できたからこそ、ここまで魔力を高められたんだ。
これまで感じたことのない激しい力に、全身に激痛が走る。
その全てを、この一撃に注ぎ込んだ。
「『ルミナス・ジャッジメント!』」
白い光が迸り、ダンジョン全体を飲み込む。
光がドラゴンを貫き、一瞬で巨体を焼き尽くす。
断末魔の叫びが響き、灰となって崩れ落ちた⋯⋯。
安堵が全身を満たし、緊張が解けた。
「⋯⋯勝った、のか?」
レオさんが息を切らして呟く。
私は膝をついて、ロッドに寄りかかった。
「うん、勝ったんだよね⋯⋯みんながいてくれたからだよ」
ウィル君が私の肩に手を置いた。
「エストさんのおかげです。まるで『戦う聖女』みたいでした!」
ミハイルさんが地面に座り込んで笑う。
「いやはや見事でした、エストさん! 俺はあの姿に惚れそうになりましたよ」
レオさんが静かに微笑む。
「本当です、エストさん。貴女は本当にすごい」
その言葉に胸が高鳴る。
でも、その時、レオさんとウィル君が同時に顔を上げた。
レオさんが剣を構え直す。
「待って⋯⋯何かいる」
ウィル君が目を細めた。
「気配の隠し方がとても巧妙です⋯⋯。もしや、何者かがドラゴンを操っていたんでしょうか!?」
暗闇の奥で、紫の光が一瞬だけ再び閃いた。
レオさんやウィル君が痕跡を追うけど、相手の方が一枚上手だったらしい。
戻ってきたウィル君が、少し悔しそうに漏らした。
「完全に痕跡が消されていました。今の僕では、気配に気付く事しか出来ず、修行不足を痛感します」
ウィル君には、きっとバルマード様の背中が見えているんだろうなって思えた。
そんなウィル君をレオさんが褒める。
「ウィル君の探知魔法の共有が無ければ、私は気付く事も出来なかったんだから。ここはもっと自分を誇るべきだよ」
バルマード様の一番弟子であるレオさんの言葉に、ウィル君も明るさを取り戻す。
自己評価の低さが欠点のウィル君を、兄弟子であるレオさんが勇気付ける。
二人が本当の兄弟みたいで、私にはちょっと羨ましく見えた。
それはミハイルさんも同じ気持ちみたいで。
「アカデミーで1、2を争う二人だけで盛り上がってないで、この勝利を皆で分かち合いましょう! もしかするとこれで俺たちに、『ドラゴンスレイヤー』なんて二つ名が付くかも知れませんなぁ」
ミハイルさんがこの偉業でみんなを盛り上げようとしたのは、私にもレオさんやウィル君にも心地よいものだった。
ただ、ヒルダの件もあって、そういう二つ名の類は遠慮したいなって思ってると、レオさんもウィル君もそう呼ばれるにはまだ早いと、やんわり断った。
「ドラゴンはミハイル君が倒したことで口裏を合わせようか?」
「それは勘弁してください。家業を継ぐ身でドラゴン退治なんて依頼されるかと思うと、新聞も恐る恐る読むしかなくなってしまう。情報を得る楽しみを取り上げないでくださいよ」
こうやって賑やかに勝利を分かち合った私たちは、笑いながらダンジョンを後にした。
みんなの過大評価かもしれないけど、こうやって一緒にいられるなら、私も少しだけ自信を持ってもいいのかなって思えた。




