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36 冷たい好物

「これは甘くて美味しいね、エストちゃん。『サイダー』って言うの?」

「あ、はい。炭酸水があったので、シロップと柑橘類の絞り汁があれば出来るかなと思いまして。桃とかいろんな果物の果汁を搾って入れても美味しいと思います」


 ウィル君はサイダーをゴクッと飲み干すとニコニコでおかわりを求めてくるし、ローゼさんは一度飲んだ事があるような感じで、久しぶりにじっくり味わってる様子だった。


 私が炭酸水の出所を聞くと、バルマード様が「屋敷から近い場所の鉱泉から湧き出している」って教えてくれた。


「カフェにサイダーを置くのはどうでしょう」って聞いてみたら、バルマード様は「それは面白い」って納得してくれた。


 男爵家にあった冷蔵庫を思い出すと、あれはどういう仕組みで動いてるのか気になって聞いてみた。

 するとこの世界じゃ家電の代わりに魔道具が使われていて、魔鉱石に魔法を付与する事で、冷蔵庫どころか冷凍庫や製氷機まで作れるって、バルマード様が教えてくれた。


「氷まで作れるんですね! でしたらアイスコーヒーもカフェで出せますね」


 バルマード様が「アイスコーヒー?」とピンと来ていなかったので、私は再びキッチンを借りてアイスコーヒーを三杯分作って持ってきた。

 ウィル君の分にはシロップと蜂蜜を入れてうんと甘くしてある。


「初めて飲むけど、こうやって飲むのも良いものだね。もちろん美味しいよ、エストちゃん」

「このコーヒー、甘くて冷たくてとても飲みやすいですね!」


 バルマード様とウィル君の反応は上々で、ローゼさんはゆったりとアイスコーヒーをストローで味わって飲んでる。


 マクスミルザー公爵領には良質な魔鉱石が採れる鉱山があるらしく、カフェに冷蔵庫や製氷機を置くのは簡単みたい。


 私がパティシエを呼んでもらって、アイスクリームの作り方を書いたメモを渡すと、 「冷凍庫で冷やして、みなさんに振る舞って欲しい」って頼んでみた。

 アイスクリームが好きだった私は、前世でよく動画を参考にして冷凍庫で作ってたから、いくつかのレシピは完全に暗記してた。


 バルマード様が「手間のかかるデザートなんだね」って言われるから、「明日の朝食を楽しみにしてください」って笑顔で答えた。


 アイスクリームとジェラートの差は主に空気の混入具合で、私はジェラートの作り方も覚えている。

 ジェラート店にあるような、透明なガラスで中が見えるアイスクリームケース。

 あれって魔道具で再現できないかな?


 そう思って、テーブルの上にササッとイラストを描いてみて、ローゼさんに聞いてみた。

 すると、ローゼさんがニコッと笑って答えてくれた。


「できると思いますよ。そんな素敵なケースに並んだアイスたちを眺めると想像すると、目移りしちゃいそうですね」


 その言葉を聞いて、私の中でピンときた。


 あ、そっか。

 ローゼさんって、いろんな魔法を使える上にお菓子作りもあんなに上手なんだもん。

 アイスコーヒーとかアイスクリームだって知ってても全然不思議じゃないよね。


 確かに目移りしちゃうよねっ! 私だって、カラフルなジェラートの中からどれを盛ろうか悩んだもの。


 バニラにチョコチップ、ストロベリーにクッキーアンドクリームとか、私の大好物ばっかりだし。

 将来、何種類も作れたら絶対楽しいよ!


 そうこうしてるうちに、テーブルにキャラメルのミルフィーユが運ばれてきた。

 すると、香ばしいコーヒーの香りが食堂にふわっと漂ってきた。


 バルマード様が新しくブレンドしたコーヒーが届けられて、私がカップを口に運ぶと、酸味が少なくてフルーティーな味わいが広がった。

 濃厚なミルフィーユとの相性が抜群すぎて、思わずうっとりした。


「このコーヒー、口当たりがすっごく滑らかで甘みもあって美味しいですね」


「熱帯高地で採れる豆をブレンドしたものなんだ。エストちゃんにそう言ってもらえたら何よりだよ」


 バルマード様が穏やかに笑う。

 その笑顔を見ながら、今日の話題は終始カフェのことばっかりだったけど、私は街にカフェがあったらどんなに素敵だろうって想像してしまう。




 そんなことを考えていると、バルマード様がゆっくりと思い出話を語ってくれた。


 若い頃のバルマード様が、皇都で最も美しい『レトレアの薔薇姫』と謳われた奥様と初めて意気投合したのが、コーヒーの話題だったんだって。


 不思議な話だけどバルマード様が眠りに就くと、数日に一度は夢の中に奥様が現れるらしい。

 初めて出会った頃の美しい姿のままで。


 夢で片付けるにはあまりに鮮明すぎるその姿は、最愛の奥様を失った失意からバルマード様を立ち直らせてくれたそうだ。


 夢の中で楽しい会話をしたり、子育ての相談をしたり。

 もう十数年も会いに来てくれるなんて、とてもロマンチックな話だよね。


 朝、目が覚めても奥様とのやり取りを全部覚えてるから、朝のコーヒーが格別に美味しく感じるんだって。


 バルマード様は私と話しながら、コーヒーを出すお店のことを考えるのがすごく楽しかったみたい。


 皇都にはバルマード様が持ってる建物がたくさんあるから、出そうと思えばすぐにでもカフェを開ける準備は整ってるそうなの。

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バルマート様素敵…
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