31 盛大な歓迎!?
アカデミーに通い始めて、だいぶ慣れてきた頃。
私は窓からの眺めが最高な生徒会室で、学園一のイケメン二人から盛大な歓迎を受けていた。
レオさんとウィル君の強い要望で『生徒会長及び副会長・専属書記』っていう、舌を噛みそうなほど長い役目がまわってきたのだ。
「エストさん! 生徒会長専属書記の就任おめでとうございますっ!」
晴れやかな笑顔のレオさんが、色とりどりの豪華な花束を差し出してきた。
その麗しい顔に瞳を輝かせて迫ってくるものだから、私は思わず圧倒されちゃって。
「あ、ありがとうございます」
なんとかそう返すのが精一杯。
すると、横からウィル君が肩でレオさんをグイッと押し退けて、私の前に立つ。
今日に限って、いつもより眩しすぎる笑顔でこっちを見上げてきて、いきなり私の手をブンブン振ってきた!
「エストさん、副会長専属書記就任おめでとうございますっ!」
ウィル君は制服のポケットから指輪ケースを取り出すと、片膝をついてそれを差し出してきた。
ちょっと待って、これって何!?
その一部始終を遠くで見ていたソフィアとセシリアが、慌てて駆け寄ってくる。
次の瞬間、私の両腕がそれぞれガシッと引っ張られた!
「痛たたっ! ちょっと力入れすぎだって!」
目を血走らせたセシリアが、ぜえぜえ息を切らしながら私に詰め寄る。
「あらあら、これは我が家に伝わる歓迎の挨拶ですわ。あの尊い箱をあなたになんて渡すものですかっ!」
そんな伝統があるかー! 後半、まんま本音じゃない。
ソフィアもギラつく目でウィル君の手元の箱を睨みつけ、腰に力を入れてググッと私を引っ張る。
「セシリアさんの言う通り、これが私たち盛り上げ役員の仕事なのです。手に入れる困難が増すほど、手に入れた喜びも増すというものでしょ? その箱を受け取るのは私なんだからッ!」
私が知らないうちに、あんたたちどれだけ意気投合してるのよ!
そんな無様な修羅場を繰り広げる私たちの前に、レオさんがスッと現れた。
「盛り上げ役員、頑張ってますね。でも、エストさんが痛くないように手加減してあげてくださいね」
黒髪の貴公子の微笑みにソフィアとセシリアは頬を赤く染めて、乙女の顔で揃って返事をする。
「はい、レオクス生徒会長!」
待ってレオさん、これ絶対そういうのじゃないですって。
レオさんはウィル君の方に振り返ると、ちょっと引きつったような笑顔を浮かべた。
「ウィル君、それを渡すにはいくつものステップを飛ばし過ぎじゃないかい? そういうことは成人した後でも全然遅くはないと思うんだよ」
ウィル君の持つ箱にゆっくり手を置くレオさん。
あれ、何だか二人で張り合ってる?
「レオさん、意味がわかりません。どうして僕のプレゼントを邪魔するようなことを。僕の知るレオさんは、もっと紳士で物分かりのいい人なのに」
レオさんがピリついている理由はわからないけど、ウィル君のプレゼントが間違ってるのは私でもわかる。
だって盛り上げ役員たちに、腕を引きちぎらんばかりの勢いで引っ張られてるから、顔が赤くなってるんじゃない。
あの箱の中身を考えただけでもう頭が沸騰しそうなくらい、ドキドキが止まらないけど、どうしてこのタイミングで!?
「何か誤解があるようですが、これを渡すのがそんなにいけませんか?」
ウィル君が箱の留め具を押してパカッと開く。
それを見たレオさんは、アハハと笑って誤魔化すように生徒会長席へと戻っていった。
私を引っ張り続けてた盛り上げ役員たちも、急に手を離して中身を確認すると何事もなかったようにしれっと口笛を吹きながら自分たちの席へ戻っていく。
ウィル君が開けた箱の中に入っていたのは、綺麗な造花の小さなブローチ。
そう、それはアホ姫だった頃の私の出現率を大幅に下げるという、造花のくせにすぐ枯れてしまう消費アイテム『想いのロゼット』だ!
本来は恋のライバルを減らすためのものだけど、アホ姫除けの効果の方が注目されてた⋯⋯。
「あれ? これが女生徒の間で取り合いになるほど人気で、全然手に入らないと聞いたので、最高の彫金職人と錬金術士にお願いして、ブローチにしてもらったのですが」
ちなみにこれの通常版はアカデミーの購買部で普通に売ってる。
そりゃ、私はもうアホ姫じゃないんだし被害もゼロなんだから、前ほどの人気はないよね。
「エストさん。もし良かったら、これをあなたの胸元に飾る栄誉をいただけませんか?」
純真な眼差しで見つめてくるウィル君のお願いを、私なんかが断れるわけがない。
⋯⋯たとえ、それが何かを知っていてもだ。
ウィル君の思いやりで溢れたブローチを受け取るんだもの!
「はい、お願いします⋯⋯ウィル君」
ウィル君が吐息がかかる距離で、私の胸元に触れてくるそのシチュエーションだけで、身体中が火照ってくる。
恥ずかしさに目をつむると、ウィル君の綺麗なルビー色の髪から甘い桃の香りが漂ってきた。
「終わりましたよ、エストさん。とてもよくお似合いです」
その言葉に目を開けると、そこにはお花畑を背景にしたようなウィル君の尊い微笑みが浮かんでいた。
白磁のような美しい頬が淡い桜色に染まって、それはまさに天使の降臨だった。
と、その時! 背後から「グハッ」とソフィアとセシリアが深手を負ったようなうめき声を上げた。