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03 エストの変化とローゼの思惑

 今回は、ローゼの話になっています。

 エストの態度が一変してから、そろそろ一か月が経とうとしていた。


 その変化を静かに見守る者がもう一人いた。

 帝国一の美姫、ローゼ・マクスミルザー公女だ。


 豪華な私室の天蓋付きベッドに腰かけ、薔薇色のネグリジェに身を包んだローゼは、優雅に頬杖をついていた。

 純白の長髪が肩を滑るたび、初雪のような清らかさと甘い香りが漂う。


 彼女は、不思議な輝きを放つ書を眺めながら呟いた。


「あら、エストさん。『アホ姫』の汚名を晴らそうと、ずいぶん頑張っていらっしゃるのね」


 エストとローゼの間柄はこうだ。


 愛らしい弟ウィルを守るため、まとわりつく虫を優しく払う姉。

 ただし、彼女は幼馴染のエストを嫌ってはいない。


 ローゼはその無謀な行動を、スリッパで追い返しながらも、どこか微笑ましく思っていた。


 自由奔放で率直なエストの姿は、貴族社会の建前を煩わしく思うローゼにとって、時にまぶしく映った。




 乙女ゲーム『レトレアの乙女』では、ローゼは悪役令嬢。


 美貌と知性が貴公子たちを惹きつけ、帝国に混乱をもたらす魅惑の姫。


 だが、彼女が「悪女」と呼ばれるのは、公爵の娘という高貴な立場と完璧な美貌が、妬みや羨望を招いたからだ。


 アカデミーでは、ローゼの輝きに誰もが心を奪われたが、その完璧さゆえに彼女は孤立していた。


 貴族の令嬢たちの陰口は、彼女の耳にも届いていた。


「あの美しさ、いかほどの飾り立てかしら?」

「公爵家の娘だからと、何もかも許されると信じているのね」


 そんな囁きが、ローゼの周りに静かに広がっていた。


「来年、皇室主催の社交界(デビュタント)で、主役になるのは私一人で十分ですわ」


 金色の瞳を閉じ、ローゼは心を決めた。




 彼女の才は、父バルマードさえ驚くほどだ。


 幼少から剣と魔法を学び、異界の敵を倒した神話級の偉業を持つ。


 その原動力は、魔王との再戦を控えるかもしれない父への深い想い。

 最悪の結末に備え、彼女は今も自分を磨き続けている。


 ーー『全知の書』は、彼女が禁呪で触れた過去と未来の記録。

 一度は完成させたが、「未来を知ることは今を乱す」と悟り、力を制限した。

 未完成ゆえの不完全な輝きを放つ書物となった。


「必要な部分だけにしたら、『全知の書(未完)』なんて名前が付きましたの。みかんの絵まで描かれてて、おじさんのダジャレみたいでちょっとカッコ悪いですわ。エストさんのことは、お知らせ機能で知っただけです。私に関わるイベントが起きると、ピピッと鳴って光が点滅するんです。他人の運命を覗くのは無粋ですし、運命は自力で変えるものだと思っております」


 ローゼは微笑み、そっと呟いた。


「ちょっとアホっぽいエストさんが、いったいどこで私の役に立つのかしら。でも、お知らせが来るってことは、何かあるんでしょうね」


 春とはいえ夜は肌寒い。

 薄いネグリジェに身を震わせたローゼは、急いで暖かな寝衣に着替えた。


「全知の書が私に『初登場ですよ』なんて囁いてくるものですから。ほら、第一印象って大切だと思うんです」


 一瞬、顔が青ざめた。


「もしや私、衣装選びとかいろいろと間違えてません? 大人っぽく背伸びして見せようとして、逆に引かれてないかと思うと、気になって仕方がないのですけど⋯⋯」


 勇気を出して大胆な格好に挑戦したものの、恋愛経験はゼロ。

 顔を真っ赤にして『全知の書』に尋ねようとした瞬間、書は彼女の手からしれっと消えた。


「ちょっと! 何かおっしゃって下さいな。都合が悪くなると消えるなんて、やっぱり未完ですわね。もうっ!」


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