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27 子供たち

 外では腰に剣を帯びたタンゼルさんが、棒切れを持った子供たちとチャンバラごっこで盛り上がってた。

 女の子まで混じって楽しそうにやってると思ったら、あっという間に私も子供たちに囲まれた。


「エストねーちゃんも遊んでよ!」


 元気に棒を構え、今にも私を叩こうとする子供たちの姿に、タンゼルさんがニヤッと口元を緩める。


「俺から一本取れないからって、エストお嬢様に群がるなんて、お前ら騎士道精神が足らんぞ!」


 その言葉に刺激されて、何人かの子供がタンゼルさんの方へ戻っていく。

 そういえばその中にバルマード様の英雄譚をボロボロになるまで読んでいる子もいたけど、憧れるわけよね。


 よせばいいのに私は足元に転がった棒を手に取ると、いきなりバシッ! とお尻を叩かれた。


「痛ッ、やったなーっ!」


 もちろん剣術の経験もない私がまともに相手になるわけがない。

 子供たちの気が紛れるのなら、少しくらい叩かれてもいいかなって木の棒を構える。


 するとカキンッ! と身体が勝手に子供たちの攻撃を受け流した。


「お見事です、エストお嬢様! 剣術の心得があったのですね」

 

 その動きにタンゼルさんが熱い眼差しを向けてくる。


「たまたまですよ、握ったのも初めてですから」


 その間も次々に向かってくる子供たちを、転ばせない程度の力で弾いていく。

 なんでこんなことが出来るのか、自分でもさっぱりわからない。


 私がそのことを深く考えていると、突然、目の前に謎のメッセージが浮かんだ。


[ グランハルトの教えが再覚醒します。 ]


 え、何!?


[ スキル【刀剣術】・【槍術】・【棒術】・【弓術】・【吹矢術】を再修得します。【毒耐性】は常時発動中です。 ]


 ブーッ!

 吹き矢なんて、いらないいらないッ!

 それに毒耐性って何よ! 拾い食いでもお腹壊さないってことなの!?


[ 【吹矢術】を封印しました。現在のレベル35に合わせ、武術系スキルを【上級武術】に統合します。 ]


 立て続けにメッセージが現れ消えたかと思うと、一瞬、目の前にいる子供たちやタンゼルさんが止まっているように見えた。


 子供たちが水の中を進むみたいに、ゆっくりと向かってくる。

 集中すればするほど遅く見えて、ケガをさせないように弾こうとすると、一振りで全員の棒に当てて、転ばせない程度に後ろへと下がらせた。


 それを面白がって子供たちは、何度も飽きずに向かってくる。

 こんな動きができることに私が驚いていると、『グランハルト』という名前が思い浮かんだ。


 あ、あのアホ姫がアカデミーをサボって、忍者修行をしてた時の謎の師匠じゃない!?

 その修行の日々が、まるで自分がやったことのように蘇ってこようとする!


 私はブルブルと頭を振って、記憶に勢いよくフタをしようとしたけど、その一瞬を垣間見てしまう。


 --水の中に潜って穴の開いた竹で息をしてるのかと思えば、フッ! と吹いて頭上を飛んでいく獲物を打ち落とす。

 って、吹き矢の修行なんかい!


 ハッと我に返って辺りを見ると、私は無意識のうちに棒を振ってくる子供たちを退けていて、タンゼルさんが目を丸くしてこっちを見てる。


「一体どこで、そんな見事な動きを学ばれたんです!?」

「タンゼルさん、気を付けて!」


 私が叫んだ瞬間、タンゼルさんがこっちに気を取られている隙に、子供の一人のフルスイングが急所を直撃した!


「ウォーッ!」


 タンゼルさんは悶絶しながら急所を両手で押さえて崩れ落ちた。

 チャンスとばかりに、子供たちが一斉にタンゼルさんを袋叩きにし始める。


「お、お前らが憧れてるバルマード様がそんな卑怯な真似するかーっ!」


 タンゼルさんの叫び声に、子供たちはピタッと叩くのをやめて、今度は指でつつき始めた。

 その中の一人が、タンゼルさんの急所にプスッと指を突き刺した⋯⋯。


「ムオッ、そこを狙うのはやめなさいっ!」


 いくらバルマード様に憧れていても、子供たちの無邪気さはちょっと怖いわね⋯⋯。

 うずくまるタンゼルさんを囲んでいた子供たちが、今度は一斉に私に向かってくる。


 そこへローゼさんが颯爽と現れ、大きな声で叫んだ。


「はーい、みんなーっ! 中に戻って食器の準備を手伝って。今日は気持ち良く晴れているから、外のテーブルで一緒にご飯にしましょう」


「「はーいっ!」」


 ローゼさんの言葉に子供たちは棒切れをポイポイと片付けて、食器を取りに建物の中に駆け足で戻っていった。


「タンゼルがやられるとは、子供たちも成長しているのですね」

「面目ありません、お嬢様」

「子供たちが自信を付けるのは良いことです。彼らがどんな未来に進むにも、身を守る術を覚えておくに越したことはありませんもの」


 まさかあんな不意打ちにやられるなんて、とタンゼルさんが恥ずかしそうな顔でなんとか立ち上がる。


 ローゼさんは彼に出来上がったスープを運ぶよう頼むと、長テーブルに落ちた木の葉をサッと払い、白いテーブルクロスを広げ始める。


「私も手伝います!」

「いえいえ、子供たち相手にありがとうございます。あの子たちが元気過ぎて、お疲れではありませんか?」

「不思議と疲れはまったくないです。食器運びでも何でもやりますよ」

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