21 あの親友が悪役!?
ローゼさんっていつもさりげなく物を出してくるけど、いったい何処から出してるんだろう? 特にサラッと大きめの本を出す時なんて、ほんと手品感がハンパない。
「エストさん、【収納空間】という言葉を思い浮かべてください。何だか物をしまえたり、取り出せたりする感覚がありませんか?」
ローゼさんがニコッと微笑む。
⋯⋯教えてって、顔に出てたかもしれない。
確かにある!
彼女に促されて意識を集中すると、物を出し入れできる感覚が頭に浮かんだ。
【収納空間】の中には私の知らない物が入っていた。
って何、この吹き矢の数!? し、しびれ吹き矢ですって!
こんなのいらない、いらない。
これってアホ姫がウィル君たちに群がる女子たちを、物陰から卒倒させまくった時の事件の証拠じゃない!
⋯⋯やったのは私なんだけど、そんなの絶対納得できないよ。
私が顔を真っ青にすると、ローゼさんがそっと唇に人差し指を当てた。
「いらない物は『捨てる』って思えば消えてしまいますよっ」
捨てる、捨てる、消えてしまえ!
空になった【収納空間】を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
前にローゼさんに見てもらった時には、すでにこのスキルが備わっていたらしい。
レアなスキルで使える人はごくわずかだそうだ。
食べ物などをしまうと、入れた時の状態で取り出せるらしい。
便利でありがたいって思うけど、アホ姫の黒歴史を消せるならもっと早く知りたかった。
これからはちゃんと活用しよう。
「わかっていただけたみたいですね。早速ですが、ヒルダの写真はしまっておいた方が良いかもしれません。写真を持ってるエストさんを見たら、ヒルダが顔を真っ赤にしてしまいそうで」
私はうんうん頷き、ヒルダの写真を【収納空間】に大事にしまった。
私だって誰かが自分の写真をニヤニヤ眺めてたら、きっと微妙な気分になる。
まあ私の写真なんて需要はないだろうけど。
⋯⋯指名手配になんて使われたらって頭によぎると、過去のアホ姫のやらかしにブルっと寒気がした。
私の写った新聞がダダダダって刷られていくシーンが目に浮かんで、そうならないようにと身が引き締まる。
アカデミーを一通り見おわったところで、私たちはエントランスに戻ってきた。
案内を任せっきりでちょっと申し訳ない。
「ローゼさん、お時間とか大丈夫なんですか? ずっと私に付き合ってもらってますし、場所さえ教えてもらえばたぶん一人で行けると思うんですけど」
そこへ一人の女性職員が私を見つけて近づいてくる。
「スレク男爵令嬢ですね。これから講堂の方で能力測定が行われますので、ぜひご参加下さい」
彼女はそう告げるとさっと去ってしまった。
そう言われても、講堂がどこにあるのかさっぱりわからない。
「私が案内しますよ」
たくさん案内してもらった上にこれ以上は、って言う前に彼女がニコッと笑ってくれた。
「水臭いこと言わないで下さいね」
そのまま手を繋いでくれてローゼさんに導かれて講堂に向かう途中、この幸運に本当に感謝した。
こんなに優しい人と一番最初に友達になれるなんて。
「あらローゼさん、ご機嫌よう。そちらは新しい取り巻きの方ですか?」
突然、感じの悪い声が響く。
声の主は栗色の髪を腰まで伸ばした、いかにも良家のお嬢様って感じの女子生徒。
ドレス姿で取り巻きを連れ、私の行く手を阻むように立ってる。
むしろ、そっちが取り巻き引き連れてるじゃん!
って言いたくなったけど、ローゼさんに手を引かれて止められた。
「ここは私に任せてくださいね」
ローゼさんがそっと手を離して、私に微笑んでくれる。
そのまま彼女は栗毛の女子生徒に向き直った。
「ご機嫌ようセシリアさん。私はこちらの淑女を講堂へとご案内しています。ご用がなければこれで失礼させていただきます」
「えっ、セシリア!?」って、私は心の中で叫んでしまった。
『レトレアの乙女』ではヒロインの親友で、天使みたいな公爵令嬢が悪役令嬢みたいになってるなんて。
「あれ、その金髪のご令嬢に見覚えがある気がしますが、もしよかったらご紹介していただけませんこと?」
セシリアが私に興味を持ちはじめた。
私、セシリアに何かしちゃってるの?
あり得るよ、アホ姫ならやりかねないし!
⋯⋯私は内心、焦りまくった。




