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20 ヒルダの過去

 鎧を着た剣士、大きな斧を持った戦士、杖を握る魔法使い、僧侶までいる。

 ローゼさんの話だと受付嬢も生徒なのだそうだ。


 しかもジョッキで乾杯してる生徒もいて、まさに冒険者ギルドそのものだ。


「ビールを飲んでる生徒はちゃんと成人した生徒ですよ。私たちも成人したらここで一杯酌み交わしてみたいですね。エストさんが相手だと何だか盛り上がりそうです」


 ローゼさんが冒険者への憧れがあるのか気になったけど、ここって皇都のど真ん中だよね?

 いったいどうやって冒険するんだろうって考えてたら、ギルドのカウンター奥にある床から光とともに、数人の冒険者が現れてビックリした。


「あれはポータルっていうんです。ダンジョンや他のギルド支部とも繋がっていて、一瞬で行き来できる装置なんですよ。エストさんと一緒にレベル上げをする時はあれを使うことになりますね」


 えっ、前に言ってたアカデミーでのレベル上げって!?


「本当にダンジョンに行ってレベル上げをするんですか?」

「ちょっと待ってくださいね」


 ローゼさんが穏やかに囁くと同時に手を軽く振る。

 その瞬間、周囲の音が消えた。


「それはエストさん次第ですが、レベル上げの効率がとても良いんですよ。そうそう誰かとはち合わせすることもありませんし、神聖魔法も使い放題です。最初は不安に思われるかもしれませんが、報酬も得られますし名声も上がりますので夢中になる生徒も多いんです。ヒルダみたいに二つ名で呼ばれることもありますね」


 ローゼさんの声は落ち着いていて楽しそうだった。


「そういえば『黒髪の戦乙女』とか呼ばれてましたね」

「彼女の偉業はアカデミーでも随一ですから」


 そのあと彼女からヒルダのすごい話を聞かされた。


 ダンジョン深層で上位種のドラゴンを一人で倒したり、壊滅寸前の高ランクパーティを助けてダンジョンボスの大悪魔を撃破し、全員を生還させたこと。

 そして「黒髪の女神が我々を救ってくれた」と讃えられたエピソードまで。


 そんな武勇伝を知らなかったのは、どうやら私だけだったみたい。

 生徒たちがヒルダを尊敬するのもうなずける。


 それだけすごいのに、どうしてウチでメイド長なんてやってるんだろう?

 そりゃヒルダから学ぶことは多いし、いてくれるのは本当にありがたいけど。


「ヒルダへの求婚はそれはもう激しかったですよ。帝国中の皇族や大貴族、英雄と呼ばれる冒険者まで引く手あまたです。それだけの実力を備えた上で、器量良しで性格も良いですから。今でも求婚されてるんじゃないんでしょうか」


 今でもモテ期真っ盛りってわけね。

 ヒルダは全くそんな素振りを見せなかったけど、私が鈍すぎるだけかもしれない。

 武勇伝なんかなくても、彼女なら当然よね。


「でもそんなに凄いヒルダが、どうしてバルマード様の右腕を辞めたんです?」

「それはもう白銀の戦乙女を思わせる立ち姿が、まるで聖女のように眩かったものです。我が家のまわりには彼女見たさの男性たちで溢れ返っていました。もちろん我が家の騎士や使用人たちからも男女問わず羨望の的でしたね」


 ローゼさんは少し遠くを見るような目をする。

 華やかな世界が肌に合わなかったのか理由はわからないらしい。

 彼女はバルマード様と親交の深い我が家に来たのではないかと語った。


「今のヒルダの方が生き生きとしていて、彼女にとって今の暮らしが肌に合ってるのではないんでしょうか。それに用がある時はすぐに我が家へ来れますし」


 それを聞いて、ヒルダがたまに出かける先がわかった気がした。


 でも、どうしてこんなにもヒルダのことが知れ渡ってるんだろう?

 当時の同級生が残ってるわけでもなさそうだし。


 するとローゼさんが差し出してきた一枚の紙に驚いた。


「これって写真じゃないですか!?」

「魔道具の普及で世の中便利になりましたね。人気がある方のものは雑貨屋に行けば売ってますよ」


 ただ私の知る写真よりずっと臨場感があって、今そこにいるヒルダを見てるよう。

 十代に見える彼女は白銀の鎧を着ていて、まるで本物の聖女みたい。


「良かったらエストさんに差し上げますよ」

「いいんですか?」

「エストさんの笑顔が見れるならお安いごようです」


 この写真は絶対に宝物にしよう。

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