表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/92

01 序章:転生先は問題児

 はじめまして、アヤコと申します。

 初投稿ですが、温かい目で読んで頂ければ幸いです。

 どうぞ、よろしくお願いします。

「あれ、もう朝!? ⋯⋯なんで目覚まし鳴ってないんだろう。って、ここどこ?」


 私はあわてて半身を起こし、辺りを見回す。

 そこは絹のカーテンがそよぐ、中世ヨーロッパ風の豪華な部屋だった。


 ベッドからそっと降りて、室内を確認するうちに、花の彫刻が施された鏡台が可愛らしくて、つい椅子に腰掛けた。


 鏡に映った姿に、思わず息をのむ。


 プラチナブロンドの長い髪に、朝日がキラキラと輝いている。

 肌はきめ細かく白く、まるで陶器のよう。

 澄んだ水色の瞳は、驚きに大きく見開かれている。


 鏡をじっと見つめていると、どこかで見た気がするその顔に、急にズキッと頭が痛んだ拍子に我に返った。


「そういえば、昨日何してたんだっけ⋯⋯ 」




   ◇◇◇




 私の名前は鷹崎みずき。

 ファッションデザイナーという夢を叶えるため、服飾科のある高校に通う女子高生。


 アニメや漫画が大好きで、子供の頃から落書きを重ね、そこから本格的にデッサンを学んだ。


 特にカッコいい執事や可愛いメイドの衣装に憧れ、デザイン画を描いては型紙なんかもたくさん作ったけど、布代なんかにすごくお金がかかって。


 その資金を貯めるため、コーヒーチェーン店でバイトに励んだ。


 コーヒーを囲む人たちの笑顔に、仕事の疲れも吹き飛び、新しい夢が芽生えた気がした。


 乙女ゲームにハマり、店長さんとゲームやコーヒーの話で盛り上がるうち、趣味が合うって素晴らしいと思えた。


 ある夜、バイト帰りにまばゆいヘッドライトに照らされ、意識が暗闇に落ちた。




   ◇◇◇




 もう一度、鏡をまじまじと見つめると顔から血の気が引いていく。


「ちょっと待って。この子って、あのエスト!?」


 乙女ゲーム「レトレアの乙女」に登場するキャラの一人で、ファンの間で『アホ姫』と呼ばれる、エスト・スレク男爵令嬢。


 ストーリーには一切絡まず、攻略対象と盛り上がってる時に限って、意味なく割り込んできて、せっかくのいい雰囲気を台無しにして笑いながら去っていく。


 そんな悪役令嬢より厄介な、わがまま娘に転生しただなんて!


「神様、お願い、もう一度やり直させてーっ!」


 私の拒絶も虚しく、十五年分のアホ姫の記憶が一気によみがえってくる。

 これまであの子が積み上げたとんでもない黒歴史が全部、私がやったことになるなんて⋯⋯。


 新しい両親になってくれた男爵夫妻に数々のご迷惑をかけ、使用人たちには偉そうな態度で考えなしの言葉を浴びせ、周囲を問答無用に困らせ続けている!?


 ーーちょっと整理が必要だわ。

 胸にゆっくり両手を当て、深呼吸しながらエストの記憶を一つ一つ確認していく。




「えっと私は、幼い日の自分を救ってくれたバルマード様にさんざん甘えて、贅沢三昧してきたの? その上、彼の一人息子をしつこく追い回してる!?」


 バルマード・マクスミルザー公爵は、ゲームの舞台となるアカデミーの理事長。

 魔王を退けた英雄で、ファンから「バルマード様」って親しまれてる。


 その息子のウィル公子は亡くなった母の美貌を受け継いだ、麗しき貴公子。

 攻略対象でもトップ人気だ。

 彼の姿が鮮明に蘇ると、恥ずかしさで顔が熱くなる。


 見た目だけは可愛いくせに、ヤバいわこの子。

 その野性味あふれるポジティブ思考は、どこまで自分に都合が良いの!


 警備の厳重なマクスミルザー公爵邸に、闇夜に紛れてムササビのように空を飛んで忍び込み、壁と同じ色の布に隠れて使用人の目をあざむくって、私は忍者か!

 ウィル公子の寝室を目指して、毎日のように繰り返してきたなんて、どんだけアホでチャレンジャーなのよ。


「えーっと、朝になって寝室から堂々と出てくることが目的だったの?」


 ウィル公子の気持ちを無視して、強引にくっつく事に執念を燃やしてたのね。

 なにもなくても、寝室から出てくれば変な噂は広まる。


 その全てを、お姉さんの悪役令嬢に撃退されてきたわけね。

 スリッパで思いっきり顔を叩かれたところから、記憶がプッツリ途切れてる。




 コンコンとドアが鳴り、驚いて飛び上がる。

 なんとか気持ちを落ち着けて、「どうぞ」と返す。


「お嬢様、失礼いたします」


 頭を下げて入ってきたのは、明るい茶色の髪を三つ編みにした女の子。

 薄いそばかすがチャームポイントの、メイドのマリーだった。


 でも、マリーが肩をすくめて少し緊張した姿に申し訳なくなる。

 これまでの私の態度が、彼女をそんな気分にさせたんだ。


「マリー、これまで迷惑をかけてごめん⋯⋯」

「えっ、お嬢様、急にどうされたんですか?」

「これからは無茶は言わないから、安心してほしいな」

「あ、はい⋯⋯お嬢様がそうおっしゃるなら」


 マリーが朝の支度にきてくれたけど、着替えくらい自分で出来る。


「お、お嬢様! その、お手伝いいたします!」


 ふと、マリーの手が目に入るとひどく荒れて痛々しい。


「マリー、ちょっと待ってて」


 引き出しから軟膏を取り出し、そっとマリーの手を包む。

 彼女が驚いて身を固くするけど、構わず軟膏を丁寧に塗り込む。 


「今までのバカなことは、ゆっくりでいいから許してほしいの。これからは、マリーとちゃんと話したい」


 緊張で固くなった手が少しずつ柔らかくなる。


「その、お嬢様の手がすごく温かくて、心地いいです」

「これからは仲良くしていきたい。だってお友達になりたいもの」

「そんな、お友達だなんて⋯⋯私はただの使用人ですし」


 そのままゆっくりと手を離して、ドレスを着るのを手伝ってもらい、軟膏を渡して「毎日塗ってね」と念を押した。


 彼女の顔にほのかな笑みが浮かぶ。


「お嬢様、今日は朝食の準備が早めに整うそうです。奥様が楽しみにしてますよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>闇夜に紛れてムササビのように空を飛んで忍び込み、壁と同じ色の布に隠れて使用人の目をあざむく アグレッシブすぎィ!! 今後が楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ