いっしょに居て
ストーカー撃退現場を見たいというあたしの要望はあっさりと断られ、そしてアイスを食べ終わったあたし達はここを後にする事にした。
「だからなんでついてきてんだよ」
学校へ向かって歩く中、相変わらず源は煩いけど。
「だって行くとこないんだもーん」
「あ?ついたらお前教室行けよ」
「あたし今日から第3の生徒だけど魔法使いだから授業出なくてもいいんだもーん」
「…オヤジ、こいつどうにかしてくれ」
「……………。」
そして、何度見ても古ぼけている第3高校の校舎の中に入って行き、唯一綺麗なんじゃないかと思われる不良の隠れ場へと足を踏み入れる。
残念ながらここの生徒と行っても10年後の話なもんで、教室に行く訳にも行かないしクラスだってわからない。
カーペットの上に座り、ぼうっとしていると、頭がコテっと傾く。
源に押されたせいだ。
目を細めて振り向くと、同じくふてぶてしい表情を浮かべている源。
「今から俺の楽しみな時間なんだよ。お前がいると気ぃちんだよ」
「楽しみな時間?」
首を傾げていると、源がどこかからリモコンを持って来てテレビの電源をいれる。
最初に来た時思ったけど、久しぶりに見たアナログ。これがあーんなにスマートになっちゃってさ。あんたが可愛く見えるよ。
プッツン、と音を立てて映った画面。この時間帯という事は多分再放送なんだと思うけど。
「わ、わ、わー!!あたしこのアニメだいっすきー!」
少し古く感じる絵。今でも大好きなアニメ。
「あ?」
「これ再放送?この辺り懐かしー」
「何言ってんだよ、録画してたやつだボケ」
あたしの頭をもう一度コテンと押して、胡座をかいて座り直している。
そして視線はすぐにブラウン管へと向けられる。
集中している源を見ると、どうもあたしのブラックな心が顔を出す。
ふふ、言ってやりたい。続きを言ってやりたくてしょうがないぞ。
「この後ねー」
「うっせえキチガイブス!黙ってねーとつまみ出すぞゴラ」
「…………。」
耳がキーンと痛む。しゅんと肩を落としていると、ポンポンと頭を叩かれた。
振り向くと笑顔の旭くん。どうやら慰められているのか。
「源は顔に似合わずアニメの事になるとああだからな。次話しかけると本当に追い出されちゃうよ」
「お、オヤジ…」
「オヤジ言うな。つーか俺はもうドラ奈実に構ってられねーから。なんたってピチピチだからさ」
「………はい?」
「ピチピチな俺は今からピチピチギャルと戯れてくるよ」
「ピ……チピチ…」
「ん?顔引き攣ってけどどうかした?」
全力で顔を横にぶんぶんと振ると、納得してくれた様で、満面スマイルでここを後にした。
源の方はというと、ずっとアニメに夢中。物語はエンディングをむかえ、その音楽を口ずさんんでいる。
こうやって見ているだけなら、綺麗な少年。
「チ、終わんの早すぎだろ。1時間くらい放送しろよな」
「なになに源くーん、続きが気になってソワソワしちゃってる感じー?」
「誰だよてめー、気色悪いなまじで。話しかけてくんじゃねえ」
右肩を上げて、あたしを拒否してくるこの男に顔をぐんっと近付けてやった。
するとみるみる内に眉間が寄っていく。
「ふーん、そーう、あちゃー、いいんだーじゃーもういいんだー」
「……ああ?!んだよ」
あたしが口元を手で覆ってふふふと不気味に笑っているせいか、源が体勢を変えて貧乏揺すりをしている。
どうやら少しは気になっている模様。
「見て驚くなよ」と心の中でそう思いながら、カバンの中をガサゴソと漁る。
おっと、そうだった。カバンの中じゃなくてスカートのポッケの中だった。
「あたしってば、おっちょこちょい」
「お前一回病院行け」
「そんな口の聞き方したら見せてやらないぞ、さっきのアニメの続き」
あたしのiPhoneには、アニメやドラマが沢山入っているアプリがある。前の学校ではよく机の中に隠して見てたなー…。
「………あ?」
「映るかわかんないけど、見てみる?」
それから三時間が経過した。
「次、次見せろや、早く」
「もー、待ってよ」
映るとわかってから、仰向けに寝転がって源と見ているけど、隣のこの男が夢中になりすぎて止められる気がしない。目が疲れてくる。
それにしても、近いな。
小さな画面で二人覗いて見ているからだけど、この至近距離。
「お前このちっこいテレビどうやって手にいれたんだよ。すげーアニメ入ってんじゃんかよ」
「うん、まあね。てかそれテレビじゃな…」
「つーか黙れ、始まった」
「…むかつく」
止まる気がないアニメ。上に表示されている時刻を見ればもう夕方の4時を周っている。
「……おい」
ん?
頭上から声が聞こえてきて、iPhoneから顔を離して声の主の方を見る
電気の光と重なって見える千穂の顔。
綺麗な顔を歪めていて、少し怒っている様にも見える。
「なんだよ、寂しいのか?しゃーねーから千穂も入れてやるよ」
あたしのiPhoneなのに、源の上からの物言い。
だけど、よくよく考えるとこの数時間、千穂の存在を忘れていた。ひとりでぼうっとしていたのだろうか。
そう思って千穂の顔をマジマジと見ていると、綺麗に整った眉を顰める。
「ゆず達」
「……あ?」
「時間だろーが。」
「あ?まじかよ、もうそんな時間か」
慌てて立ち上がる源。どうやらあの可愛すぎるゆずちゃんと葉くんのお迎えに行くみたい。
「じゃーここで止めといてあげる」
「おー。明日見せろよキチガイ」
源が出て行った後、あたしは千穂とふたりきりになった。
暫く無言が続く。
ちらっと千穂の顔を見てみると、向こうはあたしをガン見。
「源の許しが出たな」
「えっ?」
………許し?
突然口を開いたかと思えば、真顔で顔を目の前まで近付けてくる。
「明日も来ていいって言ってた」
「あ…、うん」
「…………。」
「…………。」
会話が、続かない。
首根を掻いて苦笑してみると、千穂はフイと目を逸らしてズボンのポッケから煙草を取り出した
口に咥えて、ジッポで火をつける
煙草の煙は苦手だけど、なんというか。様になる。
指先までもが、綺麗に見えて。
「…俺の思った通り。」
「えっ、何が…?」
目をぱちくりとさせて、じっと見つめるけど返事は返って来ず。変わりに白い煙が返って来た
吸い終わると灰皿にジュッと押し付けて、立ち上がる
そして、指で髪を後ろに流しながら歩き出す
「えっ、ちょ…千穂…?」
名前を呼ぶと、真顔で振り向く千穂。
今、絶対帰ろうとしてるよね。
あたしを置いてけぼりにして、さっさと帰ろうとしているよ。
「帰るとか言わないよね?ね?」
「帰る」
「うん、落ち着こう、ちょっと落ち着こう」
「落ち着いてる」
だってさ、旭くんも帰って源も帰っちゃって。
千穂まで帰ってしまったら、あたし一人になるじゃんか。
「…あたし、どうすればいい?」
「……知らねえ」
千穂の手首をぎゅっと握ると、足を止めて困った顔している。
でも、なんかダメで。
誰かがいると安心して、楽しくて、なにも考えなくなるけど
一人になると、まだ少し不安になる。
「あたしは…帰るとこなくて」
そんな事、千穂に言っても困るって、わかるんだけど。
わかってはいるんだけど。
「……………。」
「一人は慣れっこなんだけどね。だけど、ちょっと寂しいというか」
「……なら、」
「………え?」
「ここに居ればいい。昨日みたいにここで寝て、過ごせばいい」
「……………」
「明日には、俺らが来る。寂しくなんかねえだろ」
「……ふふ」
「……俺はお前を拒まない」
「うん、ありがとう。ここなら大丈夫そう。テレビ見て、源のアイス食べてエンジョイしてるよ」
「源がさっき名前書いてたぞ」
そっか、ふふ。
あたし、ここではひとりぼっちじゃないんだ。
「テレビ、テレビ~!」
千穂が帰った後も不安が消えて、また楽しくなってきた。
おばあちゃん。あたし、友達が出来たっぽい。
やっぱりそうなのかな。これはおばあちゃんのプレゼントなのかな。
「うげ、ほんとだ!名前かいてる!」
冷凍庫を開けると、アイスの蓋にデカデカと汚い字で『ゲン』と書いてある。
これ食べたら本気で殴りにかかってきそうだな…。
「ふふ、あははははは!ほんと変なのばっかだな」
こうして変わった不良との夢みたいな日々が始まったのでした。