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棘の蜜  作者: かすみ
第1章
22/23

大切なヒト

近付いている





あの日の夢に





今日も、うなされる





俺に、差し伸べる手





それをつかめなかった





届かなかった






俺は、





大切な奴を、





助けてやれなかったんだ








「ちょっと源、おい源」





「んだよ、うっせーな」





ゆずちゃんと葉くんを朝早く、幼稚園に送り届けた源。





帰って来る頃に千穂も来て、今三人仲良く学校に登校中。





「誰のせいで寝不足だと思ってんの!!」





「んだよ、俺が寝かさなかったみたいな言い方しやがって!」





「だってそうじゃん!!」





最近毎日の様にアニメ、アニメ、アニメ。一人で見りゃいいものを、巻き沿いをくらう。





「…その会話、嫌」





「なんだよ、千穂」





「そうだよ、どうしたの?」





そして真ん中を歩く千穂は、ご機嫌ななめ。





「ふふぁ」





「あ、今源欠伸したな!お主も眠いんだろ、さては!」





「うるせー黙っとけ」





そう言えば、今日はいつもより早起きだった。





ゆずちゃんと葉くんのお見送りも、早くに行ってすぐに戻って来た。


「そんなにあたしと一緒に登校したかったのか…!」





そうか、そうだったのか。





ちょっと、うるっとするよ。





「…朝から頭いかれてんじゃねーよ」





「ははは、照れんなって」





「うっせーんだよ、千穂に言われただけだ俺は」





え?





首を捻ったあたしは、隣を歩く千穂の顔を覗き込む。





「…旭も待たせてる」





「えっ?今日はみんなで登校?」





「危ねーかもしんねーから」





「ん?危ないとは?」





そう尋ねると、黙り込む千穂。





黙りこまれると、逆に気になる。気になって、ソワソワし始める。




じー、っと源に視線を送る。





それに気付いた源が、ビクッと肩を上げる。





「気色悪ぃ目で見てんじゃねーよ」





「教えてよ、なんで危ないのか教えてよ。教えて教えて教えてー」





「千穂、どうにかしろよコイツ」





ひいた目をしている源。





だって気になるんだからしょうがないじゃないか。





源は知ってるんでしょ。





知らないのは、あたしだけでしょ。





「…気になるのに」





「どうせわかる事だかんな、別に教えてやっけど」





「まじか源!」





「せいぜい巻き込まれて死なねー様に気をつけんだな」





「巻き込まれてる?!なに?」





「…律の暴走に」


………え?






源の思わぬ言葉に動きが止まった。





振り返り、立ち止まるあたしを見つめる源と千穂。





「…りっちゃんに何かあったの?」





小さな声。





そんな声で問いかけると、源がオレンジ色の髪をわしゃっと掻く。





なに?なんで?





胸が、ざわついて仕方がない。





「何かあったんじゃなくて、これからあんだよ。…多分」





なにが?なにがあるの?





「…源、千穂」





二人に近付いて、手を伸ばす。





その手を掴んだ千穂が、口を開く。





「あいつが暴れたら、俺が全力で止める」


訳もわからないまま、千穂に手を引かれて学校目指して歩く。





りっちゃんの身に、何か起こるのか。





一体、どうしたの。





学校の正門前まで来ると、旭くんが待っていた。





吸っていた煙草を地面に落としてから、真顔でこちらへ歩いてくる。





「とうとうあの日が近付いて来ちまったか…」





「俺はあいつが正気でいられないに一万かけるぞ」





「馬鹿な事言うな、源。笑いごとになんねぇ…まじで」





そう言って源の肩を叩いた後、あたしへと視線を向ける旭くん。





「…旭くん」





「ん、そんな不安そうな顔すんな。俺らがいるんだから」



校舎の中に入り、階段を上がる。





それと同時にドキドキが、増す。





「だけどあいつ…最近やけに楽しそうだったから、いつも通りだと…嬉しいんだけどな」





新しい煙草に火をつける旭くん。





今日はやけに煙草を吸うペースが早い。






「無理していつも通りに笑ってんのも、俺は辛ぇ」





ぽつりと呟く千穂の言葉が、胸を騒がせる。





なんだかモヤモヤして、泣きそうになる。





「…奈実、」





「…………」






ついさっきと同じ声で、あたしの名前を呼ぶ。





静かな階段に、千穂の声が響く。



「あいつの、律の兄貴の命日が、近付いて来たんだ」



千穂の言葉が、頭から抜けなくなった。





階段を上って、廊下を歩いて、





だんだんと近付いていく隠れ場所。






「…………、」





気になって、ソワソワして、モヤモヤして。





いざ聞いてしまったら、こんなにも胸が苦しくなった。






……りっちゃん。






「…遅えんだよ!んだよ、お前ら揃ってよー」





隠れ場所の前に着くと、勝手に開いたドア。





眉をしかめたりっちゃんと目が合った。





「…なんで…」





「足音聞こえてたからな。つか、髪やってくれよ!ストレート!」





目の前にはいつもの、りっちゃん。





目の下にクマをつくってる、りっちゃん。




「出来たよ、りっちゃん」





ヘアアイロンで髪を真っ直ぐにし、ワックスをつけてセットしてあげた。





「おお、さすが奈実」





手鏡を見て、満足そうに笑うりっちゃん。





そんな顔を見ると、胸がぎゅううっと痛む。





振り返って千穂達を見れば、安心したように会話をしている。





「…りっちゃん、ちゃんと寝てる?」





セットして、より一層かっこよくなってるけど、





やっぱり目の下を見ると。





「…はは、ちょっと寝不足」





「源と千穂をソファーから落としてくるから、りっちゃん寝なよ!」





「ん、大丈夫」





「…でも、」





「あんま、寝たくねえから」





「………。」





「せっかく奈実といんのによ。な?つーかゲームやんぞ!」



りっちゃんの笑顔を見ると、胸が苦しくなる。





寝れないくらい、本当はつらいのに。






みんなと一緒にテレビゲームして、iPhoneで動画を見て。





「奈実、何かいるのねーか?」





「えっ?」





「もう昼だろ」





ポッケに手を突っ込むりっちゃん。





あたしも立ち上がると、近くにいた千穂も立ち上がる。





「律、俺が行く」





「あ?なんだよ千穂。俺が行くからいいっつの」





「いい。俺が行く。お前はここにいろ」





「俺、オムライスに自分でトッピングしてーから」





りっちゃんの言葉に、眉をしかめる千穂。





……心配してるんだ。






「あ、りっちゃん!あたしも行く!一緒に!」





「おお、いいぞ」


隠れ場を出る前、千穂に目で訴えた。





りっちゃんは、大丈夫だからって。






「りっちゃん、あたし何食べようかなー。うどんとかあったっけ?」





「うどん食うのか?」





「冷やしうどん食べよっかなーって。売ってるかな?」





「売ってたような」





「アイスも買おうっと」





「千穂に取られんぞ」





「あはは、そうかなー?」





食堂について、冷やしうどんを買う。





りっちゃんは、何も買ってなかった。オムライス食べるって言っていたのに。





「何も食べないの?」





「ん、なんか今腹減ってねーや」


食堂を出て、長い廊下を歩く。





「…………。」





ちらりとりっちゃんを見る。





無表情でポッケに手を突っ込んでいるけど。あたしには、どうも落ち着かない様に見える。





「……ひっ……!」





……え?





近くに居た生徒が、突然後ろを振り返ったかと思うと、慌て始めて尻餅をつく。





他の生徒だってそう。





りっちゃんの姿を見つけると、声をあげて逃げ出す。





「…ちょっと、」






あたしが口を開いた時だった。






近くにいた、派手な髪の生徒の声が耳に届いた。






「…猪崎優(すぐる)が死んでから、あいつやりたい放題じゃね?」



多分、小声だった。





小さな声でぽつりと呟いただけだった。






だけど、聞こえた。






りっちゃんにも―――







「――――やだ!りっちゃん!!」






何かが、壊れた。





笑顔だったりっちゃんの、違う顔。






「――おら、もういっぺん言って見ろ」






悲鳴がする。





りっちゃんが、男に跨って殴る。






「…だ…だってそうだろ……それに猪崎優が……死んだのだってお前のせいだろ」





「――うるせぇ」



男の友人が必死になってりっちゃんを止めようとする。





だけど、誰も止められない。





「やめてくれ!ほら、お前早く謝れ!!」






――やだ。






助けて、千穂。






「……っ……」






違う。





何助けを求めているの、あたしは。





大丈夫だって言った癖に。







「―…りっちゃん」





「……っうるせえ」





「……痛っ…」





りっちゃんの振り上げた腕に、しがみついたあたし。





それを、いとも簡単に振り払われてしまった。


だけど、





「……っ、なみ…」





りっちゃんの手は、止まった。





しん、と静まり返った廊下。





殴られた生徒や、他の生徒は隙をついて逃げ出して行く。





尻餅をついたあたしを見て、瞳を揺らすりっちゃん。





「…止まった……」





「…ごめん、奈実。怪我…怪我してねーか?」





「…うん、大丈夫」





「…俺……」





震えている。





りっちゃんが、震えながら頭を抱える。





酷く、後悔している様に。



「…大丈夫だと思ってた。平気でいられると思ってた」





小さくなるりっちゃんを抱きしめて、背中を摩る。





「でも…思いとは裏腹にすぐに、ぶっ飛んでた。奈実にまで…」





「あたしは大丈夫だから」





「…………優……」





「………………。」





「……優の、最近あいつの夢を見る」





「………うん」





「俺が助けてやれなかったから、俺が弱かったから」






お昼に買った冷やしうどんが、無残にも廊下に散らばっている。





誰も居ない、静かな廊下。






何度背中を摩っても、苦しみを取り除く事は出来ない。






「…あたしに話して」






だけど、りっちゃんの苦しみをわかってあげたい。



瞳を揺らす、奈実。





あいつら以外誰もいらねえと


思っていたのに、





不思議と俺の中に入って来た人物。





優の事を、知らない奈実。





……話したら、





奈実は何と言うだろうか。



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