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棘の蜜  作者: かすみ
第1章
21/23

パシリと変人

コソコソと耳元で何かを言っている男子生徒。





あたしは死んだ魚の様な目で彼らをじっと見つめた。





あれか?君達あれか?こんな公共の場でイチャついてさ。源と一緒のあれか?





うん、だけどあたしはいいと思うよ。青春だと思うよ。





「奈実!!こんな所に居たのかよ!」





「…あ、りっちゃん」





男子生徒を眺めていると、前からりっちゃんが現れた。片手を上げて近付いて来る。





すると彼らは、肩をビクリと揺らして走り去った。





「なんだなんだ?」





「どこ行ってたんだよ。千穂は?」





あたしの肩に手を置くりっちゃんは、辺りをキョロキョロと見渡している。





「あー…もう戻ってんじゃないかな」





「つか、さっきの何だったんだ?急に飛び出してったろ?」





「あたしにもわかんないや」





苦笑して頭をポリポリと掻く。





さっきの千穂の顔を思い出すと、胸の奥が痒くなる。


何処へ向かっているのか、二人並んで歩き出す。





りっちゃんはポッケに手を入れて、何か思い出したかの様に口元に笑みを浮かべる。





「どしたの?りっちゃん」





「や、それがさ、さっき奈実が出て行ってから旭と源が言い合いしててよ」





「うんうん」





そこまで言うと、ポッケから手と一緒に煙草を取り出して口に咥える。





「言い合い?ってより旭が源に奈実の事可愛いと思ったろとかって言い寄ってて。源は頑なにありえねーとか言ってたんだけどよ」





「まー、源はあれだからね」





「けど千穂の女と奈実、どっちがいいかって聞いたらよ」





「……あのオヤジめ」





あたしの居ない所でそんな事を言っていたなんて。





比べるまでもないじゃないか。






「最終的に千穂の女はないっつってた」





わざとらしく頬に空気を溜め込むあたしだけれど、





「………。」





「奈実のがいいって事だな」





一瞬にして頬に入れた空気がしゅんとなくなった。





「…源め、実はツンデレだったんだな。本当はあたしの事を…」





「や、そういう意味じゃねーと思うけどな」


ふむふむと頷いている、りっちゃんがわざとらしく話を変えてくる。





「腹減ってねーか?食堂行こうぜ」





カチカチとライターで煙草に火をつける。





白い煙に片眼を瞑るあたしは、頷いた。





「カリー食べたい!カリー」





「お、いいなカレー。俺もカレーにしよ」





そう言いながらりっちゃんがあたしから距離をとる。煙草の煙があたしに行かない様にしてくれているんだ。





「まさか、りっちゃん…そのカレーにマヨネーズ大量に入れるんですか?」





「普通だろ?」





普通なんだろうか。異常じゃないんだろうか。





りっちゃんのお腹の中はコレステロールに侵されてるんじゃないかな。


食堂でカレーを購入し、隠れ場所に戻ったあたしとりっちゃん。





中に居た千穂は機嫌が悪く、窓の近くでスパスパと煙草を吸っていた。





が、あたしがソファーに座ってカレーを食べていると、隣にやって来た。





「あ、源。愛しのドラ奈実の隣に千穂が座ったぞ」





そしてさっきから、ニヤニヤしっぱなしの旭くん。





「まじやめろ。勘弁。気色悪ぃし胸糞悪ぃ」





「あはは、源。あたしの右隣り開いてるぞ!」





「やめろっつってんだろが。そのカレーの中に顔面突っ込んでやんぞ」





冗談が通じない奴め。






だけど、そんな会話も楽しい。




そして、気が付けば放課後になる。





此処にいると時間を忘れる。





楽しくて、以前のあたしからは考えられないくらいの学園生活を送っていると思う。





学園生活と言っても、勉強なんて全くもってやってないけど。





それを言ったらみんなだってそうだ。





勉強している所を見た事がな……





「…いじゃないか!!」





ソファーから立ち上がると、千穂とりっちゃんが不思議そうな顔であたしを見る。





携帯触っている旭くんと、漫画を読んでいる源は無視。見もしない。





「勉強、しなくていいの?」





「…どうした?いきなり」





何度も瞬きをするりっちゃん。





チミ達、今のままだと確実留年だよ。





「てか旭くんまた留年したら本当やばいよ!心配だよ!この学校の伝説になるよ!」





「そこ煩い」


携帯をパタンと閉じて、あたしに指をさす旭くん。





その角度から避けてやると、指が千穂へと向く。





「俺は煩くねえ」と真顔で答える千穂にゲラゲラと笑っていると、旭くんが鋭い瞳を向けてくる。





笑顔も曇る。





「この学校は全てプリントなんだよ。習った事をプリントに移して、その日の内に提出さえすりゃーいいんだよ」





「…そりゃすげー」





「俺ら毎回出してっからいいの。はい、終わり」





そうだったんだ。





出されるプリントさえ記入して提出さえすればいいんだ。





という事は、授業は出ないけどプリントはきっちりやっているという事なんだ。





………ん?



「そんなのやってる所一度も見た事ないよ!」





彼らと一緒にいる時間の方が長いと思う。





だってその日の内に提出だったら、家に持ち帰ってやるのも駄目なんでしょ。





見た事ないよ、あたし。





「あー…それ工藤がやってっから」





ピコピコと、携帯のボタンを押しながら答える旭くん。





「………ん?」





工藤??





一体だれだ、それ。





「ドラ奈実に言ってなかったっけ?工藤」





「初めて聞いたよその名前!!何その謎の人物!!」





「工藤だよ」



「ちょうど、そろそろ来るんじゃねーか。あいつ、影薄いけど」





「……影薄い人物」





「や、可哀想だから気配消せるっつった方がいいかもな」





「……気配を消せる」





ブツブツと、工藤という人物を頭に浮かべ、考えてみる。





すると、ドアが開く音がした。





視線を向けて見ればそこには誰も居なくて、





旭くんの前で、頭をペコペコと下げている男の姿。





え、いつの間に移動したよ!え、忍者なの?





「あ、旭さん。今日もみなさんの分ばっちり書き込んできたんで!」





そう言ってプリントらしきものを渡し、はにかむ男。





見た目は……不良。緑っぽいマットアッシュの髪に、釣り上がった眉と細い目。





「はい、どもね。じゃー俺はこれを渡しに行ってくっかな」





「ちょーっと待ったーー!」


あきらかにこれあれだよね。





工藤にプリント全部押し付けっちゃってる感じだよね。





それって、パシリって事だよね。





「人に全部やらせるのはよろしくないかと!」





今までずっとやらされていたであろう工藤の為に手を上げて訴えると、旭くんは唖然とした顔であたしを見る。





そして、





「何を言ってるんだ!!それはおかしいっ!!!」





という大きな声に、耳がキーンと響いた。





それは旭くんの声…ではなく、





興奮して頭をブンブンと横に振っている工藤の声。





「……え……?」





見よ、このあたしの間抜けっ面を。



「旭くん、この人変人…?」





失礼な事は承知だが、思わず工藤を指差してしまった。





旭くんは「そうだな」と頷く。





すると工藤は、「旭さんに、くはっ、やべー俺やべー」と意味のわからない事を言い始めた。





ダメだ。これは手強いキャラだ。





「俺は、自分からプリントをやらせてほしいと頼みこんだんっす!だって、有名な、旭さん達…達とは失礼だな、千穂さんと、げ」





「や、もういい。わかったからもういいや」





つまりあれだな。





プリントだけやってくれる工藤氏は、みんなからしたら有難い人物。





工藤氏は工藤氏で、自ら喜んでやっていると。







「お前、いつまでいんだよ」





「…え…っ…り、りっちゃん?」



低いりっちゃんの声。





鋭いその瞳は、工藤氏に向いている。





「あ、はい!すぐに行きます!」





そして、アタフタと焦りながらこの隠れ場所から出て行く。





「り、りっちゃんどうしちゃったの」





「…あー、こいつはいつもこうだから」





旭くんがそう言って苦笑する。






ちょっぴり、胸が騒いでしまった。






「あたし、ちょーっと探検してこよーっと…」





「すぐ帰って来るんだぞ」





「はーい、旭パパ」





あたしも隠れ場所を飛び出して、工藤氏の後を追った。





少し遠くだが、工藤氏の背中が見えた。



「よ!!」





肩をぽんと叩くと、目を見開いて驚く工藤氏。





「な、なんでしょう」





表情が固い工藤氏に、もう一度肩をぽんと叩く。





「せっかくだから、一緒に探検しようよ」





「…お、俺とですか?」





「工藤氏しかいないじゃん」





影薄いからって、流石に今はこの廊下にはあたしと工藤しかいないんだから。





「なんか…変な感じです。奈実さんの事はよく旭さんに聞いていたんで」





「え!本当?あたし、工藤氏の事今日初めて知ったんだけど!」





「はは、変人と聞いております」





「え、工藤氏には言われたくないんですけど」





「ははははははは」





急に笑いだしたよ、怖いな。



長い廊下を、工藤氏と並んで歩く。





放課後なせいか、生徒の姿はほんどない。





「…そういえば、りっちゃんがああ言ってたけど…」





「りっちゃん…とは?」





「ああ、律」





そう言うと、足を止める工藤氏。





あたしをマジマジと見つめて、目を輝かせる。





「律さんは、俺本当憧れてるんすよ!!めっちゃクールだし、一番かっこいいっすね!」





「さすが変人だな、気にしたあたしが馬鹿だった」





「やー、もう。律さんに関われるってテンション上がりまくりっすよ!」





「なんでそんな…」





「あそこの皆さんは俺の憧れそのものです!俺以外にも憧れてる奴多い中で、こういった役にたてる事が凄く嬉しくて」





「………。」





そうなんだ。





そんなに憧れられてるんだ、みんな。


「あの人達は凄いんすよ!!ほんとまじで!そんな凄い人達と親しい奈実さんも、俺は凄いと思ってるんすけどね」





「…ええ?」





工藤氏の言葉に、頭を掻いてデレッと笑う。満更でもないあたし。





なんか、少し気分がいい。





みんなが、こうやって褒められてるのとか。





そんなみんなと、自分が一緒にいれる事だとか。





「あ、奈実さん顔がにやけるっすよ!」





「にやけてないよ~…むふふふふふ…ぶほっ!!」





よそ見をして歩いていたせいか、前から歩いていた人とぶつかってしまった。





よたつく身体。





だけど、目の前の女性は体勢を崩して尻餅をついてしまっている。





「すいませんすいませんすいません!ほんっとすいません!!」





「…あ、大丈夫です…あたしも考え事してたんで。…いてて」





「………あ。」





「………え?」



ドキドキドキドキ、と心音が加速する。





さらさらな髪、長い睫毛、白い肌。






「……あ、あの」





耳をかけて、不思議そうにこちらを見る彼女は正しく、






―――心っちだ。






どうしよう。心臓が、心臓が煩い。






何度もスカートで手を拭いてから、差し伸べる。





にっこりと微笑んで、手を握ってくれる心っち。





「ありがとう」





「や、あの…」





心っちが、輝いて見える。





く、工藤氏!助けてくれ!





訴えようとしたけれど、隣にいた筈の工藤氏は何故か壁に頭突きをしている。





よし、先にキミを救助しなければ。






「あ、もしかして…奈実ちゃん?」





「……えっ…?」


視線を向けると、





「あ、やっぱり?ふふ、初めまして!」





笑顔な心っちが瞳に映った。






……あ。






なんだろう。言葉が、出なくなる。





真正面から見た心っちは、より一層可愛くて。





「あたしの事は知らないかな?千穂の彼女のこころって言います!」





「あ、えと…知ってます」





苦笑を浮かべて、頭をボリボリと掻く。





「奈実ちゃんの事は、千穂達からよく聞いてるよ」





「あ…左様ですか」





「よろしくね」





そっか。





あたしの事話してるんだ、千穂。





「こんなわたくしでよければ今後ともよろしくお願いします」


顔だけではなく、愛想も良くて。





こんな完璧な女性が存在するなんて、と思った。





「心っち可愛かったな~…」





「あれはもう天使っすね、俺らの癒しっす」





「ところで工藤氏。さっきのあれ、ひいたからね。あたしひいたからね」





「だってまさか心さんに会うなんて思ってなくて、テンパッちゃいましたよ。まじ心臓止まるかと思ったっす」





「そりゃー、一大事だ」





だけど、わかる。





あたしまで、ドキドキした。






そしてちょっと、嫌味のない綺麗な彼女を見て、苦しくなった。



探検を終え、工藤氏と別れる。





颯爽と消えて行った工藤氏。





次はいつ、彼を見つけられるだろうか。なんてったって影が薄いから。





それでも、あたしの友達頁に加わったのには間違いない。





ふらりと隠れ場の前まで戻り、ドアに手を伸ばす。





「……んぶっ」





開けた時、誰かの胸に顔が埋まってしまった。





慌てて顔を離し、見上げると千穂と目が合う。





「…どこ行ってた」





「え?工藤氏と探検してたよー」





「……なんで」





「ん?なにが?」





「俺を誘わねーの」



口を歪めて、不機嫌そうに見下ろす千穂。





「ちょっとぶらりと歩いただけだから」





「俺だってぶらりする」





「はは、千穂は暇人だねー」





「…………。」





からかって笑うと返事がなくなる。





怒ったのかな、と思って目をじっと見つめていると、腕が熱くなる。





「…な、なんだ?!」





突然千穂があたしの腕を掴む。





「今日は特に、俺が居ねーと駄目」





「…な、な、何故だ」





「いつもと違うから、」





「……………」





「………可愛いから」



千穂の言葉に、胸が高鳴った。





嘘だとしても、嬉しくて。





らしくないのに、顔が赤く染まってしまった。






「さ、流石千穂だな」





「……なに」





「どうやったらその技使えるのだ。あたしも修行が必要かな。教えてもらおうかな…亀仙人に」





「意味わかんね」






だけど、心っちと会ったよって





その言葉が出てこなかった。






「あ、旭くんがめっちゃこっち見てる!」





「さっき源もアニメ見せろとか言ってた」





「またアニメかよ!」



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