彼女との馴れ初め
旭くん以外はそんなノリ気ではなかったけど、行こう行こうとしつこいので女子を見に教室巡りをする事になった。
「やーっぱ、行くなら癒しレディーを見に行くだろ?」
そう言って顔を綻ばせて、千穂の肩に手を置いている。
千穂はスルー。
りっちゃんと源は旭くんに引っ張られ、嫌々行くはめに。
「だりーなー。案内どうなったんだよボケ」
「俺ら興味ねーよ。奈実、俺ら違う所周る?」
「ううん。あたしも見学する」
少しだけ、ワクワクしてるもん。
階段を上がり、三階へと足を進めると静かな廊下。
近付いて行くと、教師の声がする。
忍足で近付き、クラスの窓をこっそりと覗き込む。
「旭くん、頭、頭邪魔」
「しっ、ドラ奈実うるせー」
「うるせーじゃないし。見えない」
背伸びをするけれど、旭くんにグイグイと頭を押さえられ、中の様子が見えない。
むっとして旭くんを睨むと、顔をニヤニヤとさせちゃっている。
やだやだ、このエロオヤジ。
そう思って諦めて、後ろを振り返る。
後ろには、千穂と源とりっちゃんが興味なさげにしゃがみ込んでいた。
りっちゃんは首を回してコキコキと音を鳴らせている。退屈なんだろう。
「やっぱ違うなー。かわえー。心っち超かわえー」
「……えっ?」
そんな旭くんの声に身体が反応して振り返る。
今、心っちって言ったよね?
この二年三組のクラスって心っちのクラスだったんだ。
興味が湧いたあたしは、再び旭くんの横に並んで覗き込む
今度は、ちゃんと中が見る事が出来た
大抵の生徒はコソコソと話をしていたり、居眠りをしていたり。
だけど、彼女は他の人達とは違った。
さらさらな栗色の腰まである髪を耳にかけ、細い手でシャーペンを持つ。
そんな姿が、固唾を飲む程綺麗。
「……か、かわいい」
「だろ。ドラ奈実もあんな風になれる様に努力しなさい。」
そう言われて、窓に微かに映る自分を見てみる。
髪はさらさらではなく痛んでいるし、最近化粧だってしていない。
心っちと比べる事すら可笑しいくらい、酷い。
「戻ったら、化粧しよう」
「おっ、素直じゃねーの。ドラ奈実も一応レディーだもんねー」
「一応言うな」
もう一度、
心っちへと、目を向ける。
確かに、千穂とお似合いだ。
「つーか、なんであれが心っちってわかったんだ?」
そう言って、あたしを見る旭くん。
そう言えば、ストーカーの撃退の時にこっそりと見に行った事を知らなかったんだ。
「そ、そりゃー美人って聞いてたから、あの子かなーと」
「ああ、そういう事」
危ない危ない。
ふう、と息をついていると、中から教師らしき人の怒鳴り声がした。
「誰だ!そこにいるのは!今は授業中だぞ!!」
そんな声に、ビクッと身体が震えた。
「やばい!やばい!逃げよう!」
旭くんのシャツを引っ張って、ドアから離れる
窓から目を逸らす時、
一瞬、心っちと目が合った気がした。
教室から走り去る。
教師の声に焦って走った訳ではなく、ほんの少し楽しんでいる。
りっちゃんの手を掴み、ついでに隣にいた千穂の腕を引っ張る。
「ひゃっほー!」
「どうしたよ、このコ!」
後ろから、旭くんの声がする。
だってなんか、学生っぽいじゃん。
こういうの、ちょっと憧れてた。
廊下を渡り終えると、源にバシバシと頭を叩かれた。
「なに急に走ってんだよ、息切れすんだろが」
「こんな距離で息切れなんて…ありえないわ。男なの?それでもチミ男なの?」
「お前なんかが俺を馬鹿にすんじゃねーよ。ハゲ」
そう言う源も、なんだかんだ付き合ってくれている。
その後も校内を周り、楽しんだところで隠れ場所に戻る事にした。
隠れ場に戻った途端、
旭くんと源はソファーに腰をおろし、りっちゃんはカーペットの上に仰向けになって寝転がる。
キャップを頭から顔に移動させて、どうやら寝る態勢に入った様だ。
汗をかいたからか、少しだけ髪がくるっとなってるのが可愛い。
りっちゃんから、窓際で煙草を吸っている千穂へと目を移す。
栗色の髪が、窓から入って来た風に靡く。
初めて千穂を見た時も、あまりに綺麗でビックリしたな。
不良をバッタバッタ倒していくのにもビックリしたけどね。
「……そうだ」
思い出した様に口を開き、かばんの中を漁る。
出したのは、化粧ポーチ。
「奈実、」
「ん?」
「…何してんだ?」
「メイクだよ、暇だからねー」
近付いて来て、目の前に座り込む千穂に適当に答えてブラウンのアイシャドウを瞼の上に塗る
「そんなもん塗らなくていい」
「よく言ったな、こんにゃろめ」
千穂は綺麗な顔をしているからいいけどね。
あたしは塗らないより塗った方が絶対いいの。
元々ナチュラルメイクだけど、それでも結構変わるんだから。
「じゃーこれ」
そう言って差し出すピンク色のグロス。
「じゃーってなに」
「これだけでいい。これ塗って」
「…ちょっと千穂さん。何気に楽しんでます?」
ほれほれ、と無理矢理渡してくるから仕方なく受け取る。
小さく音を立てて、唇へと近づける。
だけど、視線が気になる。
「ちょっと、見過ぎ!」
「いいから」
「良くないわ!!」
恥ずかしいから適当に塗って、ポーチの中にしまい込んだ。
ちらり、と千穂へと顔を向けると千穂は目を細めて甘い表情を浮かべる
「ほら、それだけでいい」
そんな言葉に、不覚にも少しだけ胸が跳ねた。
なんなんだ、この生き物は。
「ば、ばーか!」
「…それ似合う」
「ばっかじゃん!ばかばか!」
似合うとか、本当に思ってるのかわかんないけど。
恥ずかしい。
腕で顔を隠せば、その手を掴まれて退けられる。
そして目が合うと、瞳は揺らぐ。
「……………」
千穂の手が、さらさらでもないあたしの髪にそっと触れる。
「…なんですか、この手は。」
「…少し黙れ」
「脅しか!脅しなのか!」
当たり前の様に触れてくる千穂が不思議でたまらない。
変な気持ちになるのが嫌で、千穂の手を掴んで髪から離した
「千穂さん、彼女いるよね」
「それがなに」
それがなに、って真顔で返すこの人がなに。
多分、何を言っても変わらないんだろうな。
天然って怖いよね。
それを知って、付き合っているのかな。心っちは。
どういうきっかけで美男美女カップルが誕生したのかな。
少しだけ、気になるな。
「…馴れ初めってどんなの?」
「なんの話」
「…心っちの話。どういうきっかけで付き合ったの?」
「それ旭も聞いてきた。聞いてどうする」
「別にどうもしない。てか旭くんもなんだ。確かに聞いてそー」
少しだけ身体を前のめりにさせて、千穂の言葉を待つ。
どんなストーリーがあったのか、恋愛初心者からしたらやっぱり気になるじゃないか。
不良に絡まれていたのを、助けてあげたとかそんな感じなんだろうか。
「……つ、」
口を開いた千穂。
うんうんと頭を上下に振りながら、次の言葉を待つ。
「付き合ってって言われたから」
だけど、出てきたのはそんな言葉。
ぽかーんと口を開いて固まるあたし。
だって付き合ってって言われたからって、なにさ。
「もしかして、告白されたからそのまま付き合ったの?」
「ああ、昔の話だ」
……お前は、孫悟空か!!!
「はは、昔って。一年前じゃねーか」
突然後ろから声がして、肩がびくりと跳ねた。
振り返ると苦笑している旭くんの姿。
急に話に入ってくるから吃驚だ。
あたしと千穂の隣に腰をおろして、胡座をかいて座る。
それにしても、告白されたからって付き合っちゃうもんなんだな。
だけど千穂の顔だったら他にもきっとされただろう。やっぱり千穂も心っちの顔でオーケーしたのかな。
「でも他にもされたでしょ」
「されてない」
「うそっ?」
「あー、こいつに告白する勇気のある子は心っちだけだったからねー」
へらっと言ってのける旭くん。
そういう事か。
でも実際、馴れ初めはそうだったとしても、今は好き合っているのだから問題はないよね。
「孫悟空には変わりないけど」
「ぶはっ、なに。めっちゃピッタリすぎてうけるわ」
千穂と旭くんと語り合った後、りっちゃんと源が目を覚まして、この場所で野球をした。
何故か置いてあったバッドと、新聞紙を丸めたもので。
源が変化球で投げてくるから鬱陶しかったけど、りっちゃんがあたしの仇をうってヒットを出してくれたからよかった。
三人野球も意外と盛り上がった。
旭くんに「お前ら外でやれよ」と怒られて途中で辞めたけど。
校内巡りに野球と、今日も楽しかった。




