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棘の蜜  作者: かすみ
第1章
14/23

おじゃまします!

「…ったく、なんでこんな事なってんだよ。……おらよ」





千穂、旭くん、りっちゃんと別れたあたし達は今、第3高校の駐輪場。





夜中なだけに空は暗い。前住んでいた所に比べたら全然明るいんだけどね。





「ありがと」





源が無愛想にあたしの頭の上にヘルメットを被せる。白くて、大きい。





そのせいで前が見えない。





止められていたバイクにキーを指して、跨る源。





あたしも後ろに座って、源の腰を掴む。





「あれっ?源、ヘルメットは?」





珍しくセットされていないオレンジ色の派手な髪が、目の前で風に揺られている。





「お前に貸してんだろうが」





「あー…そっか。気をつけてね」





「俺が事故るかボケ。つーか飛ばすぞ。落ちんじゃねーぞ」






バイクが、走り出した。





ゆずちゃんと葉くんが待ってる、と聞くと大人しくなった源。





なんだかんだいいお兄ちゃんなんだな、と源の背中を見つめながら少し思った。


バイクを止めた場所は、大きな古いアパートの前。





学校からは5分くらいの距離。





源は、あたしの頭からヘルメットを奪い、キーを抜くとそそくさと歩き出して行く。





小走りで並ぶと、大きな欠伸をしながらドアを開けた。





「あ、お…邪魔します」





真っ暗な部屋に、明かりをつけると可愛いふたりが目に映った





布団ですやすやと眠るゆずちゃんと葉くん。葉くんったら寝相が悪くて布団から足がはみ出している。





「お前はそこの襖開けた所な」





後ろから源の声がして、軽く頷いてから襖を開ける





箪笥だけ置いてあって、殺風景な部屋。





「…えと、ありがとう」





「言っとくけどすぐに出て行かせるからな。そこはゆずがもう少しデカくなったら使うんだからよ」





「あ、うん」


冷蔵庫を開けて、コーラの入ったペットボトルを口につける源。





「…見てもやらねーぞ」





「へっ、別にいいもんね」





べっと舌を出して憎たらしい顔を見せてあげると、源は眉をピクリと寄せる。





だけど源を見てたのは、コーラが欲しいからとかそういうんじゃなくて。





なんか、落ち着かなくて。





……他人の家に入る事なんて今までなかったし。泊まったりだとかも経験がない。





だから、変な感じ。





「お前荷物は」





「へっ…?」





源に声に、思わず声が裏返る。





そんなあたしを不思議そうに見ている。ゴクゴクと喉仏を動かしながら。





「荷物は、って聞いてんだよ」





「これだけど」





そう言って、肩にかけていたカバンをフローリングの床の上に下ろす。





そういえば、ヘアアイロンを抜いたから少し軽くなった。





「あ?着替えとかあんだろが」





「今は下着しか持ってない。」





「ずっとその制服かよ、きったねー…」


引いた目をする源は、ラックの上に置いてあった服をあたしの顔に投げつける





ぶっ、と顔の上に乗った服に手を伸ばす。その時石鹸のいい香りがした。





「ん?体操服?」





よく見てみれば、学校の体操服。左胸には小さく今西と書いてある。





返事がない源に指をさしながらもう一度問う。





「今西…?これ源の体操服?使っていいの?」





「俺はそんなもん着ねんだよブス」





そう言いながら、後ろにあった青い体操ズボンもあたしへと投げつけてどこかへ消えて行く。





体操服を広げてみたあたしは、なんだか可笑しくて一人で笑った。





着替えも手に入ったみたいだし、この制服も洗濯しちゃおっかな。





そう考えながら襖を開けて、殺風景な部屋に入る


体操服へ着替えた後、何もない部屋を見渡してみる。





うーん、何しようか。





フローリングの床に寝るのは流石に背中ご痛くなりそうだ。





それにしても、体操服は半袖なのに肘下まであって大きい。





源の奴め、細身の癖してこんな大きいものを。





「…………今日は色々あったな」





脱いだ制服をぎゅっと握り、ぽつりと呟いてみる。





まんまるまるで楽しく食事して、変な男が現れて、急遽源の家に来る事になって。





過去の世界に来てから、不思議な事ばっか起こる。





初めてな事ばかり起こる。





源の家に来たからもう千穂が隣で寝ているという事はなさそうだ。心配なっしんぐ。






『やっぱり奈実と一緒に眠ろうと思った。俺の胸の中が一番安全だ』






……本当、思い出してもクサい台詞。





美形だからこそ言えちゃう台詞だよね。怖い怖い。





彼女いるのにそんな事簡単に言っちゃって大丈夫なのかな。


頭の片隅に残っている心っちの顔を思い出してみる。





顔だけじゃなくて、雰囲気も可愛かったな。





なんというか、華やかという言葉がよく似合う。





千穂はその彼女にも、甘い台詞を言っているんだろうな。いや、あたしなんかに言う言葉よりも、もっともっと甘い言葉を。





「うはー、想像しただけでゾッとする」





独り言を言って、腕を摩る。





すると、襖の向こうから物音がした。





襖を顔ひとつ分くらい開けて覗きこんでみると、源の姿が目に映る





Tシャツに半パン。





オレンジの髪は濡れていて、その上には白いタオル。





…どうやらお風呂に入っていた様子。





「シャワー浴びてたんだ」





「うわっ、ビックリした。急に話しかけんなよボケ」


振り向いて、顔を歪める源。





そんな源が面白可笑しくて、「ふへへへ」と不気味に笑いながら近付く。





「どんだけきもいんだよ」





「髪ぺったんこじゃん」





「スルーすんなや」





源のぺたんと下りた髪を指さすと、舌打ちが返って来た。





機嫌の悪い源は、白い冷蔵庫を開けてお茶を取り出して閉める。





「あたしも!」





手を伸ばすと、もう一度舌打ちをしてから食器棚に並んでいたコップにコポコポとお茶をそそぐ。





キャラクターが描いてあるコップは恐らくゆずちゃんの。それをあたしの手に無愛想に渡す。





「ん。」





「ありがとう!」





受け取ったお茶をゴクゴクと一気に飲み干す。麦茶、超美味しい。





「……お前さ、」





「ん?なに?」


冷蔵庫にもたれて、頭の上から白いタオルをしゅるりと退ける





ポタ、とフローリングに落ちる雫。





それを目で追っていると、もう一度源の声がした。






「お前、なんで帰る家がないんだ?」





「…えっ?」





フローリングから、源の顔へと視線を向ける。





突然の問いに頭を悩ませる。





「…言えねーのかよ」





「や、そうじゃなくてね」





ヤクザのおじちゃんの家がお好み焼き屋に変わったからと答えても、きっと理解なんて出来ないだろう。





「………んだよ」





「えと、おばあちゃんが天国行って、行く場所がなくなって彷徨ってたっていうか…」





「……は?」


目を丸々とさせながら、その場で固まる源。





変な空気が流れ始めたのを察して、頭に片手を回してニヘラと笑ってみた。





「そんで~、こっちで親戚のおっちゃんの所に住む事になったんだけど~それが居ないっていうか~」





そこまで言うと、再び笑みを浮かべてみる。





だけど正面にいる男は、目を大きく開かせて口も半開きのまま。





「……お前」





「ん、なにかな?」





「…よくへらへら笑ってられるよな」





「だって、笑うしかなくない?」





「…それでも一応女だろ」





「一応って、余計だよね」





こらこら。段々と、笑顔が曇ってくるぞ。





口端をピクピクと上げていると、舌打ちが聞こえてきた。





一体、何回舌打ちをすれば気が済むんだこの男は。





「……ブスなんか相手にしたくねーから、少しの間だけだぞ」





「……え?」





「俺が気に食わなくなったらすぐ追い出すからな」


「……う…うん…」





静かな部屋に、あたしの小さな声がぽつりと響いた。





無愛想な源は、濡れた髪を後ろに流してゆずちゃんと葉くんの側へ歩いて行く。





…ほんの少し。





胸がじん、とした。





あたしの居場所が、またひとつ増えた。





喧嘩が多くなりそうだけど、これからの生活も楽しみだ。





家事も、きちんとやろう。





…掃除機は好きだ。





「源、おやすみ」





「…押入れに布団あっから出してさっさと寝ろ。んでもって朝起こせよ」


部屋に戻り、大きな欠伸をしながら布団を引っ張り出す。





最近ずっとソファーだったからか、布団がかなり気持ちよく感じる。





すぐ眠れそう。10秒で寝れる。





………





…………………………






眠りについてから、5時間が経過した。





小さな窓からは明るい陽射しが射し込んでいて、





身体は、何かに包まれている様に温かい。





……てか、熱い。






「………あっつ!!」





無意識に足を思い切り曲げると、小さな音がした。





「……いた…」





…………痛…?





ハッ、として目を開けてみれば、目の前は瞼を閉じている千穂。





あたしの膝はどうやら、千穂のお腹を蹴っていた様だ。





「…じゃなくて!なんでいんのっ?!!」


側にあった枕で千穂の顔を押し付ける。





「な、なんで源の家なのに千穂がっ…!!」





「……痛い」





まさか、千穂がまた寝てるなんて思わなかったあたしは心臓がバクバク。





本当に朝からやめてほしい。





「朝からうっせーぞブス!」





千穂から距離を取ると、今度は大きな音を立てて襖が開く。





そんな勢いよく開くと、壊れてしまいそうだ。





「げ、源…!千穂がいる!」





「あー…騒がしいのはお前のせいかよ」





耳の穴に指を突っ込んで、平然としている源。





よくみてみると、オレンジの髪はぴょんと跳ねている


「ぷっ、寝癖」





口元を押さえて笑うと、眉をピクリと上げる源。





「…ったく、勝手に入って来んなよ。」





「俺の家だからいいだろ」





ん?俺の家…?





「お前の家じゃねえ。お前の親父さんのアパートだボケ」





なんの事だかさっぱりわからなくて首を傾げていると、源がチッと舌打ちをして部屋を出て行った





「……………。」





源の後ろ姿をぼうっと眺める。





実は気になっていた。





ゆずちゃんと葉くんと、源の兄弟三人暮らしみたいだったし。




それにここは千穂のアパートだって言うし、何か深い訳がありそうだ。





「……あんま、気にすんな」





「えっ…?」





「…あいつにも知られたくない事もある」





「……う、うん」



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