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棘の蜜  作者: かすみ
第1章
13/23

初めての危機

電気の消えた暗い部屋に、チカチカと光る画面。





ブラウン官の中からは、笑い声。





ソファーに寝転がって、バラエティー番組を見ている。





ソファーの目の前に置いてある小さなテーブルには、誰のかわからないポテトチップスコンソメ味。





それに手を伸ばしてパリパリと音を立てて食べる。





こういったひとりの夜も、胸がもやっとならない事が不思議。





少し前までは、ひとりの夜が嫌いだったから夜早く布団の中に潜り込んでいた。





だけど、変わった。





楽しいと、思える様になった。





今日だってまんまるまるでいっぱい笑った。源の怒った顔傑作だったな。






…あ、なんかウトウトしてきたかも。


目を閉じて今日の出来事を思い返していると、眠気が襲ってきた。





口元を緩めながら、夢の世界へと。






だけど、小さな音がしてすぐに夢から戻ってきた。





ドアの開いた音。





片目を開けて、ドアの方へ目を向けてみたけれどドアは閉まっている。





気のせいかな、と再び目を閉じたけれど、何かの気配を感じた。





誰かがこっちへ向かって来ている様な。





「……………千穂…?」





ぽつりと呟いて身体を起こす。





だけどその瞬間、すぐに身体は倒れこんだ。






「――――――っ…!」






テレビの光で顔を露わにした見ず知らずの男。





その男はあたしの上に乗り、口元を大きな手で押さえつけた


あたしの口から離れた手は肩へと移動する。





「よう。暴れんじゃねーぞ」





肩をグッと押さえつけて、低い声を出す男。





髪はあたしの額に垂らし、口元には弧を描いている。






一瞬の出来事に頭がパニック。





この男は誰なのか。





何故あたしの上に乗っているのか。





「…どいてよ…っ!」





だけど、危険だというのは確か。





腕と足をバタバタとさせて暴れてみるが、男の力に叶いっこない。





「女ひとりでチョロイもんだな。逃げ出せると思ってんのかよ」





ニヤリと笑う男の額に、渾身を込めた頭突きを一発。





「……ってぇ…」





「…いったーー…!」





肩から手を離し、額を抑える男。





今なら、と思い腹部を力を込めて殴る。


だけど、あたしの上に乗ったまま。





「…っ…この女、さっきから…」





「あんたなんなの!?きもい!退いて!やだ!」





「なんなのって、お前と遊ぼうと思ってるだけ」





「拒否!!」





男の手が、再びあたしへと伸びる。





強気な言葉を発したって、怖いものは怖い。





こんな男、倒せないのに腹が立つけど。





「あんまタイプじゃねーけど、ブスではねーし」





「あたしもタイプじゃない!!」






拒否しても、手は肩に触れる。





気持ち悪い手が、そこから首へと移動をしようとしていた。





だけど、手は離れていった。







「……奈実、その男は誰だ」






すぐ近くから、声がしたから。


あたしと、男は振り向く。





「なんで、お前の上に乗ってるんだ」





震え上がる程の低い声に胸がバクバクと騒ぐ。





テレビの光で見えたのは、綺麗な顔をした男。





「…千穂……、」





そうぽつりと呟くと、上に乗っていた男は慌ててソファーから身を離す





「…なんで…、片桐千穂が…」





声が、震えてる。千穂に怯えているんだ。





「俺は寝に来ただけだ。それから先に質問したのはこっち」





「俺はなんもしてねえ!本当だ…!」





「じゃーなんでお前なんかがここにいんだ」


尻餅をついて、顔をぶんぶんと横に振る男。





だけど、千穂は躊躇もなく男を蹴り飛ばした。





ドアへと身体をぶつけている。





「……奈実」





綺麗な顔が、あたしへと向く。





息を飲むあたしの方へと向かって歩いて来る。





「……いいタイミングで来てくれてよかった」





「ほら見ろ、一緒に寝ないとダメなんだ」





「……えっ?」





「旭は帰れって行ったけど、やっぱり奈実と一緒に眠ろうと思った。俺の胸の中が一番安全だ」





そんな事をさらりと言うから、この美形は怖い。





返す言葉も見つからなくなってしまう。





だけど、助かったのは確か……






「…って、ああ!!」





視線を変えると、ドアの前に倒れこんでいた男が立ち上がって逃げ出して行った


「千穂、逃げた…」





「ああ」





だけど、千穂は動く様子はなく。





あたしの前に屈みこんで、頭を撫でる。





「……千穂?」





「これからは絶対怖い思いはさせねえ」





「…あたしは大丈夫だよ」





「ああ」





怖くなかったと言えば嘘になるけど、すぐに千穂が来てくれたし。





むかつくけど。





あの男の股間を思い切り蹴り飛ばしてやりたかった。くっそう。






「旭、お前今どこだ」





我に返って千穂を見てみれば、携帯を耳につけて電話をしている。





「隠れ場に男が入った。今は逃げられたけど第3付近にいる筈。この時間に近寄る奴なんていねーから見つけられるだろ。源と律にも伝えといてくれ」





いつも、何考えているのかわからない千穂の初めて見た一面。





ぽかんと間抜け面で眺める。






「…第2じゃねえ…。第3だった」


――――――


――――――――――





「奈実、大丈夫か?」





数十分後、駆け付けて来てくれた旭くんと源とりっちゃん。





「うん、平気」





「ちゃんとあの男締めておいたから。もう現れねーよ。ここにも、第3にも」





そう言ってあたしの頭に手を置くりっちゃん。





逃げた男は、三人が捕まえてくれたみたいでもう近付かない様に釘を刺してくれたみたい。





ここに連れて来なかったのは、あたしに気を使ってくれたのかな。





「それにしても、謎だな~」





そう言って、あたしの座っているソファーにもたれる旭くん。





「謎って?」





「あの男が第3の生徒だったっつー事だよ」





そう口にすると、源が話に割り込む。





「俺も第2に場所がバレたと思ったのによ。まさかここの野郎だとはな」





「安心しちゃって鍵もつけねーでいたせいで、ドラ奈実を危険な目に合わせてしまったな」


旭くんの言葉に、慌てて首をフルフルと横に振った。





「本当によー、俺らもまだなめられたもんよ。第3の野郎は絶対俺らに近付かないと思ってたのによー」





「…ドラ奈実の姿を発見して、チャンスだとか思われてたのかもな。とりあえず、鍵を付ける事にすっか」





旭くんの言葉に、胸が少し跳ねた。





あたしの為にわざわざ、とそう思うとちょっぴり嬉しくて。





だけど、千穂の声で辺りは静まり返った。





「鍵なんかつけなくていい」





旭くんも、源も、りっちゃんも、あたしも無表情の千穂をじっと見る





数秒後、口を開いたのは旭くん。





「万が一の事を考えて、付けといた方がいいだろ」





「そんなもんいらねえ」





「確かにもうあんな馬鹿みたいな野郎は第3にいねーと思うけどよ、でも」





「鍵掛けてたって壊せる。窓割れば簡単に中に入る事だって出来る」





「………………」


ぽかん、と口が開く。





あたしだけではなく、旭くんも。





「だから、寝るのはここじゃなく家だ。」





「い、家って…?」





困った様に笑う旭くん。





あたしも疑問符が頭に浮かぶ。家がないからこの場所に住みついているのに。





「一緒に暮らせばいい。」





「…………は?」





千穂の言葉に、顔が強張っていく旭くん。





「別にいいだろ」





「簡単に言うけどなー…。もうまじでこいつ凄いわ」





「おい、千穂!正気かよお前!いつもぶっ飛んでっけど今日は一段とぶっ飛んでんぞ!」





旭くんと源の声に千穂は真顔で「うるさい」と返す。



反対の声を無視して「これは決めた事だ」と言い張る千穂。





旭くんはやれやれと言った様に首を横に振り、源はわざとらしく溜息を吐く。





「あたし、ここ好きだしここで大丈夫だよ!」





そう言っても、返事は返って来ず。





りっちゃんが肩をぽんと叩いてくれる。





「いいんじゃねーか。このソファーより布団のがよく眠れるぞ」





りっちゃん…




あたし、贅沢を言っていいのならりっちゃんのお家に居候させて頂きたい。





「じゃードラ奈実は誰ん家住むんだよ。俺は今姉貴夫婦の家に住んでるから残念ながらダメね。千穂は心っちがいるからダメ」





「…だい、」





「はい、大丈夫じゃねえ。んでもって律は家が狭いだろ」





淡々と言葉を進めていく旭くん。





結局、みんなダメって事だね。





本当にあたしはここで十分…






「っつー事で、住むのは源の家だな」


旭くんの声に、慌てて立ち上がる





「げ、源の家って…!!」





それは、ないよね。





よりにもよって、生意気な源と一つ屋根の下だなんて。





「何言ってんだボケ、ざけんじゃねーぞ旭」





「だって源の家、一部屋空いてんじゃんよ」





胸元のポッケから煙草を一本取り出し、口に加えて笑う旭くん。





「だからってなんで俺がこんなキチガイを招かなきゃいけねーんだクソ」





舌を巻いて怒る源。今度はあたしの隣に座る千穂が口を開く。





「決まった事をゴチャゴチャ言ってんじゃねえ」





「だから勝手に決めんなっつってんだよ!だいたいお前な、俺ん家はブス禁なんだよ」





あたしへと顔を向けて、攻め寄る源。





それに反応してあたしも戦闘態勢に入る。





「何、ブス禁って!」





「ブスは禁止だっつってんだよ。美人しか俺の家に入れねんだよ」





「くっそー、憎たらしい」


苛ついて、源の腕を引っ張ると、源も同じく腕を掴む。





しかもちょっとシャツと一緒に肉まで掴んでくれている。地味に痛い。





仕返ししてやろうと源の腕をちょびっとばかしつまんでやると、わかりやすく顔を歪めている。





痛いだろう。ほーれ、痛いだろう。





「…お前のなんて全然きかねえし。つーかまじこんな女拒否だわ。拒否拒否」





「…え、なにそれ。全然痛くない。てか聞こえない」





「……俺のが…痛くねー」





「…ふふ…なにもしかしてこれ本気?」





ぎゅううっと力を入れて肉をつまむ。





我慢しているせいか、額には汗が浮かび上がっていた。





「両方痛いんだろ、ほら辞め辞め。本当に手のかかるガキだな」





旭くんの声に、手を離す。





お互い澄まし顔をしているが、かなり痛かった。腕を見れば真っ赤になっている。





「なんだこれ。痒ぃー。蚊に噛まれたのかよ」





ポリポリと、あたしがつねって赤くなった腕をかく源。






カッチーンときてるぞこのやろ。


「今日から家でも一緒なんだから仲良くやれよ。な?」





「誰がこんなやつと!…っつーかてめ、俺のポテトチップスコンソメ味食ってんじゃねーか!!」





テーブルの上に置いていたゴミを掴んで、あたしに投げつけてくる。





中に入っていた食べカスが足元に落ちる。





あのポテチ源のだったんだ。





「あはは、ソーリーソーリー」





「許すかキチガイ!お前まじねーわ」





眉間にシワを寄せながら再び詰め寄ってくる源。





その真下には、りっちゃんが無表情で食べカスを拾ってくれている。





「食べたのは悪かった、ごめん!弁償するからさ!」





「当たり前だろが。どんな根性してんだよ」





拾い終えたりっちゃんがあたしと源の間に立ち上がって、舌打ちをする。





「…興奮すんじゃねーよ。チビ達待ってんだろーが。とりあえず今日だけでも奈実つれてさっさと帰れ」




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