仲良しコンビ結成
隠れ場に響く、笑い声。
うひゃひゃひゃ、うひゃひゃひゃと。さっきから。
「やっべー!久々に見るとまじクルクルじゃねーか!」
「クルクルかわいい~」
源と旭くんの冷やかし。千穂は興味ないのかプカプカと煙草を吸っているけど。
この部屋の隅、コンセントに刺してアイロンを温まるのを待つあたしと律くん。
胡座をかいて座る律くんは貧乏揺すりをしている。
「くそ、あいつら殴って来ていいか?」
「りっちゃん、恐い事言うなよ~」
「りっちゃん言うな!ぶっ殺すぞ!」
オヤジが調子にのるから、りっちゃんの怒りはヒートアップ。
確かに、キャップを取ってみれば前髪までクルクルしている。
だけど、前の学校にも普通にいたし。
そこまで言う程恥ずかしいものじゃないと思うんだけど。
「暴れたら、ヤゲドするよ」
「…くそ、」
顔を覗き込むと、口元を歪めて黙り込むりっちゃん。
あのふたりに見られたくなくて、部屋の隅でひっそりとしようとしたのに。
空気を読まない奴らだな。
源なんか、千穂の肩をバシバシ叩いてこっちを指差してくる。ほら、千穂は嫌そうな顔してる。
「じゃ、りっちゃんやるよ」
「……り……」
りっちゃんの髪にアイロンを挟んで流すと綺麗に真っ直ぐになっていく。
その度に向こうにいる二人は「おおー!」と煩い。
みるみる内にストレートになる髪。あたしなりにアレンジをして、外跳ねをいかしてみた。
アイロンのスイッチを切ってから、うんうんと頷いてりっちゃんを見る。
クルクルも可愛かったけど、今の方が断然いいかも。
「ほ、本当に真っ直ぐになったのかよ」
「うん、鏡見てみて!」
ごくりと息を飲む音が聞こえてきた。
りっちゃんの胸のドキドキがあたしにも伝わる。
手鏡を自分へと向けるりっちゃん。
暫く沈黙。
「……ま…真っ直ぐ」
「うん、なってるでしょ」
「す、すげー!!」
手鏡をポイ、と投げてあたしの手を掴むりっちゃん。
目はキラキラと輝いている。
「ヘアアイロン持って来てよかった。なんならりっちゃんにあげるよ」
「…おま……いい奴だなー…」
ずずっと鼻を啜り、あたしを見つめる。
そして、後ろからはまた笑い声が。
「律がストレートなっちまったよ」
「つーかドラ奈実、あの律手懐けちゃったよ」
手懐け、ってなんだ。
「んじゃー俺のキャップやるよ!」
明るい声に顔を向けると、りっちゃんの周りにはキラキラとしたものが飛んでいる
「ううん、いらない」
それに、負けずあたしもキラキラとした笑顔を向ける。
「そか。まーまた欲しいもんあったら俺に言えよな」
「やった」
たった今、あたし達の仲に友情というものが芽生えた瞬間。
それから、りっちゃんは立ち上がって昼食のオムライスの入った袋を取りに行く。
後の三人は、いつの間にやら食べていたみたい。
もぐもぐもぐもぐ、と口を動かせて向かいに座る彼のオムライスに目を向ける。
いや、これをオムライスと言っていいのか謎だ。
「ん…薄いな」
「まじか。」
そして取り出したのはチャララチャッチャッチャーーン。
マイ、ケチャップ~。
そしてマイ、マヨネーズ~。
ぐるぐると渦の様にデコるりっちゃんは最早異常と化している。
それを見て、源と旭くんがやって来てちょっかいを出す。
「俺が絵書いてやるよ。ケチャップよこせ」
「俺、ドラえもんだったら書けるわ。任せて」
「うっせーよ。もう食うんだよ」
「あーあー、いいからいいから」
そんな光景を横目にオムライスをもぐもぐと食べる。中々の美味しさ。
でもあたしはデミグラスソース派だ。
「…何してる」
突然、頭上から千穂の声がして仰け反って顔を見る。
「え、オムライス食べながら男の青春を見てる」
そう答えると、あたしの隣に腰を下ろして「へえ」と小さく頷く。
この人が何を考えているのかまだ全然わからない。
「あ!りっちゃんそのまますくってる!」
視線を戻すと、りっちゃんがスプーンでケチャップのみすくって食べている。
それを見て旭くんがうげって顔してる。
「変なやつ」
「ねっ、でも笑える!ぷはは」
「…違う、奈実が」
「えっ?あたし?」
すぐに千穂へと振り向くと、真顔でじっとあたしを見据える
目をやんわりと細める千穂に、吸い込まれる様に見入ってしまう。
瞳が離せくなる。
暫くして、千穂の唇が微かに動いた。
ごくりと息を飲むと、いつの間にか千穂の親指が伸びて、あたしの唇の横をスーッと撫でる
それに身体がビクッと跳ねた
「な、なに…?!」
「いや、ついてたから」
「えっ!ケチャップ?!うそ!て、てか教えてくれるだけでいいから!」
わざわざ拭われると、こう心臓が煩くなってしまう。
背中もゾワゾワする。
当たり前の様にやるから怖い。
「勝手に手が伸びてた」
わわ、やっぱりこの人凄いな。心っちもビックリさせられているんだろうな。
「ああっ!おい奈実。食い終わったなら今から俺とゲームやるぞ!」
「ど、どうしたりっちゃん」
駆け寄って来て、あたしの手をグイグイと引っ張り始めるりっちゃん。
さっきまで、旭くんと源と楽しんでいたのに。
「千穂と喋っててもつまんねーだろ。ほら、こっち来いよ」
「ゲームってなんのゲーム?旭くんや源はいいの?」
「あいつらとやってもつまんねー」
つまらないと言われた二人は眉間を寄せてこっちを睨んでいる。
チラリと千穂を見ると、ぼーっとりっちゃんを見ていた。
そして、テレビの前にやって来たあたし達。
プレステの電源ボタンを押して、コントローラーを握りしめる
――うぎゃああああああ
――バンッバンッバンッバンッ
「飯食い終わったばっかなのに、何故にそのゲーム?」
旭くんがソファーに頬杖をつきながらさっきからブツブツと言っている。
だけど、りっちゃんとあたしは集中。
画面に映る近付いて来るゾンビを片っ端から銃で撃つ。
「おいこらキチガイ!お前ラリってんだろ、よこせ!」
「源うるさい!」
「てめー、ここの人間じゃねんだから俺の言う事聞けや!」
そしてさっきから源とコントローラーの引っ張りあいっこ。
そんな事している内に、りっちゃんが次々とゾンビを倒す。
「もう、源ジャマ!」
「邪魔はお前だボケ」
「…つーかお前うるせーよ」
「りっちゃんナイス!」
源の腹部に蹴りをいれてくれるりっちゃん。
体勢を崩した源がコントローラーを放り投げ、拳をワナワナとさせている。
「何しやがんだてめー!」
「お前がキーキー煩いからだろ」
「そーだそーだ!」
「んだとコラ、このクルクル野郎」
「あ?さらさらストレートだ」
「そーだ!そーだ!」
額をぶつけ合い、睨み合う源とりっちゃん。
あたしは少し離れた所で参戦する。
テレビ画面では、プレイヤーがゾンビに襲われて喘いでいた。
「頭きた。てめーら揃いも揃って…」
眉をピクピクさせ、右足を揺すっている。
そんな源を見て、あたしとりっちゃんは「イエー!」とハイタッチする。
どうだ、思い知ったか小僧!!
テレビ画面には、ゲームオーバーとの文字。
それを見て源が「あーあ」と言い、額を押さえる。
「しょうがない、源も入れてやるぞ!ね、りっちゃん」
「しゃーなしな」
「黙れウザコンビ。誰がてめーらとなんかやるか。面白くも何ともねーわ」
「よーし、りっちゃーん。向こうで動画見よう」
「おー、いいじゃん」
「…な、なに?!」
頭をガシガシ掻いて参っている源を見て、口を大きく開けて笑った。
源と千穂と旭くんが仲良し三人トリオだったら、あたしとりっちゃんは仲良しコンビだ。
次の日だって変わらず。
「…あら。今日は来てなかったみたいだな、千穂」
「家で寝た」
「それにしても律が朝から来てんの珍しいー」
朝の目覚めは良かった。
今日は起きても千穂が一緒に寝ていることはなかった。
「ふふぁー、ねむ」
「お前ゲーム片付けろよな。やり込みすぎだろ」
目を擦るあたし。源が何度も頭を押してくるが無視を決め込んでいる。
いやしかし、昨日はりっちゃんと仲良くなったのが嬉しすぎて。解散した後も寝れなくなって、ひたすらゾンビ倒してた。
そしていつの間にかソファーでそのまま眠りについていた。
「奈実、ほら。これ食えよ。で、俺の髪!」
一番乗りでドアを開けたのは、りっちゃん。
マクドナ○ドの袋を片手に駆け込んで来た。
それからは旭くん、源、千穂の順で。
「気ぃ効くじゃねーか、俺ちょうどハンバーガー食いたかったんだよ」
「適当に好きなの取って向こう行ってろ。」
「やりー」
ハンバーガーとポテトを持って、嬉しそうにソファーに腰を下ろす源。
その姿も見ながら、小さく欠伸をする。
「奈実、自分でやったら変になったぞ」
目の前から聞こえる低い声。視線を合わすと、キャップを被ったりっちゃん。
口を歪めながらそのキャップを取り、髪を露わにさせる。
「………あ。」
思わず漏れたあたしの声。
りっちゃんの髪はまだクルクルで、そして前髪はシャキン、と曲がってしまっている。
「これからは奈実に頼む事にする」
「うん、ぷはは。やってあげるよ」
りっちゃんの髪をストレートヘアへと変身させてあげると、ご機嫌な様子。
あたしの手にハンバーガーを何個も乗せて、鼻歌を歌いながら此処を出ていた。
「何だあいつ。まさか見せびらかす為に行ったのか」
「ぶはっ!そりゃー爆笑だろ!」
「ドラ奈実のお陰で無事にご機嫌みたいだな。あいつ暴れっと一番手がつけらんねーからな」
「あははははは!腹いてーっ!」
ポテトをパクパクパクパクと食べながら会話をする旭くんと源。
千穂は、窓の近くで静かに煙草を吸っている。
差し込んでくる光が顔に当たって、左目を瞑っている。
「……………う」
相変わらず、綺麗すぎて見惚れてしまうっつの。
少しくらい分けてほしいね。
「……どうかしたか?」
「ううん、来ただけ」
千穂の隣に立って、窓に手を添える。
千穂は煙草の火を灰皿に押し付けて消して、あたしを横目に見る
「……………。」
「何か話して」
「…律と打ち解けたんだな」
「うん、まーね」
「そのせいでお前は全然俺を相手しない」
「え?相手しないってなにそれ!千穂もゲームしたかったの?」
「まだ俺とお前は打ち解けてねえ」
「…そう?」
顔を覗き込むように向けると、千穂があたしの髪にそっと触れる
「…変なやつ」
「心臓がもたないので触るの禁止!!」
「ベタついてる。ほら」
そう言って指を離すから、ハラリと髪は宙に舞う。
ほら、じゃないよ。
ベタついてるとか、そのタイミングで言うなよ。
「もうすぐしたら、銭湯行くもんね!」
「戦闘?誰とだ?」
「ひとりに決まってるでしょ!」
「ひとりで戦うのか」
「(…ん?意味がわからない)」
「(…謎だ、意味がわからない)」
「行ったらおばちゃん居るもんね!ひとりじゃないもん」
「おばちゃんと…戦……」
「おー、おかえり律。思いのほか早かったなー」
「うっせー旭。」
「なんだなんだ、ご機嫌良いんじゃねーの?」
「あ…?奈実は?」
「ああ、あそこ。千穂と変人同士で交信してる」
少し離れた距離で旭くんとりっちゃんの声がして、振り返る。
ふたりともこっちをじっと見ている。
首を傾げながら近付いて行くと、旭くんは笑いながらあたしの肩をポンポンと叩く。
「どうだった?今日の交信は」
「なんの話だ」
「交信はいいからソファーでドラマでも見ようぜ。あの小さいテレビで」
「うん、いいよー」
「たまにはおじちゃんもまぜて」
「3話からだと話わかんねーだろ、旭」
りっちゃんの言葉に、わざとらしくしゅんと肩を落とす旭くん。
だけど彼は彼でやる事が沢山あるみたいで、振り向けば甘い声を出して誰かに電話をしていた。鳥肌モノだ。
りっちゃんとドラマを見ようと、iPhoneを取り出せば、大きな足音。
ドタドタと響いて、顔を上げれば眉を寄せた源。
「今日こそアニメだろが、キチガイ」
「あ?一足遅かったな」
「おい、鼻ペチャ、今すぐ止めろ。あれ見せろ、あれ。ちょうど必殺技あみだすとこだろ次!」
「鼻ペチャ言うな」
源があたしの足の上に足を置いて、勝手にiPhoneを操作する。
ドラマからアニメへと変更。
そして上手くもないのに、オープニング曲熱唱。そして序盤のあらすじでの主人公の台詞をそれらしく言う。
何故覚えてんだ。
「こいつ見始めたら止まんねーじゃん、どうするよ」
「どうするか」
「ほら、てめーらもこれ見ろ!おら!」
そしてやたらと見せたがる。




