武器
涼葉の異能と普段の生活を一ヶ月ほど観察し、彼女の持つ癖や特性などを理解できるようになっていった。俺は人の自主性を尊重するという考えのため、基礎と応用の仕方をアドバイスし続けてそれをどう伸ばすかを自分で考えさせている。
この教え方が涼葉にとってとても合っていたようで、この1ヶ月で見違える程伸びて行った。
そして、この子には俺の刀のような、扱いやすい且つ特性を伸ばせるような物を持たせるが良いと判断する。
俺は朝早く起き、リビングの大きな机に紙を広げて、頭の中にあるデザインをいくつか書き込んでいく。異能を銃に溜めて発射する物や、モーニングスター、大鎌、異能動力のアーマードスーツ、魔法の杖のようなものなど様々な武器を設計図に書いたが、どれもパッと来ないものばかりだった。
「…なかなか難しいものだな。単純な異能だったら考えるのは楽なんだが、なんせあいつの異能はかなり複雑だからその分それに合った構造にしないと」
今考え込んでも進まないと感じ、とりあえず休憩をとることにする。キッチンに向かいコーヒーを淹れている最中に涼葉の部屋の扉が空いた音がした。廊下に目を向けると、寝癖だらけの涼葉が目を擦らせながら歩いてきているのが分かった。
「おはよーほたるー…眠いよお」
「おはよう。まだ疲れが取れてないなら無理して起きなくていいぞ」
俺のその声を聞いてか、涼葉はリビングに置いてあるソファーに直行する。どうやらソファーで二度寝をしようと思っていたらしいが、ちょうど座ったタイミングで机の上に広げてある設計図をまじまじと見ていた。コーヒーを淹れ終わった俺は設計図を見ている涼葉に気づき、コーヒーの入ったコップを持って涼葉の隣に座る。
「俺が作った設計図、そんなに面白いか?」
涼葉はさっきまでの眠気が覚めたかのように目を輝かせて設計図を見ていた。一通り見終わったのか、キラキラした子どものような目でいきなり俺の方に視線を移してきた。
「ねえ!!これなに!」
「近いなおい。これはな、お前が使うであろう武器の設計図だが、どれもお前の異能に合うかわからんくてな」
鼻と鼻が触れ合うほどの距離まで近づいた涼葉を少し離し、設計図について軽く説明する。それを聞いた涼葉はますます興奮したのか、矢継ぎ早に考えを述べ始めた。
「うちはね、この大鎌と魔法の杖を合わしたやつが良いと思うの!」
「ほう、普通はどちらかになると思うが」
涼葉が俺に出来るかどうかわからないことを口にし、俺は困惑する。涼葉は俺の書いた大鎌の設計図を手に取り、改めて説明してくれた。
「普段は大鎌の刃の部分はなくて、必要になったらうちが異能で作り出すの!どう?うちの考え」
涼葉の口からかなり斬新なアイディアが出て来て俺はひらめく。そして、制作する武器の設計図が浮かび俺は涼葉に感謝を述べた。
「それは面白いな、ちゃんと設計図が思い浮かんだ。俺は材料調達をしてくるからお前は訓練をしていてくれ」
「うん!わかった!」
地下にある訓練場へウキウキで向かった涼葉を見送った俺は、早速設計図制作に取り掛かることにする。一部の設計図を丸め、杖と大鎌の設計図を机に広げてそれを参考に2つの性質を合わせた設計図を書く。
一時間机に向かって俺が納得する設計図が出来上がり、次は材料調達をすることにした。俺の刀の刀身の材料を提供してくれた鉄鋼の専門家に連絡するとすぐに返事が返ってきて、2日後には受け渡しの準備が整うと伝えられる。
「さて、俺も涼葉と一緒に訓練しに行くかな」
受け渡しの日まで何もしないのは癪と感じ、俺は壁に立て掛けてある練習用の木刀を持って地下に向かった。訓練室に着くと、汗だくになりながら異能を発射したり、飛ばした異能の軌道を自分の思い通りに曲げて訓練用のダミーアビスに当てているのが見える。
俺が教えた訳でも、やれと強制した訳でもないがここまで自分の異能を思い通りにしている異能者は初めて見た。恐らく、涼葉は向上心と想像力がずば抜けていると感じる
異能の軌道をコントロールしている涼葉の姿がこれまでのふわっとした雰囲気ではなく、本気の狩人の雰囲気を醸し出していた事に関心する。
訓練室の入口で涼葉の異能のコントロールを見ていた俺に気づいたのか、涼葉はすぐに訓練を中断し俺の方に駆け寄ってくる。
「見てたの蛍?!どうかしたの?」
「俺も一緒に訓練しようかな思ってこっちに来たんだ。にしてもお前、会った頃とは段違いに異能のコントロール力が上がってるな」
ストレートに褒められたことに嬉しかったのか、涼葉は自信満々な笑顔を浮かべた。そして、まるでまだ褒めてもらいたいのような顔を俺に向ける。
「でもまだ伸びしろは沢山あるぞ。自信が付くのはとても良いことだが、それに加えて改善点を一緒に見つけていこう」
「ちぇ!もうちょっと褒めてほしかったのに!でも一緒に考えてくれるの嬉しい」
どうやら俺が期待通りの行動をしなかったことに少し不満を持ったらしいが、考えることに満足してくれた。汗だくの涼葉に俺はタオルと水分を渡して、休むように指示をしようとする。涼葉はそれを受け取って口を開く。
「ありがとう!でもうちまだ疲れてないよ?」
「疲れてる疲れてない関係なしに定期的に休息を取ったほうが良い。ある程度ストレッチとかして、今日は終わりだ。明日俺と一緒に実戦形式の訓練をしよう」
涼葉は俺の言った通りに休憩を始めたが、実戦形式の訓練という言葉が引っかかっているようだった。俺は涼葉が一息つくまで木刀を振って待ち、数十分程経つと涼葉は立ち上がり俺の下へ駆け寄って来るのが見えた。
俺が実戦形式の訓練について説明しようと思ったのと同時に涼葉が口を開く。
「ねえねえ、実戦形式ってどういう感じでやるの?」
「簡単だ。お前がこの1ヶ月、独学で培ったコントロール技術を駆使してアビスを殺す。それだけだ」
涼葉は非常に驚き、明らかに自信が無いようだったが安心させるためにもう1つ説明をする。
「安心しろ。俺が近くに居るから、お前が怪我を負う事は無い」
「なら良かった…神妙な面持ちで言うからうち1人でやらされるかと思った」
「アホか。俺がそんなに鬼畜に見えるか」
俺がそう言うと涼葉は満面の笑みを浮かべながら抱きつこうとしてきたが、避けて腰を抱き抱えお風呂に連れて行く事にした。
「汗かいたろ、風呂入ってこい。風呂終わったらリビングでゲームでもして、ある程度休んだら洗濯物畳んどいてくれるか?」
「はーい!」
俺はニコニコな涼葉を見てから風呂場の扉を閉め、改めて訓練場へ戻る。何時間か技の練習をし、リビングに戻ると綺麗に畳んである洗濯物の隣で涼葉は寝ていた。女子らしからぬ寝方で寝ていたため、俺はそんな涼葉を見て少し微笑み布団を掛ける。
その後俺は風呂に入った後に2人で夕飯を食べ、翌日の実戦形式訓練に備えて早めに寝る事にした。