最強の剣士
大昔、アビスと呼ばれる怪物たちが宇宙から飛来し、人類を襲った。だがそれに対抗するように、人類は異能と呼ばれる力を身に着け、絶滅することなく今日まで文明を発展させ栄えていた。
それでも人類の存亡を賭けた戦いは未だ終わることなく、アビスと戦う戦力として異能の強さが大きな影響力を持つ。
異能とともに歩んだ人類は今日に至るまでアビスと戦争を繰り広げていた。
ここはアビス多発地域。異能を持った人類とアビスの戦闘が繰り広げられている中、一人だけ異能を使わずに刀のみでアビスを討伐している人物が居た。
「よし。これで今日は17体目か」
額の汗を拭き、刀を鞘に収める。今日のアビス討伐の数を政府が支給したアビス討伐者専用の端末が自動で記録し終わり、それを確認すると俺の住んでいる街に向けて足を進めた。
少しして街に着くと街のシンボルである大きな塔に付けてある電光掲示板が目に入る。そこには今日のアビス最多討伐数を記録した人物が映し出されていた。
どうやら俺の名前である蕪丸 蛍と映し出されていた。ランク付けなんてどうでもいいと思い、スルーして自宅へと向かった。
街では俺のことはかなり称賛されているらしく、正直悪い気はしていなかった。
だが、そんな俺を良く思わない人間は一定数居る。異能を使っているようには見えないや現代で刀を使って逆張りかなどの批判的意見も散見された。
このような意見は耳に入ってくるが、俺のアビス討伐の活動に支障は無いため気にしないようにしている。
とある人との約束を果たすためにも、俺は何と言われようとこの活動を続けないとならないと心に決めていた。
今日も良い仕事をしたので、寝る事に決める。俺は1人用のベッドに寝転がり、静かに目を瞑った。
ーー翌日、専用の端末の任務通知で目が覚める。
早朝から巨大アビスとめんどくさそうな任務だなと思いつつも急いで着替え、刀を持って急いで任務地点に向かう。
任務地点に着くと既に政府の制服を着た何人かの人間が討伐にあたっていた。だが見るからにかなり苦戦しており、あと少しこの状態だと全員殺されてしまいそうな雰囲気だった。
「うわああああ!誰か助けてくれ!」
耳をつんざく程の悲鳴が耳に入り、考えるより先に体が動いた。そしてアビスに飛びかかり、一瞬でアビスの首元に到達して大きい裂傷を与える。
裂傷からアビスの血が辺りに飛び散り、辺りは赤く染まる。叫び声を上げながら巨体を振り回すが、俺には大振りで雑な攻撃にしか見えなく、避けるのは造作もなかった。
巨体から繰り出される攻撃を軽くいなし、アビスのコアに視線を合わせる。精神と思考を集中させ、刀を握った。
「居合抜刀 閃」
その声とともに放たれた斬撃は凄まじいスピードでアビスのコアの部分に向かい、アビスをコアごと一刀両断する。
やがてアビスは轟音とともに地面に倒れ、動かなくなった。アビスが倒れると同時に地面に着地して刀を収める。
「おい、お前ら怪我だらけだが立てるか」
俺は怯えきった数人に声をかけ、手を伸ばす。だが正気に戻った政府の人間は俺が誰だかを気づき、伸ばした手は叩かれ拒否をされる。
すぐにこいつらは俺の事を否定する側の人間だと気づいて手を引っ込めた。
「なんでお前は無能力なのに戦っているんだ。否定している人間も多いのに、なんで守ろうとしてるんだ!」
助けた政府の人間は歯を食いしばり、必死な表情で問いかけてくる。助けたのに失礼だなと思いつつも落ち着かせた。
「ふん、面白いことを聞くな。せっかく聞かれたんだし教えよう。俺はこいつに全てを教えられて、約束したからずっと戦ってるんだ」
俺は悲哀に満ちた表情を浮かべながら、ズボンのポケットからボロボロの手袋を取り出す。目を瞑り、俺に起きた過去の出来事をゆっくりと語ることにした。
ーー遡ること、8年前
俺は無能力という理由から家族に勘当され絶望の縁に立たされていた。もうどうしようか、死んでしまおうかと悩んでいた所に蕪丸家専属の執事が手を差し伸べてくれた。
とても暖かくて、優しかった。その手が俺の復讐心を駆り立てた。絶対に見返してやる、無能力でもアビスを倒せると家族に見せつけてやると胸に誓う。
執事に俺の心の内を伝えると、アビスと戦えるよう訓練して貰えることになった。訓練は辛い物ばかりだったが誓いのためならと頑張れた。
何年も訓練をしていくうちに俺は刀でアビスと戦える程強くなり、初めてアビスを討伐も出来た。とても嬉しくて執事と2人で喜んだ。
だけど喜んでる最中にいきなり何かに襲われてしまって、そこからの記憶は断片的で覚えていることは少ない。
ただ俺が覚えてるのは、胸に大穴を開けた執事が血だらけの地面に力無く倒れていた事しか無かった。
執事は掠れた声で俺の名前を呼ぶ。それに呼応するようにすぐさま執事に駆け寄ったが、目は虚ろで呼吸も上手くできていなかった。
「蛍様、あなたはとても強い。だから、約束です。その力で弱き者を救ってくださいね」
そこから執事はもう動かなくなった。とても悔しかった、悲しかった。だがここで止まっても何も得られないと思って焦げた執事の手袋を形見として歩き出す事を決める。
今、俺がこうやってアビスと戦っているのは執事との約束を果たすために、俺の野望の為でもあつた。
話し終えると、さっきまで俺を批判するような雰囲気を醸し出していた2人は項垂れて考え込んでいる。
「すまなかった。安易に批判しようとして」
「俺も申し訳ない」
2人は土下座をし、本気で謝罪をする。覚悟ありきの理由で戦っていたのに対して自分達が批判していたのが余程堪えたのだろう。
「別に。分かってくれりゃあそれでいい」
俺はそう言って2人の土下座を辞めさせようとするが、中々聞かなかった。正直、謝罪なんて求めているつもりは無かったため、無理やり頭を上げさせ足早にここを離脱することにした。
街に戻り、充分な食料を調達して自宅に戻る。自分の事を全て終わらせると疲れからなのか眠気が突然訪れ、眠る事に決めた。