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天使の思い出に~私はニセモノの公爵令嬢~  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売


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いつもお読みいただきありがとうございます!

 三回メロディの身代わりで夜会に出席して、ペネロペはすでに疲弊していた。

 最初は毎度違うドレスを着ることに高揚感を覚えたが、それもとっくに離散した。急性夜会になんて行きたくない症候群である。


 なぜって……夜会は怖すぎる。いや、違う。貴族怖い。

 ドレスの裾を何食わぬ顔で踏まれるのはまだいい方だ。


「あら、もうご病気は良くなったの?」


 この質問もまだ良い方だ。心配されているわけではないのは重々分かっている。

 一番怖かったのは直近の夜会でジュースを令嬢がこぼしたのに「あら、まだご病気が治っていないのではなくて? こぼしてしまわれるなんて。ご病気を移さないでいただきたいわ」と責任をなすりつけられて、大きめの声で言われたことだろうか。


 私も手持無沙汰でジュースをたくさん飲んで、グラスが空になりかけていたのも疑われる要因で良くなかった。あぁ、こうやって貴族は人を陥れるのかと妙に絶望を覚えた。夜会が煌びやかなのは外面だけで、蓋を開ければ泥沼の足の引っ張り合いだ。


「お疲れ気味だね」


 目の前のレックス王子は笑いながらそう指摘してくる。

 ペネロペは夜会の反動で思い切り気を抜いているが、今日は公爵邸で第二王子とお茶会の日だ。今はメロディへの手紙を彼が書いてくれているところだ。サラサラと紡がれる文字は美麗で、ペンの運びすら優美だ。


「塩をかけられたナメクジの真似かい?」


 彼の口からは優美ではない、からかいが飛び出す。


「王子殿下がナメクジをご覧になったことがあるんですか? ないでしょう?」

「君は見たことがあるんだ?」

「キッチンで見たことがあります」


 ふふんと王子相手にマウントを取る。しかし、それはどこまでいってもナメクジマウントであり全く意味がない。大体、人生でナメクジに塩をかけたことがあるからといって何なのだ。


「君は私が側にいない時に夜会でやられてもやり返していたようだけど、そんなに疲れるのか」

「気力を振り絞りますから。やり返さないと悔しくて眠れませんし」


 ジュースをこぼした罪をなすりつけられたので、同じことをやり返した。ちゃんと新しいジュースをもらってご令嬢の高そうなドレスにかけておいた。ペネロペが着ていたドレスも十分に高いのだがそこはおいておく。


「まぁ、あなたこそご病気なんじゃなくて? いいお医者様を紹介しましょうか?」


 という言葉を添えて。

 わざわざ小姑公爵が近くにいる時にやったので、さすがにそのご令嬢はペネロペを糾弾できなかった。虎(小姑公爵)の威を借りまくるペネロペ。これであの日の夜会を意地で引き分けに持ち込んだのである。



「メロディは優しいからああいうことはしないだろうね。気が弱いともいえる。本物の彼女こそ、ああいう女の嫉妬にどう対応するのだろうね」


 王子はこれまた優雅に紅茶を口に運ぶ。自分に嫉妬心など微塵もありませんという顔で。


 嫉妬……嫉妬か。またそういう言葉になるのか。

 小姑公爵も嫉妬がどうだのこうだの並べ立てて、メロディと会わせてくれなかった。


「メロディ様がどう行動するのかは、分かりません。だって過去の情報として聞いていないのですから。でも、私はあの場でやり返して良かったと思います。メロディ・オルグレンの名誉を少しでも守れたなら」


 目の前の王子みたいに、何でも持っている人は嫉妬などしないのだろうか。お金もあって、綺麗な服を着ることができて、勉強だって進学だって制限されない、そんな人なら嫉妬からは縁遠いのだろう。彼は一心に嫉妬だけ受ける存在だ。だから、こんな風に嫉妬は女にしかない、みたいな言い方をするのだろうか。


「そうだね。やられっぱなしではすぐに貴族社会で舐められる。毅然とやり返すか、完全に羽虫だと思って相手にもしないか、どちらかだろうね。まぁ、次からは極力私も離れない様にしよう」


 王子はメロディへの手紙を封筒に入れて差し出してくれる。ペネロペはそれを受け取った。メロディに渡せるかどうか分からない手紙ではあるのだが。


「ありがとうございます」

「あのくらいなら大丈夫だろう。暴力じゃなければ庇えるよ。病気を克服して私の婚約者として頑張っているように見えるだろうから」


 レックス第二王子は多分、表面的に見れば良い人なんだろう。第一王子と違って浮気もしないし、横暴でもない。多少人をからかって遊ぶけれども致命的な欠点はない。小姑公爵のようにネチネチお小言も言わないし、いつもよく分からない微笑を浮かべている王子様だ。


 でも、この人はペネロペとメロディを下に見て憐れんでいるだけである気がした。この前も「申し訳ないことをしている」と言いながらその言葉に温度は通っていなかった。

高位貴族や王族というのは皆こうなのだろうか。自分が高位で素晴らしい生き物であるような顔をして、嫉妬心なんて醜い感情なんて持たず、ペネロペたちを憐れむのだろうか。


 メロディはこの人のどこがいいのだろう。やっぱり長い間一緒にいると違う面でも見えてくるのだろうか。

 この人に比べれば、小姑公爵はとても人間らしい気がした。



 第二王子が帰って、入れ替わりに小姑公爵が帰って来た。

 そういえば、小姑公爵も忙しいようで直近の夜会の反省点もといダメだしを聞かされていない。あのジュースかけは良かったのか、悪かったのか聞いておかないと。第二王子では埒が明かない。


 家令と侍女長には褒められたが、それでも少し不安が残る。夜会後すぐにネチネチ言われなかったから「相当不味い」わけではないと信じたいが。


 小姑公爵はメロディの様子を使用人から先に聞いていたらしく、疲れた様子だった。


「メロディがハンガーストライキを起こしている。お前に会わせろと」


 小姑公爵は最初から小姑だったわけではなかったし、最初は私を「君」と呼んでいたはずだ。こっそりメロディに会っていたことがバレてから「お前」になった気がする。


 いや、そんな小さな変化の前にハンガーストライキの話だった。

 あぁ、もしかして。メロディは今日第二王子が来ていたのを窓から見ていただろうか。手紙を王子が書いているのを見ていたのかもしれない。

 ペネロペは急に会いに行くのをやめている状態であるため、どんな顔をすればいいのか分からなくてメロディの部屋を敢えて見上げなかった。


「元々メロディは食が細いのに、これ以上痩せては困る。ついてこい」


 小姑公爵のシスコン度合はブレない。病弱な人にハンガーストライキされたらペネロペでも怖いなとは思う。


 今日王子から預かった手紙を慌ててポケットに入れ、小姑公爵の背中を追いかけた。


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