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「メロディが昼間に眠そうにしているから、ずっとおかしいと思っていた」
さすがシスコン小姑公爵である。腕組みをしてなんなら笑みまで浮かべているが、目は一切笑っていない。大変怒っておられる。
「まさか、夜に隣の部屋から飛び移って忍び込むとは。そんな方法を思いつくなんてな。子爵家のご令嬢は考えることが違う」
さすがは公爵様である。怒っていても声を荒げない。しかし、空気は威圧感を孕んでいる。視覚ではなく本能に訴えるレベル。
「何度頼んでもお会いできなかったので」
「当たり前だ。病がうつったらどうする」
「メロディ様のお世話をする使用人は何人もいました。うつるような病なら、とっくに彼女たちにうつって屋敷中に蔓延していたはずです。お医者様の頻度だってそこまででもない。感染力の弱いただの風邪などでしょう。それに、そんなにうつるのならば領地に送って隔離くらいしているはずです」
「……意外と頭は回るようだな」
それはそうだ。私だって頭はついている。
小姑公爵は大変イライラしているようで、腕組みした指をせわしなく動かしている。
「どうしてうつるものでもないのに、会わせてくださらなかったんですか。演技をするなら会わせてくれた方が絶対にやりやすいです」
「魔術契約書にその事項も書いておくべきだったな。勝手にメロディと接触することを禁ずると。私の落ち度だ」
全く答えになっていない答えを小姑公爵は口にする。
「ずっと部屋に閉じこもった状態で、生きてるって言えるんですか? 生きることは楽しいはずなのに、メロディ様はとても退屈そうでした」
急にバルコニーに現れた私を招き入れるくらいだ。散歩くらいはしているだろうが、彼女は会話に飢えていたようだった。それに嫉妬していた。王子と話す私に。
小姑公爵は軽く睨んでくる。今度は舌打ちでも我慢していそうな顔だ。
「夜会シーズンが近くなってきていて、第二王子殿下も参加すると言っている。今、この件でお前を切り捨てるのは得策ではない」
「魔術契約書もあるのでそんなことはできないはずです」
あれには、私が違反すれば公爵邸から追い出すとなっていた。
メロディに勝手に会いに行っていい・いけないというのは契約事項に入っていなかったので、契約違反ではないのだ。
「だが勉強は忙しくなる。この国の貴族全員の情報を頭に叩き込んでもらわなければならない」
つまり、勉強を忙しくさせてメロディに会いに行かせないということか。
私の納得できていない表情を見て、小姑公爵は笑った。どんなに地位があって綺麗な顔をしていても、とても嫌な人に見えた。
「逆の立場で考えてみるといい。お前は病弱で、少し気温が変わればすぐ風邪をひくほどだ。身代わりを了承したが、元気いっぱいのお前の身代わりが嬉々として会いに来たらどう思うか」
「嬉しいと思います。彼女は私の代わりにいろんなことを体験してくれるので。話してくれたら嬉しいです。まるで自分が体験したように思うので」
「それはお前の想像力が足らないから、視野が狭いからだ。あるいは、お前が健康そのものだからだ。関節の痛み、喉の腫れ、鼻が詰まって日がな一日ぼーっとする感覚、気怠い体。そんなものがある中で、病気なんて知りませんと元気いっぱいの人間が目の前に現れたら? 実際に会って話したら? どう感じると思うんだ。微塵も嫉妬しないと言い切れるのか」
「……眺めていても、存在を知っているだけでも、嫉妬はするじゃないですか」
「その比ではない。直接会って話して、メロディは今思わなくてもいずれ感じるだろう。『どうして自分に似たこの子は元気いっぱいなのに私は病弱なのか』と。そうなったらメロディもお前も苦しむことになるだろうな」
私は思わず唇をかみしめた。
嫉妬の感覚はよく知っている。でも「仕方がない」で済ませている。それにこれさえやりとげれば、弟を羨む気持ちはかなり減るかもしれないからだ。でも、メロディは? オルグレン公爵家の力をもってしてもいまだに元気にならないのに?
「そう考えるなら、どうして領地に送ったりしなかったんですか。私を領地で教育する手もありましたよね」
「ここで教育するのが一番良かった。信頼のおける使用人たちも揃っている」
「身代わり以外の手段もありましたよね」
「あった。だが、お前がメロディの身代わりになるのがオルグレン公爵家に最も利があった。お前の家だってそうだろう。私は公爵として利を取った。だが、同時にメロディの心の面も心配して今まで会わせなかった。お前とメロディを会せたら、どんな風に人間の感情が動くか分からなかったから。予測できないことに対処はできない。まぁ、お前の無駄な行動力のおかげで無駄になったがな」
私は言い返すことはできなかった。
だって、メロディが嬉しそうにしているように見えていただけで、内心がどうであるかは付き合いの浅い私には分からなかったからだ。
あれは作り笑いだったかもしれない。身代わりをさせた罪悪感でペネロペに会ってくれているだけかもしれない。
嫉妬の感情はよく知っている。
でも、メロディがどうかは分からない。あの視線は明らかに私に嫉妬していたが、会って話してその嫉妬が増大したかどうかなんて分からない。
次の日から小姑公爵の言った通り、この国の貴族情報をすべて頭に叩き込む作業が始まった。教育の時間も増えて、終わるころには体力・気力のある私でもへとへとになるくらいだ。
公爵は本気で、私をメロディに会わせないようにしているようだ。
保管庫には常時カギがかけられてしまい、見回りの時間も一定ではなくなったので無理に会いに行くこともできなくなっていた。
自分の心に従って勢いに任せて彼女に会いに行った時は何も考えずに楽しかった。
でも、小姑公爵の話を聞いた今は、メロディに何と思われているか知るのが恐ろしかった。
楽しかったのが自分だけだったのだとしたら、どうしよう。分からない。怖い。




