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天使の思い出に~私はニセモノの公爵令嬢~  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売


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いつもお読みいただきありがとうございます!

「メロディがまれに昼間に眠そうにしているからおかしいと思っていた」


 さすがシスコン小姑公爵である。腕組みをしてなんなら笑みまで浮かべているが、目は一切笑っていない。大変怒っておられる。


「まさか、夜に隣の部屋から飛び移って忍び込むとは。そんな方法を思いつくなんてな」


 さすがは公爵様である。怒っていても声を荒げない。しかし、空気は威圧感を孕んでいる。視覚ではなく本能に訴えるレベル。


「何度頼んでもお会いできなかったので」

「当たり前だ。病が移ったらどうする」

「メロディ様のお世話をする使用人は何人もいました。移るような病ならとっくに彼女たちに移って屋敷中に蔓延していたはずです。お医者様の頻度だってそこまででもない。感染力の弱いただの風邪などでしょう。それに、そんなに移るのならば領地に送るくらいしているはずです」

「……意外と頭は回るようだな」


 イライラしているようでジルベールという名の小姑公爵は、腕組みした指をせわしなく動かしている。


「どうして移るものでもないのに、会わせてくださらなかったんですか。演技をするなら会わせてくれた方が絶対にやりやすいです」

「魔術契約書にその事項も書いておくべきだったな。勝手にメロディと接触することを禁ずると」


 全く答えになっていない答えを小姑公爵は口にする。


「ずっと部屋に閉じこもった状態で、生きてるって言えるんですか? 生きることは楽しいはずなのに、メロディ様はとても退屈そうでした」


 急にバルコニーに現れたペネロペを招き入れるくらいだ。散歩くらいはしているだろうが、彼女は会話に飢えていたようだった。それに、嫉妬していた。王子と話すペネロペに。


 小姑公爵はペネロペを軽く睨む。今度は舌打ちでも我慢していそうな顔だ。


「夜会シーズンが近くなってきていて、第二王子殿下も参加すると言っている。今、お前を切り捨てるのは得策ではない」

「魔術契約書もあるのでそんなことはできないはずです」


 あれには、ペネロペが違反すれば公爵邸から追い出すとなっていた。

 メロディに勝手に会いに行っていい・いけないというのは契約事項に入っていなかったので、契約違反ではないのだ。


「だが、勉強は忙しくなる。この国の貴族全員の情報を頭に叩き込んでもらわなければならない」


 つまり、勉強を忙しくさせてメロディに会いに行かせないということか。ペネロペの納得できていない表情を見て、小姑公爵は笑った。どんなに地位があって綺麗な顔をしていても、ペネロペにはとても嫌な奴に見えた。


「逆の立場で考えてみるといい。お前は病弱で、少し気温が変わればすぐ風邪をひくほどだ。身代わりを了承したが元気いっぱいのお前の身代わりが嬉々として会いに来たらどう思うか」

「嬉しいと思います。彼女は私の代わりにいろんなことを体験してくれるので。話してくれたら嬉しいです。まるで自分が体験したように思うので」

「それはお前の想像力が足らないからだ。あるいは、お前が健康そのものだからだ。関節の痛み、喉の腫れ、鼻が詰まってぼーっとする感覚、気怠い体。そんなものがある中で、病気なんて知りませんと元気いっぱいの人間が目の前に現れたら? 実際に会って話したら? どう感じると思うんだ。微塵も嫉妬しないと言い切れるのか」

「……眺めていても嫉妬はするじゃないですか」

「それは比ではない。直接会って話して、メロディは今思わなくてもいずれ感じるだろう。『どうして自分に似たこの子は元気いっぱいなのに私は病弱なのか』と。そうなったらメロディもお前も苦しむことになるだろうな」


 ペネロペは唇をかみしめた。

 嫉妬の感覚はよく知っている。でも、ペネロペは「仕方がない」で済ませている。それにこれさえやりとげれば、弟を羨む気持ちはかなり減るかもしれないからだ。でも、メロディは? 公爵家の力をもってしてもいまだに元気にならないのに?


「そう考えるならどうして領地に送ったりしなかったんですか。私を領地で教育する手もありましたよね」

「ここで教育するのが一番良かった。信頼のおける使用人たちも揃っている」

「身代わり以外の手段もありましたよね」

「あった。だが、お前がメロディの身代わりになるのがオルグレン公爵家に最も利があった。お前の家だってそうだろう。私は公爵として利を取った。だが、同時にメロディの心の面も心配して今まで会わせなかった。お前とメロディを会せたら、どんな感情が動くか分からなかったから。予測できないことに対処はできない。まぁ、無駄になったがな」


 ペネロペはそれに言い返すことはできなかった。

 だって、メロディが嬉しそうにしているように見えていただけで、内心がどうであるかは付き合いの浅いペネロペには分からなかったからだ。あの笑いは作り笑いだったかもしれない。身代わりをさせた罪悪感でペネロペに会ってくれているだけかもしれない。


 嫉妬の感情はよく知っている。でも、メロディがどうかは分からない。あの視線は明らかにペネロペに嫉妬していたが、ペネロペと会って話してその嫉妬が増大したかどうかなんて分からない。


 次の日から小姑公爵の言った通り、この国の貴族情報をすべて頭に叩き込む作業が始まった。教育の時間も増えて、終わるころには体力・気力のあるペネロペでもへとへとになるくらいだ。


 公爵は本気で、ペネロペをもうメロディに会わせないようにしているようだ。

 保管庫には常時カギがかけられてしまい、見回りの時間も一定ではなくなったので無理に会いに行くこともできなくなっていた。


 あの時、自分の心に従って勢いに任せて彼女に会いに行った時は何も考えずに楽しかった。でも、今はメロディに何と思われているか知るのが恐ろしかった。


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