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第三話 犯人は俺?

 俺が玄関に出てみると、なぜかすでにクロが来ていて、ガイナの足に体をすりつけている。


 クロ、お前は飼い主より、よそのおっさんのほうがいいのか……。



「――クッ!ガイナ、なにしに来た。お前とは昨晩飲んだはずだが?」



「おいおい、そう冷たくするなよ。俺はお前が落ち込んでるんじゃないかと思って、わざわざ来てやったんだぜ?ウチの奥さんもお前を励ましてこいって言うしな」



 このガイナという男、見た目はいかにも悪事に関わっていそうなゴツいおっさんなんだが、綺麗で優しい奥さんと幼い娘さんがいるのだ。


 猫のクロといいガイナといい、『リア充爆発しろ!』という古くから辺境に伝わる格言は、こいつらのためにあるのだろう。


 ホントに『リア充爆発しろ!』だ。



 だがガイナの奥さんには、いつもお世話になっている。


 彼女は常日頃から、冒険者パーティ《辺境の風》のメンバーのことを、なにくれとなく気遣ってくれているのだ。


 俺も風邪を引いたときなど、体に優しい粥や果物、それに薬草茶までも届けてもらった。


 大恩ある奥さんが俺を励ましてこいとガイナにいうのならば、俺は黙って励まされるだけだ。


 なぜ励まされるのかは知らんが。



「分かった。飲みに行こう」


「そうこなくっちゃ!ささ、行こうぜ!クロ、またな」



 俺は、隣の雑貨屋の奥さんにケンを預け、ガイナと出かけることにした。




・・・+・・・




「よし、飲もうぜ。ゼイルに幸あれ!乾杯!」



――カツン



 俺のグラスに勝手に自分のグラスを押し付けて、ご機嫌で乾杯するガイナ。


 こいつは陽気な男だが、今日はなんだか様子がおかしい。



――わざとらしい陽気さ

――嘘くさい笑顔



 俺の顔色をチラチラとうかがってくる。


 しかも、いつも小遣いが少ないとピーピー鳴いているのに、今日は酒のつまみもたっぷり頼んでいる。


 俺も飲み代の半分を支払わなくてはならない。金には困ってないが、無駄遣いはよくない。



「おい、ガイナ。頼みすぎだ。支払いは大丈夫なのか?」


「大丈夫、大丈夫!ウチの奥さんがお前に奢ってやれって、小遣いをくれたんだ。ドンと任せろ!」


「ほんとかよ」



 俺はガイナの態度に違和感を覚えた。


 さっき、俺の家に誘いに来たときも、おかしなことを言っていたな。



――お前が落ち込んでるんじゃないかと思って、わざわざ来てやったんだぜ?


――ウチの奥さんも、お前を励ましてこいって言うしな


――ウチの奥さんが、お前に奢ってやれって小遣いをくれたんだ



 おかしいな。


 なぜガイナも奥さんも、俺を励まそうとするんだ?


 なぜ俺が落ちこんでいると思うんだろう?


 ガイナはまあいいとして、奥さんが俺を励まそうというのなら、そこにはしっかりとした理由があるはずだ。


 それによくよく見れば、俺を見るガイナの目には、同情といたわり、そして引け目のような後ろ暗さがある。


 ガイナが二晩連続で俺を飲みに誘うというのも、今までになかったことだ。


 昨夜、なにかあったのか?


 俺はあたりさわりのない仕事の話などをして、ガイナに酔いが回るのを待った。



「う~っ、はぁ……結構飲んだなぁ。ゼイル!お前ぇ~飲んでるかぁ!?」



 頃合いだろう。


 さて、尋問を始めるとするか。




「ガイナ、今日はありがとな。お前と奥さんのおかげで、だいぶん気が紛れたよ」


「……そ、そうか。それならよかった」


「やっぱり持つべきものは、いい友人だな」


「ゆ、友人……」


「あ、悪い。お前はパーティリーダーだし、年も俺よりかなり上だ。それを勝手に友人と呼ぶのは失礼にあたるな。俺は育ちが悪いせいで、こんな話し方しかできない。すまない」


「い、いや、いいんだぜ。俺たちの仲じゃないか、マイフレンド!」


「奥さんにも、よく御礼を言っておいてくれ。昨夜はさすがの俺も落ちこんだが、よく考えればいい薬になった。いつまでも引きずるのはよくないしな」


「……ゼ、ゼイル!!すまないっ!俺のせいでっ!」




 なん……だと?


 ガイナ、お前、俺になにをしたんだ。もう少しガイナの情を揺さぶって、更に落としてみる必要があるな。


 そう思った俺が口を開きかけた時、店に入って来たにぎやかな集団が俺たちに声をかけてきた。



「ゼイル君!ゼイル君じゃない!あんた、大丈夫なの?」


「よお!ゼイル。昨晩は心配したぜ?」


「みんな、あんまり触れてやるな」


「ゼイル、女はナタリアだけじゃないからな」



 知り合いの冒険者パーティの面々だった。依頼を終え、夕飯をとりに来たらしい。


 俺を取り囲んで、口々に俺を気遣い始めた。やはり昨晩、飲みに来た席でなにかあったらしい。


 そして、ガイナがなぜか大慌てだ。



「おい!もうそのへんにしてやれよ。昨日の今日の話だ。ゼイルだって……」


「俺がなんだって?」


「えっ、いや、その、なんだ……」



 俺を気遣ってくれていた面々が、今度はガイナを責め始めた。



「ガイナ、だいたいあんたが悪いんでしょ!」


「そうだ、ガイナが悪い」


「ナタリアが他の男と飲んでるところに、ゼイルを連れてくるとか信じられん」


「ゼイルが悪酔いするのも仕方ないぜ」



 ナタリアさんが、他の男と飲んでいた……だと?


 しかも俺が悪酔い……した?



「いや、違っ!ナタリアがこの店に来るとしか、俺は知らなかったんだよ……」


「昨夜のゼイル君、ほんと可哀想だったわぁ。ぼろぼろ泣いちゃって」


「全裸で外を走り回ったときは驚いたがな」



 ぽろぽろ泣いた……?


 全裸で走り回った……?



「ゼイル、安心しろ。夜も遅かったから、外には誰もいなかった。お前が泣きじゃくりながら、全裸で走っているのを見たやつはいない」



 まったく安心できない情報なんだが。



「そ、そうだぞ、ゼイル。俺がパーティリーダーとして、責任を持って全裸のお前を、きちんと家まで送り届けたからな」



 そうか、俺は昨夜、全裸で家まで帰ったのか。

 服くらい着せろよ。



「ガイナ、あんた、服くらい着せてから家まで送りなさいよ。全裸で家まで送るってどういうこと?」


「い、いや、俺は走り回ってるこいつを捕まえて、服を着せようとしたんだぜ?だけどよぉ、こいつ、家で早急にやることがあるから一刻も早く帰らないといけないとか言い出して聞かないのよぉ」



 全裸で帰って、やること?なんだそれは。


――ああ、猫のクロをこねくりまわすことか。よっぽど落ちこんでたんだな。クロに助けを求めるなんて。


 おそらく、触れる前に逃げただろう。あいつはそういうやつだ。



「おい、ガイナ、馬鹿なこというなよ。ベロベロに酔っ払って、泣きながら全裸で走ってるやつに、急ぐ用事なんてあるわけないだろ」


「いや、俺もそう思ったんだけどよぉ。ゼイルは家に帰って服も着ないで、キッチンの椅子に座ってクッキーをバリバリ食べてたぜ?」


「「「クッキー!?」」」


「ああ、泣きながら食ってたな?クッキーの入ったガラス瓶を抱え込んでな」



 俺が泣きながら全裸でクッキーを食べていただと?しかもガラス瓶を抱え込んで。


 みんなの視線が俺に集まる。ガイナや知り合いの冒険者だけじゃない。この店に客として来ている全員が、今、俺を見ている。


 ガイナが恐る恐る聞いてくる。



「ゼイル、あのクッキーってもしかして、昨日、依頼で行った牧場で買った材料で……」



「……ナタリアさんのために焼いた……クッキーだ」


「ああ、ゼイル君……なんてこと」


「「「ゼイル……」」」



 俺はもう、終わりだろうか?


 いや、昨晩の時点で終わってたな。


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