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77話 偽りなき愛

 父親が亡くなっているということで、結婚式の父親役は魔塔主様が申して出てくれた。そのため、私は魔塔主様にエスコートされながらヴァージンロードを歩き、今日結ばれる相手となるエンディミオン様の横へと並んだ。


「クリスタ様。世界で一番綺麗です」


 隣に立つエンディミオン様が、私にだけ聴こえる声でそっと呟く。ちょうどそのとき、神父による誓いの言葉が始まった。


「汝エンディミオンは、この女クリスタを妻とし、病めるときも健やかなるときも、喜びのときも哀しみのときも、富めるときも貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が二人を分かるまで真心を尽くすと誓うか?」

「はい、誓います」

「汝クリスタは、この男エンディミオンを夫とし、病めるときも健やかなるときも、喜びのときも哀しみのときも、富めるときも貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が二人を分かるまで真心を尽くすと誓うか?」

「誓います」

「では、誓いの口づけを」


 その言葉により、私とエンディミオン様は互いを見つめ合うように向き合った。

 改めて正面から見た彼は正装を纏っており、ベール越しでもよく分かるくらいに、いつも以上に洗練された美しさを放っている。その圧巻の美麗さとかっこよさには、思わず息を呑んでしまうほどだ。


 そんな中、目の前のエンディミオン様が私に掛けられたベールをそっと手に取り、持ち上げ始めた。


 ゆっくりと上がるベール。それと共に加速していく鼓動。これからの展開を想像し、自然とときめきと幸せが極まる。

 そして、ついに帳となっていたベールが完全に視界から取り払われた。


 その途端、輝かんばかりの笑みを浮かべる彼が、クリアな視界に飛び込んできた。間違いなく、彼が今まで私に見せてきた中で最上の笑顔だ。


 幸せそうに頬を紅潮させている彼と共鳴するように、自身の顔にも熱が帯びるのを感じる。

 彼もきっと、同じことを感じ取っているのだろう。それくらい、互いに気持ちが高まっているのが分かる。なんて思っていると、エンディミオン様が口を開いた。


「クリスタ様と結婚できる私は、この世で一番の幸せ者です。……愛してます。あなたを一生幸せにしますからね」

「ふふっ、あなたとともにこれからを歩める私は、本当の幸せ者ですね。そんな未来に感謝を……。エンディミオン様、愛しております」


 溢れる幸せとともに笑みを零しながら告げると、エンディミオン様は見開いた目を細め、それは嬉しそうに笑みを零した。だが、その笑みもやがて互いに真剣な表情へと変わる。


 するりと彼の両手が私の上腕に添えられ、視線が交差した。その直後、優しく甘い誓いのキスがそっと唇に落ちた。


 高らかに響き渡る拍手の音。そして、騎士団員たちをはじめとした参列者の歓声が耳にこだまする。それから5秒ほどが経った頃、ゆっくりと唇が離れた。


 キスを終え、エンディミオン様と見つめ合い心が満たされていく。そんな中、エンディミオン様が満面の笑みで声をかけてきた。


「さあ、行きましょうか」

「はい」


 誓いのキスが終わり、後はもう退場するだけ。よって、私は手を繋ぐべく、エンディミオン様が伸ばして来た手を握ろうとした。

 しかし、そのエンディミオン様の手は私の手をすり抜けた。


――えっ……キャッ……!


 手の行き場を失い戸惑った。しかしそれも束の間、突然私の身体が空に持ち上がった。


「エンディミオン様!?」

「こうしてあなたとヴァージンロードを歩くのが夢だったんです。しっかり捕まっていてくださいね」


 そう言うと、エンディミオン様は私を姫抱きにしたまま、ヴァージンロードを歩き始めた。その瞬間、参列席からはヒューと口笛を鳴らす音や、大きな拍手が響き渡った。


「おめでとう!」

「団長! クリスタ様! お似合いです!」

「幸せになれよ!」


 そんな歓声を受けながら、私たちは退場口の扉の方へと進んでいく。その道すがら、かけられる言葉は照れ臭くもあるが、どれも嬉しいもばかり。

 そのため、先ほどまでの戸惑いなんてどこへやら、気付けば私はエンディミオン様の腕の中で、満面の笑みを浮かべていた。


 と、そんな中、ヴァージンロードをもう少しで歩き終えるという地点で、私たちにとある人物が歩み寄り話しかけてきた。


「クリスタ、エンディ。そなたら愛し子のこのような瞬間に立ち会えたこと、僥倖であるぞ。さあクリスタ、これを受け取るが良い」


 そう言うと、ギル様は美術品のように美しくまとめられたブーケを手品のように取り出し、それを私に向けて差し出した。


――こんなものを準備してくれていたのね! 

 なんて素敵なのっ……。

 見たことは無いけれど、とっても綺麗で可愛らしい花だわっ!


「ギル様! ありがとうございます!」


 まさか贈り物を用意してくれているとは思っていなかった。しかも、ギル様からのプレゼントというだけに、喜びもひとしおだ。

 すると、ギル様は喜ぶ私や笑顔のエンディミオン様の反応を確認し、少し悪戯な笑みを浮かべながら、私に向けて話しかけてきた。


「なあに。これは我ではなく、エンディが用意したものだぞ」

「えっ!?」


 てっきり、ギル様が用意してくれたものだと思っていた。そのため、私は驚きながら反射的にエンディミオン様に目をやった。


 すると、エンディミオン様は私の反応をみるなり、作戦が成功したというような笑顔を浮かべて嬉しそうに話しかけてきた。


「この花、見覚えはありますか?」

「い、いいえ……」

「ですよね。実は、これは新種の花なんです」

「えっ、新種なんですか!」


 どうりで見たことが無いわけだ。そう納得していると、エンディミオン様が説明を続けた。


「はい。以前、クリスタ様が芝生を回復させたことありましたよね? そのとき、実は芝生に紛れてその花が咲いていたんです。そして、専門家に訊いたところ、その花が新種の花だと判明しました」


 そう言うと、エンディミオン様は慈しむような瞳でブーケを見つめた。その直後、私へと視線を戻して言葉を続けた。


「この国には、聖女オフィーリアから名を取った花があります。その花のように、私はこの花にクリスタと名付けることにしました」

「クリスタ……?」

「はい。これは、あなたの名がついた、あなたのための花です。私の人生とこの花をクリスタ様、あなたに捧げます」


 そう言うと、エンディミオン様は「驚かせすぎちゃいましたかね」なんて言いながら、呆気にとられている私の頬にチュッと軽く口付けてきた。


 その瞬間、私たちを見た参列客がより大きな歓声を上げた。その声で私はハッと我に返り、喜びのままにエンディミオン様にギュッと抱き着いて、込み上げる感謝を彼に告げた。


「エンディミオン様……ありがとうございますっ……」

「ふふっ、あなたの笑顔が何よりの喜びですからね」


 そう言うと、エンディミオン様は腕の姿勢を戻して彼を見つめた私と額を合わせ、嬉しさを噛み締めるように笑った。するとそのとき、私たちを見守っていたギル様が、満足げな笑みを浮かべながら口を開いた。


「さあ、宴もたけなわ。皆に最後までしかとおぬしらの幸せな門出をアピールすると良い」

「はいっ!」


 そう返事をして、私たちは参列者たちがいる室内側へとエンディミオン様が向き直ったのに合わせ、ギル様から受け取った花束を片手で掲げた。


 その瞬間、一層大きな拍手が私たちを包み込んだ。そして、たくさんの祝福の言葉をかけられる中、退場口の扉が閉ざされた。

 こうして、私たちの結婚式は幸せに包まれるなか幕を閉じた。


 ちなみに扉が閉まった後、エンディミオン様からのキスの雨が止まなかったのは、ここだけの話だ。


 ◇◇◇


 結婚式の日から三日が経ち、私とエンディミオン様は二人で新たな人生を始めた。ただ、それはある人物との別れを表すことでもあった。


「ギル様、本当に行ってしまうんですか?」


 ギル様が帰ると言い出したため。私はエンディミオン様とギル様の三人で、かつて試練開始地点だった断崖絶壁の崖の上に来ている。そして、帰ろうとするギル様に話しかけていた。


「ああ、クリスタが結婚する日までここに留まる。そういう約束だっただろう?」

「そうですが……」


――寂しい。


 そう思っていると、隣にいたエンディミオン様もギル様に声をかけた。


「約束はそうだったかもしれませんが、もっと居てくださっても良いんですよ? 私もギル様と会えないと寂しいです」

「ああ、二人とも可愛らしいことを言ってくれるな。ありがとう。だが、我もそろそろ戻らねばならぬ頃合いなのだ。気持ちだけありがたく受け取ろう」


 そう言うと、ギル様はどこか遠くを見つめ、懐かしむように目を細めた。その姿を見たら、もうギル様を引き止めることは出来なかった。


「そう……ですか。分かりました」


 ギル様の返事を聞き、私は何とか言葉を返した。だが、今までのギル様との思い出が込み上げ、目に涙が込み上がってくる。

 すると、そんな私の表情をみて、ギル様が落ち着きのある優しい声をかけてきた。


「また会いに来る。実は、エンディが贈った花は、あちらの世界にある花なんだ。だから、そなたらの結婚記念日、毎年その花を持って遊びに来るよ」

「来てくださるんですか……!?」

「もちろんだ。我だって、そなたらと会えぬと寂しい。だから、安心してくれ」


 そう言うと、ギル様は包み込むように私を抱き締めてくれた。


「今生の別れではない。また、会える日を楽しみにしておる。エンディと末永く幸せにな」

「はい。ギル様もどうかお元気でっ……」


 そう言葉を返すと、ギル様は私から腕を解き、エンディミオン様の右肩に自身の左手を載せた。


「エンディ。クリスタをよろしく頼む。二人で幸せに暮らしてくれ」

「はいっ。しかと胸に刻みます」

「うむ、それではそなたらに祝福をかけよう」


 そう言うと、ギル様は黄金に輝く光を私たちに降り注いだ。そして、祝福をかけ終わると穏やかな笑顔で口を開いた。


「では、しばしの別れだ。それではな」


 そう言うと、ギル様はそのまま断崖絶壁を飛び降りた。そのため、すぐに飛び降りたギル様を目で追いかけたが、あっという間にその姿は見えなくなってしまった。

 そして、私とエンディミオン様は寂しい気持ちを抱えたまま、共にウィルキンス子爵家へと帰って行った。


 ◇◇◇


「クリスタ様。大丈夫ですか?」


 そう言うと、彼は長椅子に座る私の横に腰を掛け、手に持っていた二人分のココアを机の上に置いた。そして、隣の私を横から包み込むように抱き締めてきた。


 包容力のある彼のこの優しさに、つい甘えたい気持ちが湧いてしまう。


――今日くらいは良いわよね……。


 そう思い、私は彼の正面になるよう身体の向きを変え、彼の胸に顔を埋めるようにして抱き締め返した。

 すると、エンディミオン様は私が弱っていると思ったのだろう。それは優しい声音で、更に言葉を重ねた。


「……私が居ますからね」


 そうただ一言を告げると、彼はそれ以上何も言わず、私を抱き締める腕の力を少し強めた。その瞬間、私の心にはエンディミオン様の真摯で実直な想いがグッと刺さり、彼への愛おしさが込み上げてきた。


「エンディミオン様」

「はい」

「私、あなたがとっても大好きです。愛してます」

「えっ!? わ、私もクリスタ様を愛しております! ど、どうされたのですか!?」


 私の突然の言葉に戸惑ったのだろう。抱き着いたエンディミオン様から聞こえる心音が、一気に速くなった。

 だが、私はそんな彼に想いのままを続けた。


「どんなことがあっても、あなたと一緒なら大丈夫だって思えたんです。大好きです」


 そう告げ、私はエンディミオン様から腕を解き、彼の頬に両手を滑らせた。そして、真っ赤に顔を染め上げた彼の唇に、チュッと音を立ててプレッシャーキスをした。


「あなたが居る、そこが私の居場所です。寂しくても、あなたが居れば乗り越えられます」

「クリスタさまっ……」

「エンディミオン様、ずっと一緒に居てください」


 そう告げて、もう一度チュッと軽く口付けた。すると、子犬のようになっていたエンディミオン様が、突然私の後頭部と腰に手を回した。そして、互いの吐息が絡み合う、深い口づけが始まった。


「クリスタ様、っこないだの夜みたいに、もう一度、エンディと呼んでください。敬語もやめてっ……」


 呼吸の合間に、そう告げてくる。そんな彼に、私も言葉を返す。


「分かったわ、エンディ。っ、私も、クリスタと呼んでっ……」

「っ! はい、クリスタ。好きです、愛してるっ……」


 そう言うと、彼は深く甘い口づけを重ねてきた。


 ◇◇◇


「ねえクリスタ、手、出してくれますか?」


 キスを終えると、彼がそう言って左手を差し出して来た。


 そのため、私も言われるがまま左手を出した。すると、彼は差し出した私と自身の左手の掌同士を合わせ、指を絡め合うように握り話を続けた。


「昨日よりも今日、今日よりも明日というように、好きの気持ちが更新してるんです。一年後には、もっと仲良くなりましょうね。クリスタ、愛してます」


 そう言うと、彼は私と目を合わせたまま、絡めた私の左手の甲にチュッと口付けた。直後、彼がそれは幸せそうなはにかみ顔をこちらに向けた。その表情が、私の心をときめかせるには十分で。


「っ……エンディたら可愛すぎるわ」

「クリスタの方が可愛いです。だって――」


 そう言いながら、彼は不意打ちで私の耳にキスを落とした。


「あれだけキスしたのに、これだけで赤くなるんですよ?」

「もう! からかわないでよ! あなただってすぐに真っ赤になるでしょう?」


 そう言いながら、拗ねたように彼の服の裾を握ったところ、彼がガバッと私を抱き締めた。


「当たり前じゃないですかっ……! あなたのことがこんなに大好きなんです。……クリスタ、しばらくこうして抱き締めさせてください」

「奇遇ですね。私もちょうどあなたを抱き締めたかったところです」


 そう返すと、彼はフフッと嬉しそうな笑い声を出して、ギューッと私のことを抱き締めてくれた。それに応えるように、私もギュッと彼を抱き締め返した。


 過去の私は、人の愛に対して疑心暗鬼になっていた。それに、偽りの愛を真実の愛と誤解していた時期もあった。

 この人は私のことを愛しているのか……? そんな疑問が心を過ぎったことは数知れない。


 だが、今の私なら自信をもって言える。

 エンディミオン、彼は私を愛してくれている。そして、私もエンディミオン、彼を愛していると。


 彼はちょっぴり、いや、かなり変人だ。だけど、私に愛を教えてくれた大切な人だ。

 私の人生の今までの苦労やつらさは、きっとあなたと出会うための試練だったのだと思う。

 そうではないかもしれないが、そう思い込むくらい良いだろう。だって、私は今が人生で最高に幸せなのだ。


 魔道士になったから、エンディミオン様と出会えた。聖女になったから、騎士団で働けるようになったし、エンディミオン様との距離も縮まった……。


 私はこれを、私とあなたが出会うための運命だったと、そう信じたい。


「エンディ……」

「ん? どうしました?」

「あなたと出会えて良かったです。出会ってくれてありがとう」


 そう告げて、私は腕の中からエンディミオン様を見上げた。すると、彼は「私もです」と言いながら、愛らしいはにかんだ笑顔を返してくれた。

 

 そして、私たちは互いの気持ちを通じ合わせるように軽く口付けた後、再び幸せをかみしめるようにギュッと抱き締め合った。



 それから数日後、寂しくなったギル様が早くも会いに来たのは、また別のお話……。

今回の最終話までご覧くださった皆様。

もう号泣です。感謝です。本っ当にありがとうございます……!

何とか、無事完結することが出来ました。

クリスタとエンディミオンを幸せに出来て良かった……。


ブクマやいいねをつけてくださった方。

心の支え、執筆の糧になっておりました。誠にありがとうございます<(_ _)>


また、誤字脱字を教えてくださった方、大変助かりました!そちらの方も重ねて、感謝申し上げます<(_ _*)>


さて、本作ですが、番外編の予定なく本編オンリーで終了です。X(旧Twitter)でご要望があれば番外編を書く可能性もありますが、ご要望がある可能性は限りなく低いと思いますので、番外編は無い前提でお考えいただければと存じます。


何度も繰り返しになりますが、最終話までお付き合いくださりありがとうございました!


生きていると、楽しいことばかりでなく、つらい思いをすることもありますよね。

そんなつらい時、本作が少しでも皆様の気を紛らせたり、楽しさの取っ掛りになったりしていましたら幸いです。

もちろん、ハッピーな気分で読んで、もっとハッピーな気持ちになったという方がいましたら、そちらもとっても嬉しいです(*´ω`*)


今年もまた、新連載を開始する予定です。

また機会がございましたら、別作品でお会いしましょうね!


長文失礼しました。

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