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72話 ルアン家

「あぁ、緊張してきたわっ……」


 そう呟けば、近くにいたギル様がはぁ……と声を漏らした。


「クリスタ。大丈夫だから緊張なんてする必要ないぞ」

「そうと分かっていても、緊張してしまうんです!」


 何を話そうか、どう接したら良いのかという考えが止まらない。その結果、昨夜はほとんど眠れなかった。

 ……寝不足という不安要素を自分で加え、緊張のハードルを上げてしまったのだ。


 しかし、時と言うのは止まってくれないもの。間もなく、ドアをノックする音が聞こえたかと思えば、メイド長が室内で頭を抱えている私に声をかけてきた。


「クリスタ様。ルアン公爵家の馬車のご到着が確認できたようです」


――ついに来たわね……。


 近くの時計を見れば、時刻は約束の5分前。

 物事が現実味を帯び始め、心臓がよりバクバクと音を立て始める。


 だがそれと同時に、来てしまったのなら、後は全力を尽くすしかないという気持ちも湧いて来た。


「分かったわ。玄関まで出迎えに行きましょう」


 そうメイド長に返事をし、ルアン家一同を出迎えるため、ギル様には部屋での待機をお願いし、私は玄関まで移動した。

 すると、玄関に到着した、まさにぴったりのタイミングで扉が開かれた。


「クリスタ様っ!」


 玄関に入ってきたエンディミオン様は、嬉しそうに私の名前を呼ぶと小さく手を振ってきた。

 だが、今の私には手を振り返す余裕はない。なぜなら、エンディミオン様のご両親である、公爵夫妻がいらっしゃるからだ。


 そのため、エンディミオン様には微笑みだけ返し、私は公爵夫妻に向き直りカーテシーをした。そして、緊張を悟られないよう意識して二人に声をかけた。


「初めまして、クリスタ・ウィルキンスと申します。この度は急なお願いにも関わらず、こちらまで御足労頂き、誠にありがとうございます」


――社交界で積極的に関わったことは無いし、初めましてでも問題無いはずよ。

 とりあえず、噛まずに言えて良かったっ……!


 なんて思っていると、荘厳な雰囲気と気高さを漂わせたエンディミオン様の父君である公爵様が口を開いた。


「大事な結婚についての話なら、急であろうが無かろうが問題は無い。むしろ、私たちの予定に合わせてくれたのだろう? 上等なもてなしをありがとう」


 そう言うと、公爵様はフッと微笑みかけてくれた。その表情だけで、私の気はわずかに和らいだ。


 直後、絶世の美女ユフィーナ様と名高いエンディミオン様の母君であるルアン夫人が、公爵様に続けて口を開いた。しかし、彫刻のように美しい夫人が発した言葉は、私に不安の翳を落とすものだった。


「私たち、厳密に言えば初めましてじゃないでしょう?」

「はっ、はい……」


――確かに、パーティーで一度だけ挨拶と言えない程の軽い挨拶をしたことがあるわ。

 初めましてという言葉は避けた方が良かったのかも……。


 公爵様とは違い真顔のままの夫人の反応に、心の中で酷く動揺する。まずいことをしてしまったのかと、血の気が引く感覚も襲ってきた。

 だが、そんな私の耳に夫人の意外な言葉が届いた。


「でしょう? それなら良いの。あなたの認識を把握しておきたかっただけだから、気にしないでちょうだい」


 そう言うと、夫人は口角を上げるでもなく、エンディミオン様にそっくりなただただ美しいその相貌で、私をジッと見つめてきた。


「左様でございますか。っでは、お部屋へご案内いたします。どうぞこちらへ……」


 挫けては駄目だ。そう思いながら、私は部屋の案内を始めた。


――さっきの会話、エンディミオン様はどう思っているのかしら?


 確かめたい。そんな気持ちで、エンディミオン様を盗み見た。すると、とても良い笑顔でこちらを見ている彼と目が合った。


――何でそんなに笑顔なの!?


 そう思った瞬間、エンディミオン様が私の耳元に口を寄せ、周囲に聞こえぬ声で囁いた。


「今日のクリスタ様も素敵です。絶対に大丈夫なので、いつも通りのあなたでいてくださいね」


 一方的にそう告げると、エンディミオン様はすぐに体勢を戻した。

 その言葉を聞き、私の脳内には疑問符が飛び交う。だが、とりあえずエンディミオン様なりのアドバイスだろうと受け止め、ギル様のいる部屋へと歩みを進めた。


「お、待ってたぞ。さあ、こちらに座ってくれ。話をしよう!」


 足音が聞こえたのだろう。公爵夫妻にギル様の説明をする前に、ギル様が内側から扉を開き夫妻に声をかけた。


 驚くことに、ギル様は大人の姿になり、なぜか見たことの無い正装をしている。だが、そんなことはどうでも良い。


 ギル様の不躾な作法により、公爵様たちが怒っていないだろうか。そんな思いが心を占め、私は心の中で悲鳴を上げながら、急いで夫妻に視線を向けた。


 ……案の定、二人ともギル様を見てポカンと驚いた顔をしている。


 だが驚くべきはその後の行動だった。何と、公爵夫妻は楽し気な笑みを浮かべると、ギル様の言う通り席に着いた。


 何が起こったのか分からず、思わず茫然と立ち尽くしてしまう。すると、そんな状態の私に気付いたのだろう。隣に来たエンディミオン様が、優しく声をかけてきた


「クリスタ様、私と隣に座りましょう」


 その言葉に従い、私はギル様とエンディミオン様に挟まれる形で、公爵夫妻の対面の長椅子に着座した。


 それと同時に、対面に座ったルアン夫人の表情は笑顔からスンと真顔に戻った。かと思えば一呼吸置き、夫人がまるで射貫くかのように私を見つめてきた。


「あなたに一つお願いがあるの」

「お、お願いとは……?」


 先程の玄関での会話以降、ルアン夫人を少し怖いと感じてしまっていた。だからこそ、お願いという幅広い意味を持つ言葉を言われ、ドキリと心臓が跳ねる。


――何を言われるのかしら……。

 聞けるお願いなら良いのだけれど……。


 そんな不安を抱えながら、夫人に真っ直ぐと視線を返した。すると、夫人は真剣さを崩さぬ表情のまま、そのお願いとやらを口にした。


「あなたのことを、クリスタちゃんと呼んでも良いかしら?」


――……ん?

 それがお願い?


 隣から「フッ……」と吹き出す声が聞こえると同時に、私の脳内では疑問符が浮かぶ。

 笑い声の持ち主を見れば、手で口元を隠しながら、嬉しさを滲ませたような表情で笑みを零していた。


――とりあえず……私の幻聴では無いみたいね。


 彼の反応でそう理解したため、私は夫人に言葉を返した。


「お、恐れ多いですが、お好きなようにお呼びくださればと……」

「本当に? 嬉しいわ。ずっとクリスタちゃんがエンディミオンの配偶者になってくれたら良いなと思っていたのよ」


 そう言うと、先ほどまで怖いとさえ思うほど真顔だった夫人が、一気に花の咲いたような、それは美しい笑顔で微笑みかけてきた。


 今度こそ幻覚か……? なんて思ってしまう。すると、そんな私の心情を察したのだろう。公爵様が上品な笑みを浮かべ声をかけてきた。


「君がエンディミオンの命を二回救ったと知って以来、ユフィーナは君が大好きなんだよ。それで、今日は大好きな君と会えるとあって、緊張でおかしくなっていたんだ。すまないね。許してやってくれ」

「緊張ですか……? 夫人が?」


 先程の夫人の表情を緊張だと言われれば、確かにそのような気もしてくるかも? なんて思っていると、私が漏らした呟きに夫人が反応した。


「あなたに忘れられていたらどうしようと思っていたから、初めましてって聞いてドキッとしたわ。でも、覚えていてくれて嬉しい。ありがとう。それにしても……夫人だなんて寂しいわ。あなたにはぜひ、お義母様と呼んで欲しいの」

「は、はぁ……」

「って、突然言われても戸惑うわよね。ごめんなさい。エンディミオン、あなたもフォローなさい」


 圧倒されているうちに、夫人がエンディミオン様に話を振った。かと思えば、慈愛に満ちた表情のエンディミオン様が、私の手に自身の大きな手を重ね話しかけてきた。


「クリスタ様。変わり者の母ですが、クリスタ様への愛は僕の次に強い人です。なので、クリスタ様さえ良ければ、マナーや体裁など気にせず、気楽に接してあげてください」

「い、良いんでしょうか……?」

「「ええ、もちろんよ!/はい。もちろんです!」」


 そう言うと、そっくりな美貌を向けた二人が、輝かんばかりの笑顔で私に笑いかけてくれた。その笑みを見た瞬間に、私と言う人間を歓迎してくれているということを実感し、私の中の不安や緊張は一気に弾け飛んだ。


 ◇◇◇


 和気藹々とした雰囲気で、顔合わせは進んだ。その中で、レアードやアイラ、継母であるカトリーヌの話もしたが、公爵夫妻はすべて知ったうえで私のことを認めてくれた。


 私にとって後ろめたい過去や足かせのような部分も、丸ごと受け入れてくれた。そんな夫妻の懐の深さを知り、エンディミオン様の底なしの優しさの理由を見つけたような気がした。


 そのような中、突然夫人がある紙を机の上に置いた。


「クリスタちゃん。実は顔合わせと聞いて、嬉しすぎてこれも一応用意したの。確認してくれるかしら?」


 そう言われ、私は内容を確認するために、恐る恐る机の上のその紙を手に取った。

 すると、エンディミオン様もその紙については知らなかったらしく、「私にも見せてください」と声をかけてきたため、一緒にその紙を覗き込んだ。


――婚約手続書……?


 紙の上部に、間違いなくそう記されている。そのことを確認した瞬間、お義母様が更にもう一枚紙を出した。


「こちらにも目を通してくれるかしら?」


 何だか勝手に手が震えてくる。そんな状況で新たに出された紙を手に取り内容を見ると、そこには婚姻手続書と記されていた。


「母上、いくら何でも性急すぎですよ。私はいつでも良いですが、クリスタ様に押し付けられません」

「そ、そうよね。嬉しいからって、ちょっとやりすぎたかしら? ご、ごめんなさいっ……。クリスタちゃんに負担をかけたいわけではなかったの」


 その言葉を聞き、紙に釘付けになっていた私は、慌てて顔を上げた。すると、困っておろおろとしているお義母様の姿が目に映った。


「クリスタ様、婚約や婚姻のタイミングはあなたに合わせますからね?」


 そうエンディミオン様が声をかけてきた。それと同時に、「ユフィーナ、やりすぎだよ」という公爵様の声も聞こえてきた。


 だがそんな声が聞こえる中、私は自身の心に問いかけた。


――私はエンディミオン様と結婚するために顔合わせをしているのよ。

 正直、いつ結婚しても良いとさえ思ってる。

 婚姻はまだしも、婚約は問題ないんじゃない……?


 そう結論付け、私はルアン家一同に対し声をかけた。


「婚姻手続書は早いと思いますが、婚約手続書はいつでもサインできますよ」

「え? 良いのですか!?」


 そんなエンディミオン様の反応を見て、私は彼に言葉を続けた。


「言いましたよね。あなた以外に結婚相手は考えられないと。それなのに、婚約を引き延ばす必要は無いでしょう? ご両親と顔合わせも出来ましたし、私はいつでも良いですよ」


 ね? と付け加えると、エンディミオン様は今にも泣き出しそうな笑みを浮かべ、お義母様はなぜかギル様と共に「やったわ!」なんて言って喜んでいる。


 公爵様だけは私を見てポカーンと茫然とした顔をしていたが、クスッと一笑いした後、あっという間に破顔した。


 こうして皆で盛り上がった後、私はお義母様に差し出された婚約手続書に署名した。婚姻についてはエンディミオン様と話し合って日取りを決めることなった。


 そして、ルアン家一同がやって来て二時間が経った頃、ようやく初の顔合わせはお開きという形に相成った。


「君がエンディミオンと婚約してくれて、本当に嬉しいよ」


 ルアン家一同を見送るために馬車へと移動し、お義母様が馬車に乗り込んだところで公爵様が声をかけてきた。


「こちらこそ、受け入れてくださってありがとうございます」

「君のように聡明な子なら、受け入れて当然さ。ユフィーナも気に入っているから尚更だよ」


 そんなことを言われたら照れてしまう。なんて思っていると、公爵様が間を置き気遣わし気な表情で話しを続けた。


「ただ一つ、念のために確認したいことがあるんだ」

「はい、何でしょうか?」

「私たちは……君が聖女だと知っている。招集されたし、妻には伝えたからな。だが、君には一人の娘、息子の嫁として接したい。それでも良いだろうか?」


 その言葉は、私にとって何よりも嬉しい言葉だった。


「そう接していただきたいです! その方がとっても嬉しいです!」

「そうか! それなら良かった。それでは、時間を作ってまた会おう。今度はルアン家に遊びに来ると良い」


 そう言うと、公爵様はエンディミオン様に声をかけた。


「エンディミオン。素敵な人と巡り合えて良かったな」

「はいっ!」


 幸せそうな笑みで、エンディミオン様が公爵様に返事をし、こちらに視線を向けた。すると、公爵様は私たちの様子を見て笑みを零し言葉を続けた。


「今日から二人は正式な婚約者同士になった。父として、二人の関係を心から祝福しよう」


 その言葉に、私たちは「ありがとうございます」と笑顔で返事を返した。


 ◇◇◇


「という訳で、私たち、婚約しました」

「クリスタ様は昨日を以て、私の婚約者ですっ!」


 復帰して初の出勤日の昼休み、医務室に集まっている面々に私は婚約したことを報告した。

 すると、報告を聞くなり、真っ先にカイルが口を開いた。


「やっとだな。おめでとうっ……。クソ……こっち見んな! っ、うぅ……こちとら最近クリスタのせいで涙腺がおかしくなってんだよ!」


 そう言うと、カイルは耳を真っ赤にしてごしごしと腕で涙を拭った。すると、そんなカイルの肩に先生がポンと手を置いて話しかけてきた。


「カイル君は喜びでホッとしたんでしょう。見逃してあげてください。そして、僕からも改めて……。クリスタさん、エンディミオン君、おめでとう」


 ニコッと穏やかな笑みを浮かべ、おめでとうと言ってくれる先生にお礼の言葉を返すと、エンディミオン様は続いてカイルに優しく声をかけた。


「カイル団長もありがとうございます」

「ああ。グスっ……俺の親友を泣かしたら許さねえからな」

「当然です。幸せにしてみせます」

「その言葉を忘れんなよ。あと、クリスタ」


 突然名前を呼んだかと思えば、カイルが泣いて赤くなった目を私に向けてきた。


「な、なに?」

「想いに応えたんだから、クリスタも責任持ってエンディミオンを幸せにしろよ」

「愛する人と結婚するんだもの。当然でしょ?」


 当たり前すぎることを言われ、カイルに笑いながらそう返した。するとその瞬間、医務室の扉がガタガタと音を立てて開いた。


「姉さん! い、今の話は本当か!?」

「結婚って……エンディミオン団長と!?」


 物音に驚き振り返ると、そこには第五騎士団が集まっていた。ライオネル団長もその中におり、皆に落ち着くよう声をかけていた。

 しかし、団長も気になったのだろう。部下たちを諫めながらも、声をかけてきた。


「クリスタちゃんが出勤したって言うから、様子を見に来たんだが……エンディミオンと結婚すると言うのは本当か?」


 その質問に対し、エンディミオン様が嬉しそうな笑みを浮かべ、ライオネル団長に答えた。


「結婚の時期は未定ですが、昨日クリスタ様と婚約を結びました」


 そう言うと、私の肩に手を添え、ね? と顔を覗き込みながら、極上の笑顔を浮かべたエンディミオン様が微笑みかけてきた。


 婚約前は不用意に触れて来なかった彼だからこそ、ほんの少しの接触でいちいち心臓がドクンと音を立てる。

 つい赤面していないだろうか。そんなことを考えながら、私はライオネル団長たちに告げた。


「はい……婚約しました」


 彼に一瞬視線をやり、再びライオネル団長たちに視線を戻す。すると、途端に歓声が飛び交った。


「エンディミオン団長! おめでとうございます!」

「良かったな! エンディミオン団長!」

「お前はすごい奴だよ。皆に知らせないと!」


 そう言うと、ライオネル団長を除いた団員たちは皆、はしゃいだ様子で医務室から出て行った。


 それから数十分後、騎士団中に私たちの婚約話が完全に広まっていた。恐らく今日出勤している騎士団関係者で、私たちの話を知らない人はいないと思う。


 何人かはわざわざ医務室に来て、婚約のお祝いの言葉をかけてくれた。ワイアット団長もお祝いを言いに来てくれた。


 そんな中、私が驚いたのはエンディミオン様が団長を務める第三騎士団の団員たちの反応だった。


 なぜか、彼らはやって来るなり、私に土下座せんばかりの勢いで感謝の言葉を口々に述べてきたのだ。というのも、第三騎士団の団員たちは、常々自身に厳しいエンディミオン様に心配していたのだという。だから、私が婚約者になったと知り安心したらしい。


――心配はかけちゃダメよね。

 でも、あの皆の喜んでいる顔……。

 エンディミオン様より年上の団員も多いけれど、ちゃんと慕われているのね。


 第三騎士団の団員たちからエンディミオン様の話しを聞く機会は意外と少ない。そのため、彼の一面を窺うことができ喜んでいた。

 そんな幸せに浸っていた私は、そのときある人物の存在に気付かなかった。


 ◇◇◇


「ちょっと良いかしら」

「またあなたですか。お引取り――」

「エンディミオン様にお目通りをお願いいたしますわ」

「はぁ……。だから、毎回言っておりますが無理です。お帰り下さい」


 そう告げられた彼女は、可憐な美貌を怒りで歪ませた。


「何ですって? 私は、アマンダ・ヴェストリス。公爵家の一人娘なのですよ。それなのに、あなた――」

「諦めた方が良いですよ。エンディミオン団長はご結婚されるので」

「えっ……ど、どういうことよっ……」


 動揺を隠しきれない彼女に、容赦なく言葉が投げかけられる。


「エンディミオン様はご婚約なさいました。あなたとは別の方と結婚されるのです。どうかお引き取りください」

「その女は誰?」

「お答えいたしかねます」


 その言葉を聞き、どれだけ問うても受付は絶対に名前を教えてはくれないと悟った。

 そのため、いつもはもう少し粘る彼女も聞き出すのを諦め、よろよろとした足取りで家門の馬車へと戻った。そして、馬車に乗った瞬間、覇気を失った顔をしていた彼女の顔は憤怒に染まった。


「エンディミオン様が婚約されたですって……。そんなの、絶対に認めないわっ……!」


ご興味のある方だけ、補足をお読みいただければ幸いです。

カイルとクリスタの関係についての設定について、少しお話を……。



◇◇◇



 魔導士学校は平民も貴族も関係なく、素質が認められた者が通えます。しかし、学内に平民は少なく、平民を下に見て、幅を利かせる貴族子息や令嬢が多くいました。

 その中で、成績が良かった平民のカイルは、早速目を付けられいじめの対象になってしまいました。

 相手は貴族、カイルは安易にやり返せません。結果、どうせ平民の俺は一生こうなんだ……と思って過ごすように。そして、そのまま一年が過ぎ、彼は二年生に進級しました。


 そんなとき、彼が出会ったのがクリスタです。カイルとクリスタは、二年生で同じクラスになりました。


 彼女は、とにかく良い成績というのに執着してました。(レアードと一緒に働くために)

 そのため、彼女は成績優秀なカイルに勉強を教えてくれないかと頼みました。


 カイルにとって、他の人と同じように接してくれる彼女は新鮮でした。平民の自分に、それはフランクに話しかけてくる彼女が、彼にとっては不思議で未知な存在だったのです。

 そして、クリスタは意図せずですが、彼女が話しかけてくれるという状況が、カイルの自己肯定感を回復させることになりました。


 「カイルったらすごいじゃない!」「あなたは面白いわね」「一緒にこの研究室に行ってみない?」等と、対等な友達として接してくれるクリスタの言葉により、カイルは自身を認められたような気持ちになったのです。


 また、クリスタがカイルと楽しそうに話している姿と、二人とも成績が良いということを知り、クラスメイト達もカイルと普通に接するようになりました。

 一年生の時にいじめていた人間も、カイルの過去を知ったクリスタにめっためたにされたので、カイルをいじめる人も次第にいなくなりました。


 そのため、カイルはクリスタのことを本当に大切な友達であり、恩人だと思っています。

 アルバート先生が好きだと告白したときも、クリスタは気持ち悪がらないでいてくれたので、カイルにとってクリスタは恋愛的ではなく、人としてより大切な存在になりました。


 こうした経緯があり、カイルはクリスタにこの世の誰よりも幸せになって欲しいと願っています。

 よって、カイルはクリスタの第二の保護者のような言動になっております。

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