7話 仲良し
私とギル様の視線が絡まった。しかし、ギル様が何を考えているかは、その目を見ても分からない。すると、そんな私の疑問を取り払うように、ギル様は過去の出来事について話し始めた。
「昨日のように、たまに人の子が洞窟に入ってくることがあったのだ。しかし、その子らは皆、洞窟に入ってくるなりわれに気付くと、ありとあらゆる攻撃を仕掛けてきた」
「だから、あんなにも傷付いていたんですか?」
「ああ、情けないことにな。われは無駄な殺傷が嫌いだ。だから、攻撃に耐えていたのだ。……だが、こうも一方的にいきなり攻撃をされると反撃せざるを得なかった。もちろん殺してはいないぞ! それだけは信じてほしい……」
強いはずのドラゴンが、人からの攻撃で弱った理由が分からなかった。しかし、ギリギリまで攻撃に耐えていたのであれば、傷を負っていたことも納得である。
――オフィーリア様は、なんでドラゴンがいるよってちゃんと伝承してくれてなかったの……。
そんなことを思いながら、話しの続きに耳を傾けた。
「それで、攻撃されることが当たり前になり8000年の月日が経った。だから、もう攻撃してくる人の子しか来ないと思い、先制攻撃をしかけてしまった。だが、そなたは攻撃の意思がなかった……。本当に悪いことをした。改めてすまない」
――そんなことがあったのなら、いきなりの攻撃はもはや条件反射よね。
でも、何で私に攻撃の意思がないって分かったのかしら?
「お互い無事でしたし、こうしてギル様と仲良くなれました。謝罪はもういりませんよ。ですが、どうして私に攻撃の意思がないって分かったんですか?」
「わ、われが、人の子とっ、な、仲良くだと……!?」
本当に何気なく言った言葉だったが、ギル様の反応を見て失礼だったと焦りが生じる。
「お、おこがましかったですよねっ! すみませんでした。今のは忘れて――」
そう言いかけたが、ギル様は私の言葉を遮った。
「い、いや! そなたの言う通り! われとそなたは仲良しなのだ……! それと、質問の答えだが……」
ギル様はフッと笑いながら私の方へ指さした。
「それだ」
――あぁ、怒らせたかと思って本気で焦ったわっ!
あと、それってどれ……!?
思い当たるものが無く、自身の身体を見てみると手首にハンカチが結ばれていた。
――驚くことがありすぎて、手首にハンカチが結ばれているなんて気が付かなかったわ!
「まさか……これですか?」
「ああ、それだ。そなたの所有物だろう? 置き去るわけにもいかず、とりあえず手首に結んでおいたのだ。上手く結べておるだろう?」
すごいだろ、という心の声が聞こえてきそうなほど、鼻高々な様子で話すギル様が可愛らしく見え、ついクスっと笑ってしまう。
「な、何がおかしいんだ……!」
「いや! おかしくて笑ったわけでは! ただ、ギル様が可愛らしく見えてつい……」
そう言うと、ギル様の顔がカっと林檎のように赤くなった。
「わ、われが、か、可愛らしい……だと? 人の子がドラゴンに対して可愛いとは……!」
――もしかして今度こそ怒らせたちゃった……!?
ヤバいと思ったその瞬間、ギル様は言葉を続けた。
「……だが、そなたの発言であれば、許そう! われらは仲良しだからな!」
「あ、ありがとうございます!」
「われに二言はない! われは優しい高潔なるドラゴンなのだ……!」
そう言うと、腕を組みえっへんとギル様は得意げな顔をした。
――やだ!
可愛すぎるわ……!
今度こそドラゴンだけに、ある意味逆鱗に触れてしまったかと思ったが、予想外の反応についほっこりしてしまう。
そのせいで、すっかり話が横道に逸れそうになったが、強制的に話を戻した。
「ところで……何でこのハンカチを見て、攻撃の意思がないと分かったのですか……?」
すると、きょとんとした顔になったギル様は、ハハハっと笑った。
「人間は戦意が無いときには、白いハンカチを上げるのだろう? それくらいドラゴンでも知っておる! それに……」
白旗を上げたと思ったからだったのかと納得しかけたが、他にも理由があることに驚く。
――それに……何かしら?
その理由を知るべく、ギル様の言葉の続きを待った。
「それに……何だそのヘンテコな刺繍は。しかも、ハンカチのど真ん中にでかでかと……。あんな刺繍を見たら、こちらの戦意も喪失するぞ。だが、その刺繍こそが、そなたに攻撃の意思がないと判断する決め手となったのだ。8000年ぶりに、われに攻撃しない人の子が来たと分かり、嬉しくてついはしゃいでしもうた……」
後半につれ、恥ずかしそうに話すギル様は可愛いが、私はあることの方が気になった。
――刺繍?そんなのあったかしら?
普通のハンカチに見えたけれど……。
ここに来る直前に受け取ったハンカチだ。受け取りはしたが、正直時間があまり無かったため、ハンカチをちゃんと見ていなかった。
それに、ハンカチは綺麗にアイロンをかけて畳まれた状態だった。そのため、何となく汚したくなくて、その綺麗な形のままカバンにしまっていたのだ。
だからこそ、攻撃の意思を持っていないと表明するどころか、敵の戦意さえ喪失させてしまうようなような刺繍があるとは考えてもみなかった。
――一体どんな刺繍を……?
その疑問を解消すべく、私は手首に巻かれたハンカチを解き、それを広げた。
「なんなの……これ?」
すると、そこには刺繍と言えるかどうかも怪しい状態で、生き物のような何かが縫われていた。
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