64話 起死回生
身体にずっしりとのしかかる彼の重みに、私の心臓は一気に凍り付いた。
「エンディミオン……さま……?」
そう声をかけるが、彼はビクともしない。そのため、彼の胸元をトントンと叩き、反応を求めてさらに強く彼の胸元を叩いた。だが、彼は動いてくれない。
――私が油断したせいで、エンディミオン様がっ……。
焦りや信じられなさ、目の前の事態を上手く飲み込むことが出来ないという思いから、私の心はパニック寸前だった。そんななか、容赦なくアンデッドたちは攻撃を仕掛けてくる。
「邪魔しないで! エンディミオン様!? 返事をしてください!」
襲い来るアンデッドたちを跳ね除け、私は必死にエンディミオン様に声をかけた。するとその瞬間、突然エンディミオン様の首元が光り輝き始めた。
――えっ……。
眩いばかりの輝きが眼前に広がり、つい目が眩みそうになる。そのため思わず目を閉じたところ、耳馴染みのある落ち着いた声が耳に届いた。
「クリスタ様、ご安心ください。クリスタ様のお陰で助かりましたよ」
もう二度と聞くことが出来ないかもしれないと思っていた人の声が聞こえ、私は光が収束したと同時に目を開け、その人物を見た。
「エンディミオン様……?」
「はい、あなたのエンディミオンです。ご心配をおかけし申し訳ございません」
そう声をかけられ、思わず彼に抱き着きそうになった。
だが、ここは戦場。命取りになりかねないような行動はしてはいけないと、私はその衝動をグッと堪えた。
「あなたが無事で良かったっ……」
その気持ちだけを伝え、私は先ほどの光の発生源に目をやった。すると想像通り、光の発生源と思わしき場所には、私がエンディミオン様に贈ったペンダントがあった。
――このペンダントが、黒魔法を無効化してくれたのね!
本当に良かった……。
そう思った瞬間、そのペンダントは砂のように崩れて消えていった。一回きりの役目を果たしたペンダントは、その形を失ったのだ。
そのことにエンディミオン様は気付いていたのだろう。少し物悲しそうな表情をしながら、軽く首元に手をあてた。
しかし、彼はすぐに顔を引き締め、我に返った様子を見せた。
そのため、私も気持ちを切り替え、すぐにエンディミオン様や、塔から戻った団長格の人たちに聞こえる声で告げた。
「皆さん、あの男がネクロマンサーです!」
そう告げた瞬間、団長格の団員達が皆、アンデッドを倒しながらもネクロマンサーに目を向けた。すると、どこからともなく、ライオネル団長の声が聞こえてきた。
「エンディミオン! お前がネクロマンサーを倒せ! その間、俺らはアンデッドを全力で止める!」
そう指示を出され、エンディミオン様はすぐに「では、アンデッドは皆さんにお任せします!」と返事を返した。
そのため、私はエンディミオン様の保護魔法の効果を、極めて短時間で強めるため、手を握り話しかけた。
「保護魔法の強化です。どうかご無事でっ……」
肉体的接触により、一瞬で堅固な保護魔法をかけることに成功した。それを確認した私は、すぐにエンディミオン様の手を離した。
すると、エンディミオン様は私の顔を一瞥した、そして、一つ頼もしげな頷きを返すと、そのままネクロマンサーの元へと走り出した。
こうして、エンディミオン様とネクロマンサーの一騎打ちが始まった。
先ほどネクロマンサーがエンディミオン様に黒魔法を放ったことをきっかけに、アンデッドを使役しながら個人で攻撃することも可能だということが確定した。したがって、ネクロマンサーが我々にとって予期せぬ行動をする確率も上昇した。
――どれほどの力を持っているというの?
エンディミオン様の武器は基本剣だけれど、黒魔法を使われるから接近戦で安易に倒せる相手ではない……。
せめて、第八騎士団と共闘出来たら、もっと倒しやすいのに!
そうは思うが、第八騎士団にはそのような余力は無かった。
現在、第八騎士団は二手に分かれている。
まず一組は、この戦場を明るく照らしながら戦っている人たちだ。もし、この明るさが無くなれば、夜という闇により視界を失った騎士たちは、すぐに全滅に近い状態になってしまうだろう。
そして、二組目は塔側から集まってくるアンデッドを返り討ちにするグループだ。そこには、カイルや塔に行っていた第八騎士団の団員たちが配置されている。こうして、こちらに押し寄せようとするアンデッドの進行を防いでいるのだ。
よって、第八騎士団がエンディミオン様とネクロマンサーの戦いに加勢するということが、なかなか難しい状況になっていた。
そのため、私の心には懸念が募っていた。
戦い始めて五分ほどが経過した頃だろう。
戦っている最中、ふとエンディミオン様たちが視界に入り込んできた。
するとちょうどその時、エンディミオン様は何かコツを掴んだ様子で、突然果敢にネクロマンサーを攻め始めた。そしてその猛攻は、途端に一方的な物になった。
――いくらエンディミオン様が強くたって、こんなにも一方的な戦いになるの?
何がとは分からないけれど、何かおかしな感じがするわね……。
彼の強さを信じていない訳ではない。しかし、強大な力を有していると思っていたネクロマンサーが、こうも一方的に責められる展開は予想していなかった。
そんなことを思いながら必死にアンデッドと戦っていると、不意に断末魔のような声が聞こえた。
その方向を見ると、なんと間合いを詰めたエンディミオン様が、ネクロマンサーの身体を剣で貫いていた。
そして、私の脳がその現状を認識したと同時に、エンディミオン様がネクロマンサーの身体から、貫いた剣を引き抜いた。
するとその直後、ネクロマンサーは糸が切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちた。




