6話 神聖力の覚醒
――地面が……揺れている?
何だか体が揺れているような感覚がする。薄っすらと目を開けると、瞼の隙間から明るい日差しが差し込んできた。
その眩しさの影響か、私は徐々に意識を取り戻し、そのままの勢いでゆっくりとだるい身体を起こした。そして、凝り固まった身体を少しでもほぐそうと、地面に座り込んだままグーっと上体を伸ばした。
しかし、そのタイミングで下から強い振動による衝撃が伝わってきた。そのせいで、せっかく身体を起こしたのに、バランスを崩してドテッと地面に転けてしまった。
「いたたたっ……」
突然ひっくり返るように転けたため、体を起こそうと地面に手をついたところ、ふとある違和感を覚えた。
――これ地面じゃない!?
生き物……?
そう気付いた瞬間、一気に頭が覚醒した。そして、自身の周りの景色を見て、私は現状を把握した。
「っ私、ド、ド、ド、ド、ドラゴンに乗って空を飛んでいるの……!?」
あまりにも驚きすぎて、つい声が出てしまった。すると、その声にドラゴンが反応した。
「お! 起きたのだな。良かった。そろそろ目的地に着くから、それまでゆっくり休んでおれ」
――何でドラゴンが喋ってるの!?
私の能力!?
いやいや、そんなわけないわよね……。
じゃあ、ドラゴンの能力?
というか、私ったらこんなとんでもない状況で寝てたの……!?
情報過多すぎる状況に対し、私は考えることを放棄した。そして、言われるがまま、目的地までおとなしくドラゴン様の背中に乗ることにした。もちろん、保護魔法はしっかりかけて。
こうしてドラゴンの背中に乗るという未知の体験をしていると、ドラゴン様の言う通り、すぐ目的地とやらに到着した。
「ここが目的の場所だ。さあ、降りてくれ」
――ここはどこなのかしら?
そんな疑問を抱えながらも、大人しくドラゴン様の言うことに従い、本当の地面に降りた。すると、ドラゴン様が突如、ヒト型の子どもへと姿を変えた。
――え!?
子ども……!?
まさか、私こんな子どもに乗っていたの?
今目の前にいるドラゴン様の姿は、4~5歳くらいの人間の子どもだ。宝石のように煌めく青い目と、シルクのように滑らかな銀白色の長髪を持つ彼は、人形のように美しい。その姿を見ると、妙に罪悪感が湧いてくる。
しかし、そんな私の様子をドラゴン様は気に留めない。そして「少し待っておれ」と言うと、どこかに行った。
それから数分後、言われた通り待っていた私に、ドラゴン様はたくさんの果実を持ってくると、それらを目の前に置いてくれた。
「この果実を食べれば、きっと体力が回復するだろう。ここには美味なる果実がたくさんある。好きなだけ食べてくれ」
みずみずしく熟した果実は、まさに食べごろといった様子で非常に美味しそうだ。
「あ、ありがとうございます」
目の前の山から、適当に一つ果実を手に取り食べると、予想を遥かに上回る美味しさが口いっぱいに広がる。甘酸っぱくて最高だ。そのあまりの美味しさに、ついつい食べることに夢中になってしまった。
そんな私の様子を見て、ドラゴン様は微笑みながら話しかけてきた。
「人の子よ。突然そなたに襲いかかりすまなかった。そして、襲いかかったにもかかわらず、われを救ってくれたこと、心より感謝いたす」
「ど、どういたしまして? というより、お話しできたんですか? それなら、突然襲いかからずとも、話し合いで解決できたんじゃ……」
つい本音が漏れてしまう。しかし、ドラゴン様は怒ることなく説明をしてくれた。
「われが今そなたと会話ができているのは、そなたが覚醒したからだ。われの治療にそなたは膨大な神聖力を使っただろう? そのとき、確かにそなたの神聖力が覚醒したのを感じた」
――私が、覚醒……?
「いつだったか……8000年ほど前にも、覚醒を遂げた人の子が1人いたな」
「え!? 8000年前ってもしかしてオフィーリア様のことですか?」
「そうだっ、知っておるのか? そなた、もしや人の子ではなかったか?」
「いやいやいやいや、私は普通の人間です! 私がオフィーリア様を知っているのは、オフィーリア様が私たちの国では、伝説の聖女様として語り継がれ誇られているからです!」
「そうであったか! あの子が伝説に……。人の子とは面白いものだ。それなら話は早い! ようは、そなたはあの子と同じ力を手に入れたということだ! 神聖力の覚醒によってな」
――私にオフィーリア様と同じ力があるってこと……?
ドラゴン様は私が8000年も聖女として語り継がれるオフィーリア様と同じ力を得たと言ってくる。
しかし、いくらそう言われても体感では分からないため、なかなか実感が湧かない。
「では、ドラゴン様の力ではなく、私の力が覚醒したことで、会話ができるようになったということですか?」
「ああ、その通りだ。われも人間と会話出来る能力はあるが、今は身体が本調子じゃないゆえ能力を使っていないのだ。それと、その呼び名は慣れん。ギルと呼んでくれ」
「ギル様ですか?」
「ああ、本当はギルバートだが……そう呼んでくれて構わない。長いのは苦手なんだ」
別に長いと言うほどの名前でもないと思ったが、それは言わない方が良い気がして堪えた。
「本来であれば、高潔なドラゴンが人の子に名前で呼ばせることは滅多にない、……が、そなただから許そう」
そう言いながら、ギル様は両手で持った桃を美味しそうに頬張り、ぷにぷにのほっぺたを膨らませながら、もぐもぐと食べ進めている。
――そんなにも大事なことを私に許していいの?
そんな疑問がふと湧いたが、そこはスルーし話を続けた。
「私が覚醒していなかったから、今みたいに会話できなかったのは分かります。ですが、今のギル様を見ていると、どうしてギル様が突然私に襲いかかったのか分かりません。それに、突然襲うのをやめて、顔をすりつけてきたのも……」
考えれば考えるほど、謎過ぎるギル様の行動に疑問が湧いてくる。すると、ギル様は桃から私へと視線を移した。