49話 結婚相手の判定基準
「必ずクリスタ様を振り向かせてみせます」
そう言い残し、エンディミオン様は医務室を出て行った。その言葉を聞き、むず痒い気持ちになった私は、その気持ちを吹っ切ろうとギル様に質問を投げかけた。
「ギル様……」
「ん? どうした?」
「見極めると言った割に、先生でもエンディミオン様でも良いって、結構判定が緩くないですか?」
もっと精査すると思ったのに、会って少し話してすぐに結婚して良いと言っている気がする。それがずっと疑問だったのだ。
――何を以て、そんな短時間で判定しているのかしら?
何かギル様なりの基準があるの?
そう思いギル様を見つめると、ギル様はあっけらかんとした様子で私の質問に答えた。
「緩いつもりはないぞ。我には魂の色が見えるから、それを基準に相手を判断しているのだ」
魂の色が見えるという重大事項をサラッと言ったかと思えば、驚く私をよそにギル様は言葉を続けた。
「あとは、クリスタがどう思っているか。これが重要だ。いくら魂の澄んだ人間でも、クリスタが結婚したいと思えない相手なら意味が無い」
そうだろう? と言うように、ギル様は私を安心させるかのように微笑んだ。すると、私たちの会話が聞こえていたアルバート先生が、好奇心を滲ませた表情で口を開いた。
「ギル様、僕の魂の色は何色でしょうか?」
そう言うと、少し緊張しているような、でもワクワクしているような表情で、先生はギル様を見つめた。すると、ギル様はうーんと考え事をする様子を見せながらも口を開いた。
「まあ、本人だから良いか。……アルバート、そなたの魂は例えるならローズクォーツのような色をしている」
「ローズクォーツ……ですか?」
「ああ、そうだ」
――すごい!
とても先生らしい色だわ!
そう思いながら話を聞いていると、先生が私に質問をしてきた。
「クリスタさん、君も僕らしい色だと思う?」
「はい! 解釈一致が過ぎて驚きました!」
「そうなんだ……。なんかちょっと照れ臭いな」
そう言いながらも、先生は自分の色を知れてとても満足したような様子を見せた。
――何だか先生の色を聞いたら、私も私が何色なのか気になってきたわ!
でも、聞いて自分の理想の色じゃなかったら……嫌だわ。
今のところは聞かないでおきましょう……。
そう判断し、その代わり魂の色という概念について質問してみることにした。
「ギル様、魂の色はその時々で変化するのですか? それとも、生まれ持ったものなのでしょうか?」
そう尋ねると、ギル様は真面目な表情になり、魂の色についての説明をしてくれた。
「魂の色というのは、生まれ持った時点で決まっておる。その色は白だろうが黒だろうが関係ない。色は性格の補足であり、そこまで重要では無い。そこに、どれだけの濁りがあるのかが問題なのだ」
「てっきり色が重要なのかと思っていました……」
そう言うと、ギル様はふふっと笑い説明を付け加えた。
「色は性格を表すが、濁れば濁るほど、その性格の悪い面が強くなるんだ。一方で、澄んでいれば澄んでいるほど、その性格の良い面が強い人間ということになる。しかし、同じ色の人間など1人としておらぬ。そのため、あくまで色自体は性格の補足というわけだ」
ギル様の話しをまとめると、何色かということよりも、魂が澄んでいるかどうかが重要と言うわけだ。やっと色の概念について理解することが出来た。そしてそんな私に、ギル様は言葉を続けた。
「クリスタもアルバートも澄んでいるから安心しろ。さっきのエンディも澄んでおった。あれほど濁りのない魂はそうそうない。稀有な人の子だ」
――そうなのね……。
私が好きという時点で一部思考が曇っていると思っていたけれど、確かに魂はクリアな人な気がするわ……。
こうして、ギル様の伴侶判定基準を理解することが出来たため、午後の仕事を始めることにした。すると、ギル様も仕事を始めると察したのだろう。
アルバート先生からお菓子をもらい美味しそうに食べた直後、ギル様が話しかけてきた。
「我は今から昼寝をするから、帰るときに起こしてくれ」
「はい。分かりました。では、おやすみなさい」
そう言葉を返すと、満足げな笑みを見せたギル様は子どもの姿になり、医務室の奥にあるソファに寝転がりすぐに眠りについた。
そのため、私とアルバート先生は頭を仕事モードに切り替え、すぐに業務を再開した。
今日は珍しいことに怪我人が1人しか来ず、穏やかな日々だった。そのため、治療以外の業務を一気に終わらせることが出来た。
「さあ、就業時間もすぎたし、そろそろ帰ろうか」
そう先生が声をかけてきた。そのため、私は帰るべくギル様のいるソファに行った。そして少々気が引けるが、天使のような寝顔のギル様を起こすため声をかけた。
「ギル様……起きてください。帰りましょうっ」
少し控えめの声だったが、ギル様は私の声に気付くとすぐに起き上り、ソファから降りて立ちあがった。
ただ直ぐに立ち上がったものの、眠たそうに目をしょぼしょぼさせてフラフラしている。そのため、私はギル様と手を繋ぎ医務室を出た。すると、ちょうどそのタイミングでやって来たエンディミオン様が声をかけてきた。
「間に合って良かったです。馬車までお送りさせてください!」
その声に反応し上を見上げたギル様は、エンディミオン様を見つけ嬉しそうに声を上げた。
「感心した。エンディは愛いのお」
そう言うと、ギル様は私と繋いだ方とは反対の手でエンディミオン様の手を掴み、私たちを引っ張るようにして歩き出した。
――ギル様ったら、どうしてこうも気まずくなるようなことをするの……。
というか、エンディミオン様のこと気に入りすぎじゃない?
気まずさと恥の念に襲われながらチラリとエンディミオン様を見ると、彼はそれはそれは嬉しそうな笑顔で私を見つめていた。自分で思うのもおかしいが、彼の目からハートが飛んできているような気がする。
それにより、身悶えそうなほどの羞恥が込み上がってきたが、エンディミオン様は表情とは裏腹に、落ち着いた冷静な声で話しかけてきた。
「実は明日から、第3騎士団と第4騎士団で遠征することが急遽決まったんです。なので、寂しいですが暫く会えなくなるので、お送りしたかったのです」
驚きだった。そんなに突然決まる遠征なんて、きっとかなりの規模の事件が起きているに違いない。
――この間のネクロマンサーなのかしら?
「そんな急に……。もしかして、例のネクロマンサーに関する調査ですか?」
そう問うと、エンディミオン様は目を見開きながら言葉を返した。
「はい、まさにその通りです。今回の遠征で調査し、その結果で討伐作戦を立てるんです」
「そうなんですね。皆さんが無事に――」
無事に帰ってくることを祈る。そう言おうとしたが、突然聞こえてきた怒鳴り声によって、その言葉を続けられなかった。




