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47話 帰還した彼

 次の日も私は出勤だった。そのため、いつも通り出勤し医務室の前に行くと、いつもは無いはずの人影が医務室の前に見えた。


 ――あっ……エンディミオン様だわ……!

 無事だったのね!


 彼の無事が分かり、安心した私は小走りで彼に近付き声をかけた。


「エンディミオン様! 帰って来たんですね!」


 そう言いながらチラッと彼の首元を見ると、綺麗なままのネックレスが見えた。どうやら、保護魔法が発動された形跡もないようだ。


「無事でよかったです! お疲れさまでした」


 そう声をかけると、端正な顔をした彼はキュッと口角を上げ微笑みながら、こちらを向いた。


「はい、無事戻りました。労いの言葉をありがとうございます。そんな優しいクリスタ様が大好きです」


 ――あら?

 いつもより何だか元気がなさそうだわ。

 大丈夫かしら……?


 私の方を向いた彼の顔は、笑っているはずなのにどこか元気が無いように感じる。そのため、とりあえず医務室の鍵を開け、元気がなさそうなエンディミオン様を医務室の長椅子に座らせた。


 そして、そんな彼と間を空けて隣に座り、そっと声をかけてみた。


「エンディミオン様、大丈夫ですか? いつもより元気がなさそうで――」


 そう言いかけたが、その言葉は真剣な表情をした彼によって遮られた。


「私のいない間に、クリスタ様と一緒にいたという男性は誰ですか?」


 ――情報を仕入れるのが早すぎじゃないかしら!?


「えっ……ど、どこでそれを聞いたんですか?」

「第5騎士団の方が話しているのを聞きました。ですが、私はクリスタ様の口から説明が聞きたいです」


 何だか、浮気をして問い詰められているような気分になってくる。彼が信じてくれるかは分からない。だが、聞かれたことには答えよう。そう思い、その男性の正体をエンディミオン様に伝えた。


「皆さんが言っていたその男性は、ドラゴンのギル様のことです」


 そう言うと、エンディミオン様は驚いたように目を見開き、声を発した。


「彼は子どもの姿だったのではなかったのですか? 私は第5騎士団の方から、私とほぼ同じ背格好の男性だと聞きました」


 確かにそう思うのも無理はない。私が以前エンディミオン様にギル様の話しをした際、ヒト型の時は4~5歳くらいの子どもの姿をしていると説明した記憶がある。


 そのため、彼に改めてギル様の姿について説明することにした。


「確かに以前エンディミオン様には、子どもの姿だったと説明しました。ですがギル様の説明によると、どうやらあの子どもの姿はまだ万全な状態でなかったため、省エネモードにしていた姿らしいです」


 そこまで話すと、エンディミオン様は説明内容を理解した表情を見せてくれた。そのタイミングで、私は情報を付け加えた。


「実は、ギル様の完全体が成人男性と同じ見た目だということを、私も今回初めて知ったんです」


 そう言うと、彼はホッとしたような表情を見せながらも、すぐに緊張した面持ちで話しかけてきた。


「今……その方はどちらに?」

「私の家ですよ」


 そう答えた瞬間、エンディミオン様の顔がピシリと固まってしまった。


「エ、エンディミオン様……? 大丈夫ですか?」


 余りに微動だにしない彼の様子に、心配になって声をかけた。すると、彼は先程までの冷静さを失ったように、突然怒涛の勢いで話し始めた。


「うらやましい! クリスタ様と一つ屋根の下だなんて……そんなの危険だ! こんなにも素敵なクリスタ様と一緒に居たら、絶対に好きになってしまうに違いない! いや、クリスタ様に興味がなかったらそれはそれで……」


 そうブツブツと独り言ちながら、彼は何やら考え事をするように目を伏せた。しかしそうかと思うと、唐突にガバッと顔を上げ、切なげな表情で私を見つめながら訊ねてきた。


「いつまでいるんですか……!?」

「それは――」


 その質問に答えようとしたところで、医務室の扉がガラガラと開き先生が入ってきた。


「おはよう、クリスタさん。エンディミオン団長。部分的に外まで聞こえてたよ」


 そう言いながら、先生はエンディミオン様の目の前にやって来た。


「エンディミオン団長、良い情報と悪い情報どっちから聞きたい?」


 突然のこの先生の問いかけに、エンディミオン様は少し戸惑った様子を見せた。しかし、決断の早い彼はすぐにその質問に答えた。


「悪い方から先に……」


 そう言うと、先生は「そっちからだね」と言いながら、エンディミオン様に告げた。


「ギル様はね、滞在期間は不定だから、いようと思えばずっとクリスタさんと一緒だよ」


 その答えを聞き、エンディミオン様は捨てられた犬のように悲し気な顔になり、再び先生に口を開いた。


「それでは……良い情報は?」


 この問いに先生はふふっと笑いながら答えた。


「クリスタさんの結婚相手が決まれば帰るよ。ギル様は、クリスタさんお父様の代理として、クリスタさんの結婚相手を見極めるそうです。自分が認めた相手となら結婚を許すと仰ってましたよ」


 チラッと彼の顔を見た。すると、エンディミオン様の顔には、花が咲いたような笑顔が広がっていた。そしてすぐ、彼は私を真っ直ぐに見つめ口を開いた。


「クリスタ様、ぜひギル様にご挨拶させてください! 私があなたに相応しい男だと証明する機会をお与えください!」


 面と向かってそんなことを言われると、恥ずかしさと戸惑いでどう返したら良いか分からなくなる。しかし、あくまでもここは冷静にと何とか気を静め、エンディミオン様に言葉を返した。


「挨拶はともかく、ギル様もエンディミオン様にはきっと会いたいと思います。今度、お話の場を設けます……」


 語尾になるにつれ、どうしても妙な恥ずかしさが出てきてしまい、声が萎んでしまった。すると、救いのように先生がある提案をしてくれた。


「それなら、ここを使っても良いよ。明日だったら患者さんも少ないはずだし、外部への届け物や提出物はないから」

「良いんですか……?」

「もちろん。それに明日、クリスタさんは午後から出勤だよね?」

「はい」

「じゃあ、お昼にギル様と一緒においで。そしたら、エンディミオン団長と会えるよね?」


 そう言われ、私は何となくエンディミオン様の顔を見た。すると、彼は輝くような期待の眼差しで私を見つめていた。


 ――ギル様はハンカチをくれた人の子に会いたいと言っていたから、きっと喜んで会ってくれるはずよね……。


「では……明日ギル様と一緒に来ますね」

「はい! クリスタ様たちをお待ちしておりますね!」


 そう言うと、エンディミオン様は笑みを零した。すると、そんなエンディミオン様を見て、先生も楽しそうに微笑んだ。


 こうして、私は明日ギル様と共に出勤することが決まった。すると、安心したのだろう。一睡もしていなかったらしいエンディミオン様は休むために、珍しく家へと帰って行った。


 討伐で一睡も眠れていなかった彼だ。どうかゆっくり休んでくれと思いながら、私は帰る彼に手を振って見送った。



 ◇ ◇ ◇



 今日の業務が終わった、そのため家に帰り、早速子ども姿のギル様に声をかけた。


「……という訳で、ギル様。明日一緒に医務室に行きましょう!」

「もちろんだ! ハンカチの人の子に会えるのだろう? われとクリスタが大親友になるよう結び付けてくれた人の子だ。きちんと礼をしなければならぬな!」


 そう言うと、ギル様はそれは嬉しそうに「明日が楽しみだ」と言いながらはしゃいでいた。そして次の日になり、私はギル様と馬車に乗り騎士団を目指した。

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