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44話 線引きさせていただきます

 早退した私は、ギル様と共に屋敷に帰り着いた。


「事情があって、今日からしばらくここで暮らすことになったの。この子の名前は……ギルと言うの。大事な客人だから、皆良くしてあげてね」


 私が子どもを連れて帰ったため、皆困惑した表情をしていた。しかし、私の説明を聞き客人であることを理解し、すぐに受け入れてくれた。


 すると、メイド長が代表で話しかけてきた。


「それでは、わたくし共がお客さまをお預かりしてご案内いたしますね」


 ――ああ、完全に子どもの姿をしているから、子守りをしないといけないと思っているのね。


 今日は取り敢えず一緒に過ごしながら、この家での過ごし方を打ち合わせしようと思っていた。そのため、私はメイド長の申し出を断ることにした。


「ありがとう。でも、この子は人見知りだから、今日は私の部屋で過ごすことにするわね」

「左様でございますか。承知いたしました」


 そう言うと、メイド長はにっこりとギル様に微笑みかけた。ギル様はそんなメイド長に微笑みに微笑みで返した。それにより、ギル様はメイド長のことをメロメロにすることに成功した。


 そこから部屋へと移動し、私はこの邸宅での過ごし方として、この邸宅で働く使用人に会う時は子どもの姿のままでいることを説明した。その後は、私室でギル様と共に晩御飯を食べ、治癒士として働き出してからの今日までの話しをしていた。


 ギル様と話しをしていると、本当に心が癒される。ギル様は傾聴力が高いのだ。だから、つい時間を忘れて話をしてしまい、時間はいつもの就寝時間になっていた。


 ――いけない!

 ついつい話し過ぎたわ……。

 明日は早起きしないといけないから、早く寝ないと!


 こうして私は急いで湯浴みをし、風魔法で身体と髪を乾かし、ベッドに入った。すると、ギル様も同じベッドに入ってきた。


「ギル様」

「ん? どうした?」

「私明日仕事なんです。なので、もし家を出たかったら、私を迎えに来てくれる馬車に乗って、一緒に来てください。単体行動は出来るだけ控えてほしいんです」


 この邸宅の使用人は、ギル様の大人の姿を知らない。だから、子どもの姿で1人家を出て行こうとしたら止めるだろう。でも、迎えと言ったら使用人たちも納得してくれるはずだ。


 それに、ギル様は1人でうろうろしていたら結構目立ってしまうと思う。だからこそ、人間世界で何をしでかすか予想不可能のギル様を1人で野放しにしたくなかったのだ。


 すると、私の思わんとすることを分かってくれたのだろう。ギル様は納得してくれた。


「分かった。クリスタの言う通りにしよう」

「ありがとうございます」


 仰向けのまま会話をしていたが、子どもの姿のギル様と横になったことで、ふと試練中のことを思い出した。そのため、私はギル様の姿を見ようと身体の向きを変えるため寝返りを打った。


「ギル様、こうして2人で寝袋に入って寝た時がありましたね」

「ああ、そうだな。あのときはクリスタが冷え切っていたな」

「はい……でもギル様と寝たらとても温かかったのを覚えています」

「そうか……我も温かく久しぶりに心を休められたぞ」


 ――ギル様も覚えてくれていたのね。


「「ふふっ……」」


 2人で過去のことを思い出し、顔を見合わせ微笑んだ。すると、安心できたのだろう。とても安らいだ気持ちで眠ることが出来た。


 ◇ ◇ ◇


 ――なぜかしら……。

 身体が動かないわ。


 違和感を確かめるべく、私は閉じていた瞼をそっと開けた。すると、誰かの肌が近くに見えた。


 ――え? どういうこと……?


 寝起きで判断力が鈍り思考が停止していたが、急速的に事態を理解しワンテンポ遅れ、私は驚き仰け反るように顔を引いた。すると、目の前には彫刻で作られたのではないかという程の美貌を持った男が眠っていた。


「っ……!」


 反射的に叫びそうになったが、叫び声をあげたら使用人が飛んでくる。そのため、私は何とか必死に叫ぶのを耐えた。


 冷静に状況を分析すると、私は目の前の男に抱きしめられている。もっと言えば、片腕で腰を抱かれもう片方の折り曲げられた男の腕の上腕部分が、私の枕になっている状況だということが分かった。


 ――何とかこの状況から抜け出さないと……!


 そう思い、私は何とか腰を抱いている腕をのけようと、布団の中で必死に格闘していた。すると、モゾモゾ動いていたのが気にかかったのだろう。その男は腰を抱いている腕にもっと力を入れた。しかも、耳を澄ますとスース―という定期的な寝息も聞こえてくる。


 ――これじゃ埒が明かないわ!


「起きてくださいっ……ギル様っ……!」


 私はギル様の胸板を必死に叩き、小声で叫びながらギル様を起こそうと声をかけた。この行動が功を奏し、ギル様はすぐに目を覚ました。そして、呑気に一言ぼそりと呟いた。


「ん……クリスタ、起きたのか……。おはよう」


 そう言うと、ギル様は今までに見たことが無いほどの甘い笑顔を向けてきた。そうかと思うと、そのまま枕にしていた腕も使い、私を両腕に閉じ込めるようにして抱き締めてきた。そして、そのままスース―と寝息を立て睡眠を再開した。


 ――嘘でしょ……。


 それからというもの、私は必死にギル様を叩き起こし何とか腕の中から解放された。それと同時に、私はギル様に突き付けた。


「もうギル様は絶対に別の部屋にします! 同じベッドで寝るのも禁止です!」

「そうか……一緒に寝られて嬉しかったが残念だ……」


 そう言われると心が少しズキッと痛む。子どもの姿に戻っているからなおさらだ。だが、こんなシュンとしたギル様の姿に絆されれば、また二の舞になる未来が見える。そのため、私は心を鬼にして部屋を別にすることを貫き通した。


 そして、出勤の準備を開始しようとした瞬間、私はふと計画していたことを思い出した。


「ギル様、私は今から厨房に行くので、もし何かあれば厨房に来てくださいね」

「あい、分かった」


 思わぬ事で時間を食ってしまった。しかし、厨房に移動し、早急に作業に取り掛かったことで、何とか用事を済ませられた。


 その後自身の朝食を取り、出勤しようという段になったところ、ギル様が玄関まで見送りに来てくれた。


「気を付けるのだぞ」

「はい! では、行ってきますね」


 そうして、私は家を出て馬車に乗ろうとしたが、そうだそうだと思い出し御者に話しかけた。


「昨日から家に来ている子がいるんですけど、私の職場に連れて行ってと言うかもしれないんです。そのときは連れて来てください」

「はい。承知しました」


 そう言うと、初老の御者は笑顔で笑ってくれた。


「あっ、加えてですが、あの子は魔法を使えるので、姿を変えて驚かすかもしれないんです。なので姿が違ってもどうか気にしないでください」


 そう言うと、驚いた顔をしながらも御者はすぐに理解してくれた。そのため、私は安心して出勤することにした。

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