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34話 治療完了

 医務室に戻ると、想定と異なり怪我人はほとんどいない状態になっていた。


――あら?

 思ったよりも怪我人は出なかったのかしら?

 それに先生は……?


 そう思いながら辺りを見回すと、血を拭くための清潔な布を準備している先生を見つけた。


――私が傷を治したておいたら、その布で血を拭くだけで治療は終わりのはず……。


 そう考え、私は先生が準備を終える前に部屋全体に治癒魔法をかけ、一気に治療を終わらせた。


 すると、丁度そのタイミングで先生が布を持ってきたことにより、円滑に怪我人の処置が終了した。


 そして、身綺麗にした怪我人たちは全員退室し、医務室内は私と先生とライオネル団長だけになった。


――今なら大丈夫そうね!


 そう思った私は、このスキマ時間を利用し、もらったオフィーリアを素早く花瓶に生けた。


 そして花を生け終わった直後、先生に頼まれたため、ライオネル団長が寝ているベッドへと様子を見に向かった。


「失礼します」


 そう声をかけて仕切りになっているカーテンを開けると、ライオネル団長は笑顔で出迎えてくれた。


「おう、クリスタちゃん。優勝は誰だった?」

「エンディミオン卿ですよ」


 そう言うと、ワイアットじゃないのかと少し残念そうに零し、再び私に目を向け話し出した。


「俺さ、もう命の終わりだって思うような死線にも出たことあるし、騎士やってる限り突然死ぬこともあるかもしれないって分かってたんだよ」


 少し話が長くなりそうだと思い、私はそっとライオネル団長のベッド脇にあった椅子に座った。すると、「ああ、エンディミオンみたいに気が利かなくてごめんな」とからかうように言いながら、団長は話を続けた。


「まあ話は戻して……んで、事件解決とか討伐参戦での怪我だったらまだ納得できたんだよ。だけど、最悪が重なり過ぎたとはいえ、こんなただの騎士団内の剣術大会で騎士人生終わってたら、もう死んでも死にきれなかったと思う……」


 ライオネル団長は眉間に皺を寄せ、必死に涙を堪えるような顔をしている。しかし、そんな涙を吹っ切るように、団長は私に真っ直ぐな視線を向け口を開いた。


「クリスタちゃんは最高の聖女だよ。聖女って言われるのは嫌かもしれないけど、クリスタちゃんには聖女の器があるし、俺はクリスタちゃんが聖女で良かったって思った……。本当にありがとな」


 このライオネル団長の言葉は、心からの本心だと分かった。そして、この言葉を聞いて初めて、私が聖女である自分自身を受け入れられたような気がした。


 だが、こういった話をしていると、少ししんみりとした空気になってしまう。そのため、私は団長に別の話を振ることにした。


「そうだ! ワイアット団長がライオネル団長の分もって言って、オフィーリアの花をくださったんですよ!」


 そう言うと、ライオネル団長は嬉しそうに笑い出した。


「っ! そうなのか! あははっ、じゃああいつにもちゃんと礼しねーといけねーな! でも、優勝はエンディミオンなんだろ?」


 そう言いながら、ライオネル団長はある一点に視線を集中させた。その視線を辿ると、私が先程生けたオフィーリアがカーテンの隙間から見えていた。


「あの量……花束でもらったのか。あいつ本当にスゲーな……」


 驚きが混ざった苦笑いを浮かべながら呟いたライオネル団長に、私も作り笑いを浮かべる。すると、ガラガラという医務室の扉が開き、その直後に室内に入ってくる複数人の足音が聞こえてきた。


 そして、先生の案内する声と同時に、その人物たちの手によってカーテンが開かれた。そこで初めて、その人たちの正体が第5騎士団の団員たちだと分かった。


 彼らは団長への愛が溢れに溢れているのだろう。カーテンを開けた時点で、未だにライオネル団長を見て涙を流している団員もいる。


――少し団員たち同士にさせてあげましょう……。


 そう思い、私はしれっとその場から離れ、先生の手伝いに専念することにした。


 最初の方は、カーテンの向こう側から泣き声が聞こえていた。しかし、その泣き声は次第に楽しそうな笑い声へと変わっていった。


 そのため、私はアルバート先生と顔を見合わせ、2人で安心したようにクスリと笑った。


 それからしばらくし、アルバート先生が第5騎士団の人たちに声をかけ、ライオネル団長が医務室から出て行くことになった。


「いつ死ぬか分からなくても、ここで騎士として死なずに済んで良かったよ。クリスタちゃん、騎士人生を取り戻してくれてありがとな」


 そう言うと、団長は私に向かってフッと微笑んだ。すると、団長の背後で団員たちが突然隊列を整え、息を揃えて言葉を発した。


「「「「「姉さん、ありがとうございます! 一生ついて行きます!」」」」」


 あまりにも大声で重過ぎることを言われ、私は心の中で少し引いてしまった。


 しかし、それは私だけではなかったようで、ライオネル団長が団員たちに「クリスタちゃんを困らせるようなことするな!」と怒った。


 だが、そうやって団長に説教をされた団員たちは、それは嬉しそうな笑顔を団長に見せていた。


 その様子は、私に求婚を断られても笑うエンディミオン卿を彷彿とさせた。


――もしかしてここの騎士ってみんなドМなの……?


 そんなことを考えながら、私は先生と一緒に医務室から出て行く第5騎士団を見送った。


 そして彼らを見届けてすぐ、医務室の奥側に立っていた先生に身体ごと向き直り声をかけた。


「ふぅ―、やっと終わりましたね。先生今日はお疲れ様です。途中もありがとうございました」

「いえいえ、クリスタさんがいない間はカイル君が手伝いに来てくれたので大丈夫でしたよ」


 そう言うと、先生は癒しの笑顔を見せてくれた。カイルは私の状況を察してくれたに違いない。いくら下心があるとはいえ、私のことも思ってくれたのだろう。


――やはり持つべきは良い友ね。


 そんなことを思っていると、先生が言葉を続けた。


「それより、間に合ったみたいで良かったです」



 先生はそう口を動かすと、オフィーリアを生けた花瓶を指さした。


「はい、先生のおかげです。ありがとうございました」


 笑顔でそう先生に伝えると、先生は子どもを見守るように微笑みながら私に質問をしてきた。


「……エンディミオン団長はかっこよかったですか?」


 まさか先生がそんな質問をしてくるとは思わなかった。でも、今までの先生を振り返ると、優しい顔をしてたまに悪戯な質問をしてくることがあった。


――今日もそのパターンなのね……。

 でも、先生なら素直に答えても良いわよね……。


 とても恥ずかしい。だけど、先生になら……と思い、私は躊躇いながらも素直な気持ちを伝えてみることにした。


「そ、そうですね。いつもと違って……かっこよかったです……」


 今日は照れてばかりだと思いながら、赤面を隠すように少し目を伏せると、頭上から愉し気な笑い声が聞こえてきた。


「ふふっ、だそうですよ。エンディミオン団長」


 そう言うと、先生は再び愉し気に笑いだした。

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