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3話 未来のための選択

 家に帰り、早速妹のアイラに相談することにした。


 アイラは継母(ままはは)のカトリーヌ様とは違い、いつも笑顔で優しく接してくれている2歳年下の可愛い妹である。


「……それでね、どう思う?」


 試練について打診されたことを説明し、アイラの答えを待った。


「え!? お姉様があの試練を受けるですって……! でも、それって……」


 察しの良いアイラはその先は言わないが、言わんとすることは分かる。


「うん、死ぬ可能性もあるってことよ」

「お姉様はレアード様と結婚するんですよね!? そんな死ぬだなんて、もしものことがあったら……」


 優しいアイラにこの話をしたら、絶対にショックを受けると思っていた。そして、案の定泣きそうな顔になりながら心配するようにこちらに目を向けている。


 しかし、そんなアイラは突然何かをひらめいたように口を開いた。


「あっ! でも……」

「どうしたの?」

「お姉様がその試練を受けたら、レアード様との結婚に、皆が快く賛成してくれるかもしれませんよ!」


 その妹の指摘は、ここ最近で私が抱えている最も大きな悩みの種であった。というのも、私とレアード様は子爵(ししゃく)家と侯爵(こうしゃく)家という家格の差がある。そのため、レアード様のご両親が私たちの結婚に反対しているのだ。


 現時点において、レアード様がご両親に私のことを話しても、家格が違うからと言って会ってさえくれない状況だ。だからこそ、身分問わず最大の名誉を得られるこの試練は、ある意味のチャンスでもあった。


――確かにアイラの言う通り、結婚に賛成してもらうためには、この試練を受けた方が良いのかもしれないわね……。

 もし成功すれば、きっとレアード様との結婚を認めてもらえるもの。


「どうでしょうか、お姉様?」


 考え込む私の顔色を窺うように、アイラは私の顔を覗き込んできた。私の返答を待っているようだ。


「恋に障害はつきものというものね。分かった。試練を受ける方向で考えてみる。けれど、明日レアード様とも相談してみる」

「ええ、ぜひ相談してみてください」


 そう言って微笑むアイラは、少し不安げな表情を(にじ)ませていた。私はそんなアイラを安心させるよう、彼女の頭を撫でた。


「相談に乗ってくれてありがとう。あなたが居てくれて良かったわ、アイラ」

「大事なことだもの! きちんと話しておかないと! 血は繋がって無くても、私たちはたった2人の姉妹なんだから! 何かあったらまた相談してね? 絶対、絶対よ! うふっ」


 血は繋がっていないけれど、アイラはこうして私の心強い味方になってくれる。ふと、彼女も大人になったのだなと改めて実感した。


 そして、翌日のお昼休憩の時間に、打診された試練についてレアード様に相談した。


「そんな……認めてもらうためにクリスタがそこまでの危険を冒さなくても……」


 そう言うレアード様の顔には、アイラと同じく心配の色が滲み出ている。


「でも、もし帰って来られたら、あなたとの結婚を皆がもろ手を挙げて祝福してくれるはずです。ご両親も私のことを認めてくださると思うんです」


 話しているたびに、相談と言いながらも自分の考えが固まっている感覚がする。


「それに、あなたが家格の低い女と結婚したっていう悪いレッテルを張られなくて済みます!」

「うーん……」


 煮え切らない返事のレアード様は、やはりあまり試練を受けることに賛成してはいないのだろう。しかし、考えれば考える程、こんな絶好のチャンスはないと思えてくる。


「私は、私と結婚したせいであなたが悪く言われるのは嫌なんです。だから、周囲がそんなことを言えなくなるくらい頑張ります。愛するあなた、そして、私たちの未来のために」


 そう言うと、レアード様はハッとした顔をした。


「私は必ず帰ってきます。愛するあなたを一人残して死ぬわけにはいきませんから。……私、試練を受けます」


 試練を受けると断言した瞬間、レアード様の目が一気に涙ぐんだ。そして、少し顔を歪ませながらレアード様が口を開いた。


「ごめん……。そこまで君が考えてくれていたなんて……」


 そう言うと、彼はおもむろに私を抱き締めた。


「クリスタが戻ってきたらすぐにでも結婚しよう。僕は君を必ず待っているからっ……。帰ってくるのが何年後になっても良い。僕の為にそこまで君がしてくれるのに、待つのなんて苦じゃないよ」


 彼の腕により力が入る。


「僕は君を信じる。愛しているから。君ほどの実力があれば、きっと試練も突破できるはずだ。皆に祝福されながら結婚しよう! 本当に心から愛しているよ。っありがとう……!」


 滅多に気持ちを伝えることのない彼のその言葉につられて、つい涙腺が崩壊しそうになる。


「信じてくれて、ありがとうございます。レアード様のために、絶対に帰ってきますね……! そして、結婚しましょう」

「ああ、もちろんだっ」


 こうして、私は試練を受けることを決意し、レアード様と結婚の約束をした。それから直ぐに、魔塔主様に試練を受けるという報告をしに行ったところ、よくぞ引き受けてくれたと感心された。


 そして家に帰り、いつもは沈黙の食事の時間に今日の事を告げた。


「お継母様(かあさま)、アイラ、私生贄の試練を受けることにしました」


 この報告に驚いたのだろう。2人とも目を見開いてこちらを見た。しかし、予想外なことにお義母様は私と目が合うと、にっこりと微笑みかけてきた。


「まあ! 選ばれるだなんてすごいじゃない。あなたならきっとできるわ。おめでとう。頑張ってね」


 お継母様が私に笑いかけてくれた。アイラでも使用人でもなく、他でもない私に笑いかけてくれるのはお父様が亡くなって以来初めてのことだ。褒めてくれたこともそれ以来のはず。


――お継母様が喜んでくれるだなんて……!

 嬉しいわっ……。


 いつも冷たいと思っていたお継母様から久しぶりに向けられた優しさに、嬉しさが込み上げてくる。すると、アイラも口を開いた。


「お姉様は絶対に大丈夫! 胸を張って行ってきてね!」


 大丈夫と私を後押しをするアイラは、心配をかけないようにするためか、にっこりと笑顔を向けてくれた。


 この日から数日経ち、いよいよ試練に行く日がやって来た。

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