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25話 運命を感じて

 エンディミオン卿といると感じる不思議な感覚に少し戸惑っていると、そんな私に彼が話しかけてきた。


「そう言えば、以前好きだという理由が分からないと話にならないと仰られていたのに、私はずっと一方的に好意を伝えていましたね。どうか、今ここで説明させてください」


 今から好きになった理由を説明されるだなんてどんな羞恥プレイだ。そう思うが、言わなくていい、とは言いづらい。


 そのため、私はエンディミオン卿から目を逸らし、了承の意を込め小さく頷いた。


「以前、エリクサーで助けられたお話しをしましたよね?」

「はい……」

「それ以外にも、私はクリスタ様に助けられているんです。約2年前の討伐で……」


 2年前の討伐と言えば、私が人生で初めて魔力を使い尽くして気絶した討伐だ。死者が出るほど厳しい討伐作戦だった。私はそこに応援として送られていた。


 その戦いで私が助けた人……。思い当たる人物は1人しかいない。私が気絶するほどに魔力と神聖力を要する治療を施した瀕死の兵士だ。


「もしかして、あのときの瀕死の……」


 私が覚えていたことを瞬時に察知したのだろう。驚いた顔をしながら、エンディミオン卿が口を開いた。


「はい、情けないですがそのときの瀕死の兵士が私です」

「情けないなんてそんなこと無いですっ……」


 だってその人は、部下が受けそうになっていた黒魔術師の攻撃を庇って怪我をしたんだもの。そう思っていると、エンディミオン卿は切なげな表情になった。


「クリスタ様はお優しい方ですね……。私はたったの一撃で瀕死状態になってしまいました。そこに追い打ちで黒魔術師が攻撃を仕掛けようとしたときに、我々の前に現れたのがあなたです」


 私もあのときの黒魔術師のことは、未だに夢に見ることもあるくらいに覚えている。


 あの日私は偶然にも、エンディミオン卿たちのすぐ後ろに隠れていた。そのため、攻撃を受ける一部始終を見ていたのだ。


 最初は2人の兵士のうち1人が果敢に攻め、黒魔術師の方が劣勢だった。


 しかし、黒魔術師が適当に放った攻撃が部下に掠り、部下がその攻撃に気を取られた隙を黒魔術師が狙った。


 そして、部下が攻撃を避けられないというそのとき、果敢に攻めていたもう一人の兵士が、咄嗟に部下を庇おうとして、部下の前に飛び出したのだ。


 するとその兵士は、黒魔術師のそのたった一撃で血しぶきを上げながら宙を舞い、地面に叩き付けられた。


 その光景を見た瞬間、勝手に身体が動き出した私は2人の兵士の前に立ち、黒魔術師にサンダーボルトをお見舞いしたのだ。


 だがこんな攻撃では、今は気絶している黒魔術師もすぐに起き上がってしまうことは明白だった。


 今回は不意打ちで飛び出したから攻撃が成功したものの、2回目の成功は無いだろう。それに、もう戦えるほどの体力も残っていなかった。


 そんな状況で、今この黒魔術師に勝てる可能性のある人物が誰かを考えた時、血まみれで地面に倒れ死にかけている、この兵士しかいないと判断した。


 そのため、私は残りの魔力や神聖力をすべて注ぎ込んだ治癒魔法を瀕死の兵士に施した。すべてを彼に賭けることにしたのだ。


――まさかその人がエンディミオン卿だったなんて……。


 敵を前に必死過ぎて全然顔は覚えていなかったが、その人物がエンディミオン卿だったと知り思わずスカートを強い力で握ってしまう。すると、そんな私にエンディミオン卿が訊ねてきた。


「あのときあなたは、魔力が枯渇するまでの力を使い、死ぬ運命だった私を生き返らせてくれました。……クリスタ様が気を失う前、私にかけてくれた言葉を覚えてますか?」


――えっ!?

 何か言ったかしら!?

 必死過ぎて何を言ったかも覚えてないわ。

 変なこと言ってたらどうしよう……。


「私は何と言ったんでしょうか……?」


 もう単刀直入に聞くことにした。するとエンディミオン卿は何かを思い出したようにクスっと笑うと教えてくれた。


「私の力は一瞬の不意打ちだけなので、騎士様の力が必要なんです」


――あら、変なこと言ってないじゃない。

 良かったわ!


 そう思ったが、エンディミオン卿の言葉にはまだ続きがあった。


「私はあなたにすべてを賭けたの! あなたは勝てるんだから、絶対勝ちなさいよ! 勝たなかったらもう1度助けるから起こしなさい! そう言って、そのまま気を失われました」


 私は一体何を言っているのだろうか。自分が言っていたという言葉を知り、顔を覆いたくなる。


 しかし、恥ずかしがっている私とは反対に、エンディミオン卿は懐かし気に目を細めて笑った。


「あのときのあなたの言葉は私を奮い立たせました。そのお陰で、討伐も成功しました。でもそれだけじゃない。あの鮮烈な言葉がずっと頭に焼き付いて、あなたのことが忘れられなかったんです」


 そりゃあ、ある意味忘れられないだろうと思う。しかも立場的に、女性からこんな偉そうな言い方をされたことは無かっただろう。


 それなのに、100歩譲って恩人とまでは言っても、こんな私に結婚だなんて言い出すのはおかしい。


 そう思いながらエンディミオン卿をチラッと見上げると、目が合い優しく微笑みかけられた。


「私はその日以来、あなたのことが気になってずっと目で追ってました。なので、あなたは魔塔からの応援で来ていたと知り、魔塔主様に問いただしたんです」


――あの魔塔主様を問いただしたなんて……。

 やっぱりメンタルお化けだわ……!


 彼の行動力に恐れ戦いてしまう。


「そしたら、魔塔主様はあなたのことを教えてくれました。ちなみに、そのときエリクサーのことも聞きました」


 何ということだ。魔塔主様は私の知らないところで、そんな話をしていたなんて……。個人情報の漏洩としか思えない。


 それに人に情報を教えるなら、魔塔主様は私にも薬の被験者の情報を教えてくれたら良かったのにと思う。


 しかし、そんな私の思いを知らないエンディミオン卿は言葉を続けた。


「助けてくれた人が以前も命を救ってくれた人だと知り、運命を感じました。なので、その日からあなたのことばかり考えて、あなたの話を人から聞くたび好意が加速しました」


 ちょっと待て。私の話をしている人はいったい誰だと言うのだろうか。これはきちんと聞いておく必要がありそうだ。


「エンディミオン卿……私の話を誰から聞いたんですか?」

「カイル団長と、魔塔の人たちです」


 カイルは予想通りだった。だが、魔塔の人たちがどんな私の話をしているのかは、想像も出来なかった。

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