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2話 生贄の試練

 とうとう、私はレアード様と一緒に働けるようになった。しかし、私のゴールは一緒に働くことではない。


 一緒に働く中で距離を縮めていき、最終的にレアード様と付き合うことが第1のゴールなのだ。


 だが、今のままではただの仕事仲間としか認識されない。そんな状況を打破すべく、私はレアード様に異性として見てもらえるよう、さまざまな努力をした。


 ある日は、レアード様にお弁当を作っていった。誕生日にはプレゼントをし、レアード様が好きな作者の新作を見つけたら、サプライズでプレゼントした。


 レアード様が好きそうな店を調べ、一緒に出掛けようと誘ったこともある。来て欲しいと言われれば、どこにでも付いて行った。


 レアード様が好きと言った色は、コーデに取り入れるようにした。年上の彼に釣り合うように、年上女性のファッションを工夫しながら取り入れた。


 レアード様が好きだったり興味を持ったりしていることに関しては、いつでも話を合わせられるように必死に勉強した。


 たまに彼より詳しくなりすぎる時もあった。レアード様はそれが原因で、一度不機嫌になってしまったことがある。だからそれ以降は、適宜知らないフリをしながら彼の話を聞くようにした。


 レアード様が私に仕事を頼んできた時は、完璧かつ特急で終わらせ、彼をサポートするよう心がけた。彼はミスを指摘したら不機嫌になるため、そっと黙ってフォローした。


 すると、彼は周囲から評価され嬉しそうにしていたので、私も嬉しくなった。


 こうして、とにかくレアード様に好かれようと思い、私は自分のことよりも彼を第一優先にした生活を送っていた。


 魔導士になって半年が経過し22歳になった頃だった。私は救護班の応援として、とある討伐作戦に参加することになった。


 私はその討伐の救護ではない場面で、人生で初めて魔力が枯渇するほどの力を使い倒れた。そのうえ、この討伐は数人の騎士が命を落とす結果となってしまった。


 私はこのときの出来事をきっかけに、人間は突然あっけなく死んでしまうこともあるのだと思い知った。そして、時間は有限なのだということも痛感した。


 だから突然勇気が出たのだろう。助かった後、私はすぐレアード様にド直球の告白をした。ある日突然、大事な人を失うことがあると分かったからだ。


 あのとき気持ちを告げていればと、悔いを残したくはなかった。


 正直レアード様が私のことを好いてくれているかは微妙だった。しかし、想いを告げてみたところ、レアード様は私の告白に応えてくれた。


 こうして、私は長年の念願を叶え、ついにレアード様と付き合えることになった。


 いざレアード様と付き合い出すと、今よりもグッと異性としての距離が縮まり、彼は私に甘い言葉をかけてくれるようになった。それに、喜怒哀楽の感情もあまり隠すことなく表してくれるようになった。


 特にレアード様の変化が著しかったのは、私が彼を不機嫌にしてしまった時だった。今までは私から謝っていたが、付き合いだしてからは必ず彼から謝ってくれて、溺れるほどの甘い言葉をかけてくれた。


 それに、今まではそんなこと無かったのだが、付き合い始めてからレアード様は少しだけ私を束縛することが増えた。今までずっと片思いだった分、この束縛は私がレアード様の彼女の証明のようで嬉しかった。


 それから2年が経ち、私は24歳になった。


 そして今、私は何故か魔塔主様に呼び出されていた。


「クリスタ、あなたの神聖力は会うたびに増加しています。クリスタなら、もしかしたら生贄(いけにえ)の試練を越えられるかもしれない」

「生贄の試練って……あの生贄の試練のことを言っておられるのですか?」

「ええ、そうですよ」


――私が、生贄の試練を……。


 生贄の試練、それは50年に1回の頻度で発生し、たった1人、選ばれた者だけが受けられる試練である。


 そして、この生贄の試練を乗り越えたものは、とてつもない力を手に入れると言われている。


 また、この試練は神聖力を持った女性でないと受けられない。なぜなら、今までその試練を受けた生き残りはあるたった1人の女性だからだ。しかも、その記録は8000年も前のものである。


 この成功例を踏襲(とうしゅう)として、神聖力を持つ女性が試練を受けるという風習が出来たのだ。


 この試練の唯一の成功者はオフィーリア様という女性で、今ではこの国のかつての聖女様として、歴史上の重要人物だと認知されている。


 しかし、この試練には問題がある。この試練は8000年前に受けたオフィーリア様以外生きて帰ってきたという記録が無いのだ。つまり、この試練は生きるか死ぬかの2択しかない。


 正直オフィーリア様以来、何千年も成功者がいないとなると、8000年前に試練をクリアしたという話自体、嘘なのではとさえ思えてくる。


 だが、一縷(いちる)の望みを賭けて試練を受ける人が途切れたことは無い。なぜなら、どのような身分であろうと試練を乗り越えた時点で、この国の最大の名誉を得られるからだ。


――死ぬ可能性もあるけれど、この試練を成功させたらきっと……。

 でも、これに関しては少し誰かと相談したいわ。


 頭の中で考えを駆け巡らせている私に、魔塔主様は言葉を続けた。


「クリスタ、この試練受けてくれますか?」

「……少し考える時間が欲しいです。よろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。といっても、調整しなければならないことがあるから、3日後までを期限にしても良いかい?」


――3日しか考える時間が無いのね。仕方ないわ……。


「はい、承知しました。それでは、3日以内にご報告いたします」

「分かりました。良い返事を期待していますよ」


 そう言われ少し苦笑いをしながら、私はその場から去った。そして、その日の仕事を済ませ早めに帰路についた。

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