表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/77

17話 聖女の誕生

 騎士団を出て、魔塔に到着した。しかし、ここはレアード・カーチェスとの思い出があり過ぎて、来ただけで気分が悪くなる。


――カイルに言われた通り測定したら、仕事に関する話を済ませて出来るだけ早く帰りましょう。


 そう心に決め、魔塔主様の部屋を目指しズンズンと歩みを進めた。


 魔塔内に入ってから何人かとすれ違ったが、皆私を見て、見てはいけないものを見たような反応をしている。


 だけど、そんなこと今はどうだって良かった。今私が目指すべきは、魔塔主様との用事を終わらせ早く帰ることだからだ。


 こうして、人々の無遠慮な視線を浴びながら、魔塔主様の部屋の前までやって来た。


 そして、ふーっと息を吐き、深呼吸をして魔塔主様の部屋のドアをノックした。すると、扉が勝手に開いた。


 魔塔主様が忙しいときは、たいてい魔法を使って扉を開けることで入室許可を表す。そのため、私は部屋に入り何やら本に夢中になっている魔塔主様に声をかけた。


「クリスタ・ウィルキンス、無事帰還したことを魔塔主様にご報告に参りました」

「はーい、分かりました。今忙しいので詳しいことはあと……で……って、クリスタ!? 本当にクリスタですかっ!?」


 そう言うと、魔塔主様は本を放り投げ私の元へと慌てて駆け寄ってきた。


「クリスタ……! なんとっ……! 無事帰ってきたんですね! 素晴らしいっ! でも私はクリスタなら帰ってくると思っていましたよ! よく帰ってきてくれたねっ。さあさあ」


 そう言うと、私の肩を抱き椅子に座るように促した。


「ぜひ話しを聞かせてください! 試練はどんな――」


 対面の席に座り、キラキラとした目を向けてく魔塔主様には悪いが、私は早くこの魔塔という場所から離れたい。そのため、はっきりと魔塔主様に告げた。


「すみません、魔塔主様。その話はまた後日でもよろしいでしょうか? 必要でしたらレポートも提出します。それより、先ほど第8騎士団長に魔力測定をしろと言われたので、そちらをお願いしたいのですが……」


 そう言うと、魔塔主様は嬉しそうに測定機を持って来た。


「第8騎士団長と言えば、カイル・シュナイト君ですね! よくぞ言ってくれました! 彼は良い子ですね。ぜひ測定しましょう! はいっ、こちらに手をかざしてください」


――どれくらい変わってるのかしら……。


 少しドキドキしながら、測定機に手をかざした。すると、測定結果が目の前に浮き上がった。その結果を見た瞬間、私は目を疑った。


 現時点で確認されている魔法属性は、水属性、火属性、風属性、雷属性、土属性、光属性、闇属性の7種類だ。


 そして、魔法使いはすべての属性の魔法を習得するが、向き不向きがあるため属性によって習得レベルが異なる。


 そのため、向いてないものはLv.1でも向いている属性はLv.60なんて例もザラだ。ちなみに私は水属性と雷属性だけ少し良くて、他の属性はLv.50を超えたあたりからあまり変動がない状態だった。


 しかし、どういうことだろう。私の属性の表示を見ると5つの属性のレベルがほぼMAXに近い数値になり、水属性と雷属性に関してはLv.MAXと表示されている。


――もしかして、ギル様に我のエネルギーと相性が良いって言われたけど、水属性と雷属性のことだったのかしら?


 そんなことを思いながら、魔力の項目を見た。


「ええと、魔力量は……」

「クリスタの魔力量は以前の倍になっていますが、私と同じくらいですね」


 魔塔主様に言われ、内心ほんの少しがっかりした。属性別の習得レベルがものすごく上がっているから、魔力量もチート級になっているかと思ったがそうではなかった。


 もちろん魔塔主様の魔力量は、他の魔法使いとは比べものにならない程多い。そもそも、魔塔主様の存在自体がチートなのだ。


 だからこそ普通なら喜ぶべき数値だが、魔塔主様の方が私よりほんの少し魔力が多かった。恐らく属性別習得レベルも私と似たようなものだろう。


 やっぱり魔塔主様はすごい人なんだなと思っていると、魔塔主様が測定機のボタンを押した。


「そのボタンは何ですか?」

「神聖力と特殊能力を見ることができるんですよ。この機械で魔力と属性別習得レベル以外にも表示できるように改良したんです。私には神聖力が無いですが、クリスタが帰ってきたとき調べたかったので……」


 何てことないように言う彼だが、この発言で歴代最高の魔塔主と言われる所以を垣間見たような気がする。


 というか、私が帰ってくる前提でいてくれたことに驚く。なんだか魔塔主様の見方が変わりそうだ。


 魔塔主様がボタンを押ししばらくすると、神聖力と特殊能力の項目が表示された。


「っ! クリスタ、あなた……っ聖女判定が出ていますよ!!!!!!」


 魔塔主様が声を震わせながら、指を指して叫んだ。確かに、神聖力Lv.MAX 覚醒済みという言葉の横に【聖女】と書かれている。しかもその下には、特殊能力【ドラゴン】と書かれているではないか。


 魔塔主様は完全に腰を抜かして床に座り込んだ。仮にもすごい人なんだから、せめて椅子に座って欲しい。


 私は魔塔主様の腕を掴み立たせ、自身が先程まで座っていた椅子に座らせた。


「クリスタ! あなたはすごい! こんなにも優秀だったとは……。今日あなたと会ったときにいつもと違う感覚がしましたが、神聖力の影響だったんですね! 神聖力の覚醒っ……! これはすごい!」


 魔塔主様はとてもはしゃいでいる。私も普段通りであれば狂喜乱舞するところだろう。しかし、レアードとのことがあり、そこまで気持ちを持っていくことができない。


 何のために頑張ったのか。何のために試練に行ったのか。聖女になりたかった理由。それらを考えるだけでぞっとする。今更聖女と持ち上げられても、困るだけだ。


 しかし、そんな私の気持ちを知らない魔塔主様は言葉を続けた。


「これは奇跡ですよ……。あなたは魔塔の星です。さあ、今すぐ聖女が誕生したことを国中に発表しましょう! あなたがいる限り魔塔はより――」


 色々と何かを言っているが、私は魔塔主様の言葉を遮った。


「あの、魔塔主様」

「はい! なんでしょうかっ?」

「私、ここを辞めます」

「へ……?」


 私の言葉に対し、魔塔主様は間抜けな声を出したものの、すぐに言葉を続けた。


「や、や、辞めるだなんて、何を言って」

「いや、もうここにいる意味が無いので……」


 そう言うと、魔塔主様はガバッと立ち上がり近付いてきた。


「何を言っているんですか……! あなたは聖女なんですよ!? 力を持っているんだから、人々の役に立つべきです! 貢献をしないと……」


 魔塔主様はそんなことを考えながら働いていたのか。そう思いながらも、私は今の気持ちを伝えた。


「もちろん能力は生かしたいし貢献したいですよ。でも、ここで働きたくないんです。それに、人々にはこのまま聖女と知られたくないです。とにかく、悪目立ちしたくないんです」


 何かを感じ取ったのだろう。魔塔主様は私の言葉を聞き問いかけてきた。


「ここで働きたくない理由は何ですか?」

「ここで共に働く大切だと思っていた人に裏切られたので、もうここでは働きたくありません」

「それは……もしやレアードのことですか? なら、彼を移動させましょう」

「いや、彼が居なくてもここで彼と過ごした思い出があるので、もう生理的に無理なんです」


 そう言うと、魔塔主様は難しい顔をして何やら考え事を始めた。


――私がとんでもないわがままを言っていることは分かってる。

 でも、どうか分かって……!


 何を考えているのか分からない魔塔主様を見つめていると、魔塔主様は突然口を開いた。


「クリスタが活躍できるここ以外の場所について話をします。だから、お願いです。聖女ということも隠したいなら隠しても良い。その代わりどうか、あなたの能力を生かせる仕事をしてほしいですっ……」


魔塔主様がこんなことを言うなんて意外だった。私もこの力で人々に貢献できるのなら、もちろんこの力を生かしたい。魔塔主様が理解のある人で良かった……。


「ここでなく能力を生かせる仕事なら大歓迎ですっ……!」


 そう伝えると、魔塔主様は胸を撫で下ろした。そして、ホッとした表情を見せ、また連絡するから今日は帰りなさいと声をかけてきた。


 するとその直後、魔塔主様は魔塔に王族と公爵家当主を全員強制で召喚できる装置の作動を始めた。


「今日はありがとうございました。では、失礼します」

「はい、こちらこそありがとう。会議が終わり次第、クリスタの家に結果を説明するための人を遣わせますからね」


 そう言われ、私は話し合いの結果の報告を待つため家に帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ