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10話 裏切りのウェディング

 レアード様に会い行くため乗り込んだ馬車から、私は晴れ晴れとした気持ちで車窓を眺めていた。


――ああ、見知った街の風景よ。

 ギル様との別れは寂しかったけれど、やっぱりここが私の住む国だわ!


 たった3日間しか離れていなかったが、その3日間だけで帰って来られた奇跡と相まって街が輝いて見える。


 生きて帰って来たんだと実感しながら街の景色を見ていると、安心感と達成感で胸がいっぱいだ。


「うふふっ! 本当に私帰って来たのね!」


 嬉しさのあまり、馬車の中でついつい独り言ちてしまう。


「はあ、早くレアード様に会いたいわ! きっと驚くに違いないもの。どんな顔をするのかしら? 楽しみだわっ!」


 レアード様の反応を想像するだけで、ドキドキして胸がときめく。そうこうしているうちに、馬車が魔塔と家のちょうど中間ほどの距離にある教会の前に差し掛かった。


 その教会の前には、新郎新婦が出てくる教会の扉が開くのを、今か今かと待っている参列者が集まっていた。かなり少ない数の参列者だが、皆準備が整い階段に沿うように列になって待機している。


「あら? 誰か結婚式をしているのね。こうして帰って来られたから、私ももうすぐレアード様と! うふふふっ」


 これからの未来を妄想して、つい笑顔がこぼれる。しかし、あることに気が付いた。


「あれ? あの子どこかで見たような……。いったいどこで見たのかしら?」


 参列者の中に、見知った顔を見つけたのだ。よくよく見てみると、2人が見たことのある人物だった。


 両手で足りるほどの参列者しか見えないのに、見たことがある顔が2人もいるのは凄い確率だと思う。


「誰か知り合いの結婚式なのかしら……?」


 私は頭の中で、結婚する予定がある知人を検索する。しかし、結婚式をする段階までに至っている人は引っかからなかった。


――分からないわね。

 そうなると私の知らない人の可能性が高いわね。


 そう思った瞬間、教会の扉が開いて新郎新婦の姿が見えた。


――どんな人達が結婚式を挙げているのかしら!


 そんな野次馬心から、新郎新婦を見るべく目を凝らすように教会の扉へと目を向けた。


 すると、そこには思いもよらぬ人物が立っていた。


「……レアード、様? と……アイ……ラ?」


 私は急いで馬車の窓を開け、御者(ぎょしゃ)に叫んだ。


「ごめんなさい……! ちょっと急用を思い出して……っすみませんが、ここで下ろしてください……!」


 突然の呼びかけであったが、御者はすぐに馬車を停めてくれた。お釣りは要らないと御者に多めに支払い、私は急いで教会へと向かった。


 馬車は教会から少し通り過ぎていたため、私は一点を見つめながら教会へと歩みを進めた。一瞬だけだったため、もしかしたら見間違いの可能性もなくはない。


――まさかそんな訳ないわよね!

 どうか、どうか見間違いであってちょうだい……!

 だってこんなことあっていい訳ないもの!


 一縷の望みを賭けながら、1歩また1歩と足を進めた。どうか見間違いであってくれと願いながら。


 しかし、私のその望みが叶うことは無かった。


――何でレアード様とアイラがタキシードとウェディングドレスを着てるの!?

 何で2人が参列者に手を振っているの……?

 何で2人がそこに立って笑ってるの……。


 ショックと怒りの感情が一瞬にして身体中を駆け巡った。すると、そんな私の心境と呼応するように、一気に空が曇り出した。


 だが、そんなことを気にする余裕なんてない。こうして、ただひたすらに彼らの方へ進んで行くと、とうとう継母と目が合った。


「ひゃあ……!」


 気の抜けたような声で、こちらを見た継母が悲鳴を上げる。まるで、生き返った死人を見たような反応だ。


 その間抜けな継母の悲鳴に反応し、レアード様とアイラもこちらを見た。


「お義母様どうされ/お母様どうされ……っぎゃあ――――――!!!!!!」


 そう言って、こちらを向いた2人は私の存在に気付き叫び声を上げた。


 それと同時に一気に天候が変動し、綺麗に晴れていた空からはゴロゴロと音が鳴り出し、雨が降り始めた。そして私は、新郎新婦と完全に対峙した。


「……あなたたち、これは一体どういうことなの」

「いや、これは……」

「どういうことか説明しろって言っているのよ……!!!!!!!!!!」


 怒りに任せて叫んだ瞬間、私と2人の目の前に、ドカンピシャーンと凄まじい音を立てて雷が落ちる。この雷を皮切りに、結婚式場周辺にはいくつもの雷が落ち始めた。


 そんな天候に恐れ戦き、人々は逃げ惑いながら蜘蛛の子を散らすように新郎新婦と継母を残してどこかへと逃げて行った。新郎新婦と継母は雨に打たれたまま、腰を抜かして震えている。


「それで、一体どういうことなのよ。これは」


 そう言うと、レアード様が口を開いた。


「これは、その、これは……!」


 口を開いたは良いものの、これはという言葉から先が喋れない様子である。


「黙っていたら何も分からない……! あなたたち、いつからなの!?」


 そう叫ぶと、怒りと連動したように、一際大きな雷が強烈な稲光を放ちすぐ近くに落ちた。3人はひえっっと情けない悲鳴をあげている。


――話を聞こうにも、これじゃ埒が明かないわ。


 そう思いながら、ふと継母の装飾品に目をやったところ、ゾッとするほどの嫌な予感が脳内を駆け巡った。


「その装飾品……」


 継母はすぐに察したのだろう。急いで弁明を始めた。


「これは、ちょっと素敵だったから借りたのよ。ごめんなさい。ほら、すぐに外すわ」


 雨に濡れて滑りやすいうえ、震えが止まらない手を使い、継母は手間取りながら首元のネックレスを外した。


 その瞬間、私は浮遊魔法を用い、急いで継母の手から母の形見であるネックレスを取り返した。


 そして、母の形見以外にも違和感を覚えた装飾品について尋ねた。


「どうしたのよ。その指輪にイヤリングにブローチに髪飾りは……?」


 すると、継母は完全に動揺した様子で説明を始めた。


「これは、あなたのお父様が私にくれた――」

「いいえ、そんなわけないわ。その指輪、少なくともお父様が送ったものではないはずよ。だって、すべて最新のデザインじゃない」


 私の魔導士学校の同級生には、アクセサリーの物持ちを良くするために、ちょっとした保護魔法を付与する専門の仕事をしている友人がいる。


 その子に会ったときに、今の流行や最新のデザインなどを何度も見せてもらった。だからこそ、間違えるわけが無かった。


 嘘がばれて窮地に立たされたと気付いた今の継母からは、いつもの偉そうで冷たく厳しい様子は一切見られない。


 そう思っていると、継母はなりふり構っていられないといった様子で謝り出した。


「ごめんなさい! 本当のことを言ったら、あなたに怒られると思ったから……!」

「言い訳は結構よ。嘘しか言わないあなたから聞くことは何もない。それに怒られると思ったですって? なら、望み通りにしてあげるわ」


 パチンと指を鳴らし、継母が装着していたアクセサリーすべて、3人の目の前に浮かばせた。


「インフェルノ」


 そう呟き、それらの装飾品を3人の目の前で、見せしめのように一瞬にして燃やし尽くした。そして次に、裏切りの張本人である新郎新婦に視線を移し睨みつけた。

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