1話 エンカウンター
「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」
「お断りいたします」
私はなぜ、目の前の男性に告白どころかプロポーズされているのでしょうか……。
◇ ◇ ◇
お父様が死んだ。私が15歳の時だった。
私の家には、お父様の再婚相手である継母のカトリーヌ様と、継母の連れ子のアイラがいる。
継母は父が生きていた頃は優しい人だった。しかし、父の死を機に彼女は急に冷たくなった。2歳下の妹のアイラは変わらず優しいままだったが、継母の冷たい態度に私は気まずさを感じていた。
当時の私はそんな環境から逃げたくて、当主として領地経営の勉強を始めるという口実のもと、図書館に通い詰めた。
最初の1年間は、ひたすら勉強に打ち込んだ。その結果、16歳になったころには当主としての仕事は問題なくできる程度になった。また、図書館通いを続ける中で、周りを見る余裕というものが出てきた。
私が通う図書館の主な利用者は、貴族や研究者だった。そのため、図書館の一角に利用者同士で交流が出来るように、団欒室が設けられていた。
今までは1人で勉強することに必死だった。しかし、本だけでは得られない当主としての知識が得られるかもしれない。
そう思い、私は初めて団欒室へと足を運んだ。
――勢いで来てみたけど、みんな誰かと話してるみたい……。
当主だけど成人してない上に女だから、尚更子どもとしか思われないわよね……。
出直そうかしら……。
団欒室に入り、すぐに私の入る余地はないと感じた。気付かれる前に出よう。そう思った瞬間、突然背後から話しかけてきた。
「御令嬢がこちらに来られるだなんて、珍しいですね」
振り返り声をかけてきた人物を見ると、図書館でよく見かける男性だった。
「ええ、初めて来てみたのですが、皆さんそれぞれお話しされているようなので、今日は出直そうと思い出て行くところでした。ところで、あなたは……」
話しかけてくれた彼に、つい興味が湧いた。すると、目の前の男性は姿勢を正し挨拶をしてくれた。
「すみません。驚かせてしまいましたね。レアード・カーチェスと申します。ここにはかなり頻繁に来ているのですが、毎回と言っていいほどあなたを見かけるので、つい声をかけてしまいました」
――レアード・カーチェスと言えば、カーチェス侯爵家の次期当主ね。
確か私よりも4歳年上だったはず。
「左様でございましたか。申し遅れました、わたくしウィルキンス子爵家のクリスタ・ウィルキンスと申します」
「ああ、ウィルキンス家の……。どうりで、あなたは領地経営に関わる本を多く読んでいたのですね」
――この人、すごく人のことを見ているのね。
話したことは無かったけれど、ほとんど毎日会う人だから覚えていたのかしら?
「団欒室にいらしたということは、交流を持とうとお考えで? でしたら、ぜひ僕とお話しませんか? クリスタ様の読んでいる本は私の気に入りが多かったので、話が合うのではないかと思っていたのです」
――ラッキーね!
カーチェス家の方は賢いとよく聞くから、きっとこの人との話は糧になるに違いないわ!
「よろしいのですか! ぜひお話しさせてください」
「良かったです。あ、そうだ! 堅苦しい話をするつもりはありませんし、対等にお話がしたいので、僕のことはレアードとお呼びください」
「分かりました、レアード様。レアード様も是非クリスタとお呼びください。ここでは私に対して、敬語も敬称も不要です」
そう言うと、レアード様は優しく微笑んだ。
「分かったよ。じゃあ、クリスタ。今日からよろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
こうして、私はレアード様と団欒室で頻繁に話すようになった。その会話の中で、レアード様は現在魔導士学校に通っているということが分かった。
レアード様が頻繁に図書室に来るのは、領地経営の勉強のためもある。しかし用事の大半は、魔導士学校でレアード様が進めている研究の文献を調査するためだということも分かった。
レアード様との話はいつも新鮮で、私はそんな知らない世界を年上の彼からたくさん教えてもらった。魔導士に関する話が大半だったが、どんな話も非常に魅力的だった。
笑顔1つ見せず冷たい態度の継母と違い、レアード様はいつも優しく笑って私の話を聞いてくれる。その空間は、とても居心地の良いものだった。
そのため、次第にレアード様との会話は私の日々の生活の癒しになっていた。
頭脳明晰であり、包容力がある大人な人で、私の癒しになってくれる優しいレアード様。
そんな彼に私が落ちるのは一瞬だった。初めて恋というものを知ったこのとき、私は17歳だった。
この国には、すべての国民が17歳になると受ける適性検査がある。そして、私は非常に高い魔導士適性があるということが分かった。
恋と言うのはすごいもので、私は魔導士であるレアード様に少しでも近づくことが出来ればと、適性検査の他の結果には目もくれず、魔導士になることを即決した。
それから18歳の私は、無事魔導士学校に合格し魔導士候補生になった。一方レアード様は無事魔導士として就職を果たした。
私は入学したら、今までよりもレアード様と接点が増えると思っていた。しかし、レアード様の所属の関係で、学校では彼との接点が一切無いということが判明した。
しかも彼は仕事が忙しく、以前のように会うことが容易ではなくなってしまった。
魔導士学校の成績や評価次第で、魔導士になった時の配属場所が決まる。そんな制度の中で、レアード様は成績優秀者として魔塔本部に配属された。
魔塔本部は、魔道士関連施設の中でも中枢のため、非常に大事な部署だ。会えないほど忙しいというのも理解出来る。
そうなると、私がレアード様と頻繁に会う方法は、私も魔塔本部配属になることしか無かった。ラッキーなことに、成績優秀者になれば魔塔本部所属になることは既に分かっている。
そのため私は、研究内容に評価の全てを賭けることにした。私は幸いなことに神聖力持ちだ。そのため、その力を存分に活用し、多くの人々に貢献出来る薬を開発することにした。
そして、薬の開発は無事成功し、成績優秀者として認められ、私は計画通り魔塔本部に所属するという夢を叶えた。
これは、私の4年の歳月をかけ培った努力により、実った結果だった。
お読みくださりありがとうございます(*^^*)
必ず完結させます。
※ヒーローが本格的に登場し始めるのは、14話からです。
先になりますが、21話以降は頻出します。