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第七話:のぼらず神社

***

烈たちは、「のぼらず神社」を目指していた。


「のぼらず神社」とは、烈たちの住む街に古くから伝わる、都市伝説のようなものだ。


街はずれの山の上には、古びた神社がある。


その神社にお参りすれば、どんな願いでも叶うという。


しかし、そこまで続く階段が長すぎて、ほとんどの者が途中で諦めて帰ってしまう。


いつしか、誰もその階段を登って神社にお参りする者はいなくなったことから、「のぼらず神社」と呼ばれるようになった。


という、どこにでもありそうな都市伝説。


だったのだが・・・。


(なげ)ぇなんてもんじゃねぇぞこの階段!!」

烈がたまらず、声を張り上げた。


烈の声に驚き、遠くの方で鳥の群れが飛び立つ音がした。


登れども登れども、眼前に広がるのは石造りの階段と、雑木林だけ。


かれこれ数十分も、彼らはこの階段を登り続けていた。


「だから、登るだけじゃ終わらねぇんだって」

流が額の汗を拭いながら言った。


「そうだよ烈。ボクらが神社にたどり着くに相応しいって”認められない”限り、この階段は続くんだ」

一男も、後ろの方から烈に(さと)した。


アフロディーテが、彼らに託したのは、このようなことだった。


「のぼらず神社」の正体は、”神通力”によって作られた結界によるもの。


そして、その強力な結界を作った主は、「のぼらず神社」からつながる「神々の大地」に住まう、アフロディーテと肩を並べる女神”アテナ”ということだった。


アテナに会い、ゴッドファイブに力を貸してくれるよう頼むこと。


それが、アフロディーテが烈たちに課したミッションだった。


アテナは“戦いを司る女神”。味方になってくれれば、きっと大きな戦力になってくれるでしょう。と。


「・・・わかってるよ」

烈は自分の任務を思い出し、終わりの見えない階段の頂上を睨み付けた。


「弱音なんて吐いてたら、いつまでも認められねぇ。絶対にたどり着いてやるぞ、『のぼらず神社』!」


烈の気概に押され、流、一男、聡太も頷き、脚を動かし続けた。


そんな四人を、茂みの奥から見つめる視線に、気付くこともせずに。


***

ドリームサーカス、本拠地。


テュポーンが団長の玉座に座り、赤ワインを(たしな)んでいると、カタカタと足音が聞こえた。

「おや?誰です?」


テュポーンが足音の方に顔を向けると、暗闇の中から、肌色の、サーカスの練習用レオタードを着て、髪をお団子にまとめた、花菜(はな)があらわれた。


その目は虚ろで焦点は合っておらず、ボンヤリと開かれた口からは、ツーッと垂れたヨダレが、白い糸を引いている。


傀儡(マリオネット)と化した花菜には、かつてのゴッドファイブの紅一点としての知的さと(たくま)しさは、微塵も感じられなかった。


「おや、傀儡(マリオネット)ちゃんではありませんか。呼んだ覚えはありませんがねぇ」

そう言いながら、またワイングラスを傾けるテュポーンに、花菜はカタカタと、近づいていく。


シュバッ!


唐突に、花菜は生成した”花弁剣(フラワーブレード)”で、玉座のテュポーンを切り裂いた。


真っ二つに割れたワイングラスが砕け、真っ赤な飛沫(しぶき)が玉座を染める。


しかし、その飛沫の中に、テュポーンの姿はなかった。


「ほぉ、もしや、自我を取り戻しているのですね?」

花菜の背後に、余裕の笑みを浮かべるテュポーンが立っていた。


「あ・・・あ・・・」

小さなうめき声のようなものを漏らしながら、花菜はテュポーンを振り向く。


「しかし、まだ体の自由までは完全に取り戻せていない、というところでしょうか。しかし、”支配”に抗って(みずか)ら動きだすとは、いやはや、さすがはゴッドファイブ」

花菜の様子を観察し、ブツブツと呟くテュポーンに、花菜は再び”花弁剣”で斬りかかった!


ズバーン!


花菜の、目にも止まらぬ一閃。その直後にあったのは、弾き飛ばされた”花弁剣”が、床に突き刺さる光景だった。


花菜のスピードを更に上回る速度で、テュポーンは”花弁剣”を蹴り飛ばしたのだった。


花菜の手を離れた”花弁剣”は、白い花びらとなって霧散した。


「ンフッ♪支配が完全に解けていない、そんな状態で、わたくしに攻撃が当たるとでも思っていたのですか?」

テュポーンがそう言うが早いか、花菜の腹部に、ズン、と強烈な拳が入れられる。


「うぐっ」

花菜は低いうめき声をあげると、ドサリとテュポーンの腕の中に収まった。


「ンフッ♪」

目を虚ろに開いたまま、脱力する花菜を抱え、テュポーンは玉座へと連れていく。


花菜を玉座に座らせると、テュポーンはレオタードに包まれた花菜の身体を、舐めるように見回した。


貴女(あなた)のような”ザコ”が謀反を働けば、本来なら即刻、処刑のところですが」

そう言ってテュポーンは、花菜の胸をそっと撫でる。


テュポーンの一撃で行動不能となっている花菜は、全く無反応だ。


「”腐ってもゴッドファイブ”。なにより、わたくしの楽しみのため、そして、女王陛下への貢ぎ物として、貴女にはもう少し役立って頂きましょう」


テュポーンはパチン、と指を鳴らした。


シュバッ、と、二つの人影がどこからともなく現れ、テュポーンの前に(ひざまず)いた。


フリルのスカートの付いた、白黒のピエロのレオタードを着た、マリアと瀬名。”からくりシスターズ”の二人だった。


「オヨビ、デショウカッ、ゴシュジンサマッ」

「オヨビ、デショウカッ、ゴシュジンサマッ」


からくりシスターズは、声を揃えて、”ご主人様”にご挨拶をする。


「この”傀儡(マリオネット)”を、完全に支配しなさい」

テュポーンは、ぐったりと玉座に座る花菜を見ながら、からくりシスターズに命令した。


「やはり精神を支配するだけでは、不足だったようです」

テュポーンは、虚ろに空を見つめる、まさに人形同然の花菜の頬を触りながら、うっとりと言った。


「感情、記憶、心、彼女という存在を形作る全てを、完全に抹消しなさい!」

「「ハイッ、ゴシュジンサマッ」」


テュポーンの命令を受けるや否や、瀬名は光の糸を両手で操り始める。


花菜の体がピクンと弾み、花菜はスクッと立ち上がった。


「あっ」

光の糸に操られ、花菜はギクシャクとした動きで、瀬名の方へと歩いていく。


「あっ・・・や、だぁ・・・やだぁ」

瀬名の方へと一歩ずつ近づきながら、花菜は必死に抵抗しようとする。


しかし、完全には支配が解けていない上、テュポーンの一撃でダメージを負った花菜は、白い糸のコントロールに逆らうことができない。


「ま、まりあ・・・ちゃ」

花菜はマリアの方を見るが、すでにオムファロスによって完全支配に陥っているマリアは、この傀儡(マリオネット)が花菜であることなど、気が付くはずもない。


マリアが力を込めると、瀬名のレオタードの股間に埋め込まれたオムファロスが、白い光を帯び始める。


瀬名は脚を肩幅に開き、オムファロスを突き出すような格好になり、花菜をその前に跪かせた。


「あ・・・あ・・・やめ・・・」

これから何が起こるのかを察した花菜は、涙を流して懇願する。


「おねが、ムゴォ」

花菜が最後の頼みを言い切る前に、瀬名は花菜を操って、花菜はその顔面を、瀬名の股間のオムファロスへと(うず)めた。


「フゴ、フゴ、フゴゴォォ」

瀬名に操られ、花菜は、オムファロスもろとも、瀬名の股間に奉仕する。


自ら花菜を操り奉仕させながら、瀬名はその奉仕に興奮し、体を震わせる。


「ブゴ、ブゴ、ブゴォォ」

「アアッ、アッ、アアッ」

二人の声が絶妙なハーモニーを奏でるなか、やがて、

「アッ、イッ、イキマ、スゥゥゥゥ」

およそ絶頂する前とは思えない、ロボットのような声色で言うと、瀬名は一際体を震わせて絶頂した。


その瞬間、マリアはオムファロスを操作する。

ズギューーン


瀬名の絶頂とともに、オムファロスのエネルギーが、花菜の口へと注がれる。

「ムゴォォォォ」


絶頂の余韻で、瀬名は後ろへと仰向けに倒れ、あとは跪いた花菜だけが残された。


しかし、その花菜も、先ほどとは打って変わった無表情で、眼球は完全に裏返り、その肌は、まるで作り物のように白くなっていた。


オムファロスによって、感情も記憶も自我も全てを消去され、花菜は完全な人形と化していた。


「ンフッ♪」

花菜の変化を見届けたテュポーンは、ゆっくりと花菜に近づいていく。

「どうです?完全なる傀儡(マリオネット)へと生まれ変わった気分は。最高でしょう」

テュポーンに聞かれ、花菜は白目を剥いた無表情な顔を、わずかに上に向ける。


「ハイ、ゴシュジンサマ、アリガトウ、ゴザイマ」

花菜は平坦な声で、返事をした。


「ンフッ♪それで良いのです。折角生まれ変わったのですから、次のショーは、貴女を主役にして差し上げましょう」

「カシコマリマ、ゴシュジンサマ、ガンバリマ」

言われている意味もわからず、花菜はカタカタと返事をする。


「演目は、そうですねぇ。ドリームサーカスvsゴッドファイブ、最終決戦。というのはどうでしょう。勝つのはもちろん、我々ドリームサーカス!良い筋書きでしょう」

「ハイ、ゴシュジンサマ、カツノハ、ドリーム、サーカス」


カタカタとオウム返しに話す花菜を見て、テュポーンは嬉しそうにほくそ笑んだ。


***

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ」

もう何時間、この階段を登り続けているだろうか。


さすがのゴッドファイブたちも、体力に限界が来ていた。


「痛・・・ッ!」

一男が、膝を押さえてうずくまった。


「一男!大丈夫か!?」

烈、流、聡太は一男に駆け寄る。


「ちょっと、もう、足が動かないよ」

一男は膝を押さえたまま動けない。


元々肥満体質の一男にとって、これ程長く、階段を登り続けるのは無理があったのだ。


「ごめん、ボクはここで降りるよ」

一男の言葉に、三人は目を剥く。


「一男!何言ってんだよっ!足がそんなになるまで、せっかく登ってきたのに!」

烈は一男の肩を掴んで言い聞かせた。


この無限階段が、アテナが自分に会うに値するものを見極める試練だとすれば、アテナが力を貸してくれるのは、この階段を登り切った者だけなのだ。


つまり、一男がここで降りれば、そこで戦線離脱となる。


ガシッ。


烈が、一男の肩を担いで立ち上がろうとした。


「烈、なにを?」

一男が烈を見つめるが、烈はまっすぐに階段の上を見つめたまま、全力で一男を階段の上に押し上げようとする。


当然、体型の違いすぎる一男を、一人の手で押し上げるなど、不可能だ。


「お前も、一緒に頂上までいく」

それでも烈は、一男を担いでいこうとする。


「烈!無理だよ!例え三人でも、ボクを担いで上までいくなんて!?」

一男の言葉に、流も同意する。

「そうだぞ、烈!一男がどんな思いで、ここで降りることを選んだと思うんだ!俺たちのためだぞ!これ以上、戦力を失うのは確かに痛いが・・・」


「そんなことはどうでもいいんだよ!」

烈の叫びに、三人は沈黙する。

「一男のこの足じゃあ、一人で降りるのだって、どれだけの負担がかかるか」


烈の言葉に、流と聡太はハッとする。


確かに、実は階段や斜面は、登りよりも下りの方が、足への負担が大きい。


膝を負傷した状態で、この階段を降り続ければ、おそらく・・・。


「俺はこれ以上、ゴッドファイブのメンバーを失いたくねぇ!けど、みんなで諦めて降りるつもりもねぇ」

烈はそう言いながら、一男の背中を力強く押す。


「だからっ!この四人でっ!絶対にっ!頂上まで、上がるんだぁぁぁっ!」

烈が一際力を込めた瞬間、ふっ、と、一男の体が持ち上がる。


流と聡太が、烈の後ろから、更に一男の体を持ち上げていた。


「ったく、ワガママが過ぎるぜ、俺たちのリーダーは」

流が珍しく、汗を(したた)らせながら、ニヤリと笑ってみせる。


「一男!帰ったら、お前のうまいカレー、食わせろよな!」

聡太もそう言って、一男の肩を掴んで持ち上げる。


「みんな・・・」

一男は、三人の仲間の姿に、思わず涙ぐむ。


「泣いてるヒマなんてないぜ、一男!このまま一気に頂上まで・・・ムギュ!」

かっこよく決めようとした烈の顔面を、何者かが足で踏んづけ、一同が階段を登るのを阻止した。


「な、なんだ!?」

一同が見上げると、そこには一人の人影が。


それは、燃え盛る炎のような、真っ赤な髪をポニーテールに束ね、その髪と同様に真っ赤なワンピースを着た・・・、


少女だった。


「お、女の子ぉ!?」

烈が、あっけに取られたように叫んだ。


変身していないとは言え、神話戦隊としての戦闘力を身につけた烈に対し、意図もたやすく蹴りを入れるなど、それこそ邪神軍の幹部クラスでなければ不可能だ。


それをやってのけたと言うことは、この少女こそが・・・


「アハハハ!そのデブチンを担いで上までだって?アフロディーテから話は聞いていたが、それ以上に面白い連中だな、ゴッドファイブ」

少女は、困惑する烈に、あからさまに挑発的な”あっかんべー”をして言った。


少女の不遜(ふそん)な態度に、烈は明らかに腹を立てる。

「な、なんだとてめぇ!子供だからって、容赦しねーぞ!」

烈が凄い勢いで、少女につかみかかる。


「待て、烈!そのお方は・・・!」

何かに気付いた流が、烈を引き留めるが、時すでに遅く・・・。


ドカァン!!


なんと、少女が人差し指をピンと跳ねただけで、烈の体は石造りの階段へと沈み込まされてしまった。

「うわぁ!」


惨めな姿で横たわる烈を見て、少女は、フン、と鼻を鳴らす。


「アフロディーテの言うとおり、あの伝説の魔獣”ヨルムンガンド”を倒した力は、ナリを(ひそ)めているようだな」


少女が言うと、烈が這いつくばる後に、流と聡太、一男がサッと跪いた。

「やはり、あなたが”アテナ”様!」


「な、なにぃ!?」

ボコッ、と、めり込んだ穴から顔を上げると、烈は目を丸くした。

「こ、この少女(ガキ)が、アテナ様ぁ!?」


「烈!言葉を慎め!」

失礼な言葉を連発する烈をたしなめる流の姿を見て、アテナはアハハと笑う。


「やはり、面白い人間どもだな!」

アテナが指を鳴らすと、瞬く間に森と階段は消え失せ、目の前に立派な(やしろ)が姿を現した。


「まずは、我が(やしろ)へようこそ。神話戦隊ゴッドファイブ」


***

オムファロスの光が消え、闇の中から現れた一体の影を見て、テュポーンは、ンフッ♪とほくそ笑んだ。


影の中から現れたのは、巨大な背丈の女性だった。


いや、女性の姿をした”人形”だった。


マイクロファイバーのようなオレンジの髪を束ね、それと同じ色のチュチュを着た、巨大なバレリーナ人形は、真っ白な素肌に、厚い化粧を施されたような顔であるが、目、口、鼻は、よく見ると”○”の形にポッカリと空いた穴であり、人間の器官としてのそれの役割は果たしていないし、”○”だけで作られたその顔には表情と呼べるものは存在しない。


真っ白な顔の額には、”ギンヌンガ・ガップ”に支配される魔獣の証である紫の紋章が、不気味に光っている。


衣裳からは異様に白く細長い手足が伸びており、その手足には、巨体を操作するための、極太の操り人形の糸が、不思議な力で空中に浮かべられた木の塊にくくりつけられ、オムファロスによって動くそれによって操られている。


よく見ると、バレリーナ人形の手からも、同じような糸が伸びているが、その先にあるはずの操り人形は見当たらない。


「美しい・・・」

バレリーナ人形の姿を見て、テュポーンはうっとりと呟いた。


「これぞ、ゴッドファイブに引導を渡すに相応しい、新たな魔獣、”マリオネットクイーン”!!」

テュポーンの呼び掛けに応じ、マリオネットクイーンの目が、紫色にギン、と光った。


「コォォォォォォ」

マリオネットクイーンはテュポーンの呼び掛けに返事をするが、ただの穴である口からは、風の漏れる音が響くだけだ。


「ンフッ♪そう。お前は、そのままでは、ワタクシに忠誠を誓うことも出来ないのです」

テュポーンは、目覚めたマリオネットクイーンに言い聞かせるように言った。


(あるじ)であるワタクシに、全うな返事がしたければ、お前の手となり足となる”マリオネット”たちを集めておいでなさい!」


「コォォォォォォ」

テュポーンが言うと、マリオネットクイーンは紫の光に包まれ、その姿を消した。


「ンフッ♪最終決戦の前の余興(ゲーム)です。ゴッドファイブは、かつての仲間から、(あわ)れな市民たちを守れるでしょうかねぇ」


モニターとなった巨大な水晶に、街に降り立ったマリオネットクイーンの姿が映し出されるのを見て、テュポーンはまた、ンフッ♪と笑った。

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