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第三話:ゴッドファイブvsドリームサーカス

***

「おい聡太(そうた)!もっとスピード上げろって!!」

後部座席から、烈が声を張った。

「出来る限りやってるよぉ、でも、交通ルールは守りゃなきゃ!」

ハンドルを握る聡太が、情けない声で言い返す。


神話戦隊ゴッドファイブは正義のヒーローだ。もちろん、ヒーローたるもの、世の掟に背くわけにはいかない。


聡太が言うように交通ルールはもちろんのほか、喫煙する場所、飲酒の量、時間帯など細かにわたるまでの規則が定められていた。


もちろん、ケンカっぱやく暴走しがちな烈といえど、ゴッドファイブのリーダーである以上、この規則を一度たりとも破ったことはないし、破ってはいけない。


「く、くそう」

烈は苦虫を噛み潰したような顔をする。


こうして悠長(ゆうちょう)にしている間にも、マリア達は危険に晒されているかもしれないのだ。


「落ち着いて、烈」

花菜(はな)が、努めて冷静な声で言った。

「”オムファロス”に触れられるのはマリアちゃんだけ。となれば、奴らも彼女を傷付けるようなことは容易には出来ないはず」


花菜の言うとおりだった。


新たなる敵といえど、“ギンヌンガ・ガップ”の刺客には違いない。だとすれば、その目的は宝玉”オムファロス”に間違いない。そして、そのオムファロスに触れられる人間のうち、”オムファロス”の力を引き出せるのは、世界で唯一マリアだけなのだ。


それならば、恐らく烈が考えているような”最悪の事態”は、マリアの身には起きていないと考えるのが自然だった。


「ただ・・・」

と、花菜は表情を曇らせた。

「今回の敵は、あの先生みたいに、”人の心や行動を操る能力”を持っている」


花菜の、その言葉の真意を、烈以外の全員が読み取った。


すなわち、恐らく、さらわれたマリアやクラスメイトたちも、敵の何らかの能力で操作されている可能性が多いにあるということだった。


そして、その数分後、ゴッドファイブのメンバーが敵のアジトであるサーカステントに先入した瞬間、花菜の予想は見事に的中するのだった。


***

烈たちが、街の外れにある怪しげなサーカステントに入り込むと、その内部にはテントの中とは思えないくらい広々とした空間が広がっていた。


「こ、これは・・・」

その空間の広さに驚くゴッドファイブのメンバー。なぜならそこは、

「気を付けて!混沌(カオス)空間よ!」

花菜が鋭く眼を光らせながら言った。


そう、ここは混沌(カオス)空間。

ギンヌンガ・ガップの刺客たちが、自らの力を発揮出来る土俵(フィールド)として展開する異空間だ。


この混沌(カオス)空間が広がっていることこそ、このサーカスの(あるじ)がギンヌンガ・ガップの刺客であることを示していた。


身構えるゴッドファイブたち。

すると・・・。


「ギーーーッ!」

甲高い叫び声とともに、混沌(カオス)空間からいくつもの人影が、ゴッドファイブたちに向かってきた。


「!!」

とっさに反応し、烈たちは人影に向かってパンチやキックを繰り出すと、人影はそのままふっ飛んだ。


「コイツら!」

「カオスバーター!」

その悪趣味なカラーリングの全身タイツと、ムンクの”叫び”を思わせる(いびつ)な仮面をつけた敵たちに、ゴッドファイブは一斉に反応する。


カオスバーターとは、ギンヌンガ・ガップの刺客たちが、混沌(カオス)空間に自分の闇の力を微妙に取り込んだことにより作り出された、人間の形をした雑魚敵である。


知能、身体能力ともにかなり低く、変身前のゴッドファイブたちにも軽く捻られる程度であるが、その先に待ち受けるギンヌンガ・ガップの幹部との戦いの前に、時間稼ぎと体力の消耗を目的として、特攻させられるだけの存在だ。


「お前らに構ってるヒマはねぇんだよ!」

ドカッ!

「ギッ!」

バキッ

「ギィッ!」

烈、流、聡太によってなぎ倒されていく、カオスバーター。


ある程度の数のカオスバーターを倒し先に進むと、そこには、サーカスのパフォーマンスを行うステージがあった。


そして、そのステージにたどり着いたとたん、湧き出るように現れていたカオスバーターたちが、ピタリと出なくなった。


「イヤな予感がする。僕、少し辺りを見てくるよ」

聡太がそう言ってチームから離れた。


敵地に乗り込んだとき、いつも周囲の偵察をするのは、聡太の役目だった。


「ああ、頼むぜ聡太」

烈はそう言うと、流や花菜と共に、メインステージの方へ向かう。


『ンフッ♪ようこそ、我が“ドリームサーカス“へ』

暗闇の中から、何者かの声が響いてくる。

「だっ、誰だ!」

烈が広がる暗闇に向かって凄む。


それに反応するかのように、シュバッ、と、新たな人影がメンバーの前に現れた。


「お前かっ!このフザけたサーカスのボスはっ!」

烈が前のめりになって威嚇するのを、花菜が制した。

「待って!さっきのは男の声だったけど・・・」


花菜の言う通りだった。

5人を煽るように響いたのは、男の声だったが、目の前にいるのは、シルエットからも分かる細身の体、胸の膨らみから、女であることは確かだった。


しかも、その体つきから察するに・・・


『ンフッ♪その通りっ!まず皆様をもてなすのは、この”ドリームサーカス”名物でもある前座演目(ファースト・アクト)。”猛獣師(テイマー)によるアニマルショウ”ですっ☆』


再び男のアナウンスと共に、人影が、その姿が認識出来るまでに詰め寄った。


それは、オレンジの派手なレオタードを着た女性だった。


スパンコールの散りばめられたチカチカする装飾に、このサーカスのロゴマークであろう絵柄が、腹部にデカデカと印字されている。


お世辞にも格好いいとは言えないデザインだが、それにピエロメイクを模した仮面を付けた女性パフォーマーは、真っ赤な口紅を引いた唇に不敵な笑みを浮かべ、(うやうや)しく、しかし、どこか「かかってこい」とでも言うように挑発的な様子でお辞儀した。


と、次の瞬間、オレンジレオタードの女性パフォーマーは隠し持っていたムチを取り出すと、それを地面に向けて、手首のスナップを効かせて打ち付けた。


スパーン!という乾いた音が鳴り響くと、メンバーの周りに複数の気配が現れた。


「ガルルルルルゥ・・・!」

明らかに獰猛(どうもう)な獣の、こちらを威嚇する音と共に、その気配は暗闇の中から近づいてくる。


「な、なんだ?」

メンバー達は戦闘体勢を取りながら、八方に意識を向ける。


暗闇の中から四つん這いの、茶色い体にタテガミの、大きな生き物が二匹、メンバー達を挟むように現れた。


「ら、ライオン!?」

二匹のライオンは、猛獣師の女性パフォーマーの動きに呼応するように、トライアングルにメンバー達を取り囲み、やはりグルル、と喉を鳴らしながら威嚇を続ける。


そのライオンにも、猛獣師の女性が着けているのと同じ、ピエロの仮面が付けられていた。

だが、そのライオンの姿に、花菜は少し違和感を覚えた。


だが、花菜がその違和感の正体に気付く暇もなく、

『さあ、それでは、It’s(イッツ) show(ショウ) time(タイム)!!』

男性のアナウンスがトリガーとなり、女性パフォーマーはムチを再び振り下ろした。

スパーン!とムチが鳴ると、そのムチに操られるライオンが、メンバーの方へ向かってきた!


「いくぜみんな!」

烈の掛け声と共に、5人は左手首に着けたブレスレットを掲げる。


神話(ゴッド)チェンジ!!』


5人は神々しい光に包まれ、全身タイツとヘルメットの専用コスチュームを身に(まと)った。


アフロディーテの加護を受けた、特殊な力に守られた神秘の(ころも)だ。


これを纏うことにより、ゴッドファイブたちは、邪神軍と互角に戦う力を発揮することができるのだ!


『神話戦隊、ゴッドファイブ!!』


それぞれがポーズをキめ、そして戦いに備える。


何故かその間、悠長にそれを見守っていた女性パフォーマーとライオンたちは、再びゴッドファイブめがけて攻撃を仕掛ける。


「ハアッ!」

「トウッ!」


俊敏に動き、2匹のライオンと格闘を繰り広げる、赤、青、黄のゴッドファイブ。


女性パフォーマーは、3対2の苦戦を強いられたライオンを操作するため、必死にムチを打ち続ける。


どうやら2匹のライオンに意思はなく、女性パフォーマーのムチに従ってのみ動くようだ。


その事実をいち早く見切っていたのは、白のゴッドファイブ、花菜だった。


「そこまでよ!」

女性パフォーマーの背後を取った白のゴッドファイブは、女性パフォーマーに向かって両手を広げる。


「ハッ!?」

女性パフォーマーは、しまった、という表情を見せるが、既に時は遅かった。


「”花吹雪(フラワーダスト)連弾(シュート)!!”」

必殺技の掛け声と共に、花菜の掲げた両手から、鮮やかな花びらが無数に、女性パフォーマーに向かって飛んでいく。


本来、この高速で飛行する花びらは、相手に斬擊や打撃を連続して与える効果があるが、今回はそのようなことがないようにコントロールされた花びらは、女性パフォーマーのつけている仮面を的確に狙っていた。


パァン!


女性パフォーマーの仮面が宙を舞うと、


ズバババババッ!


その仮面に向かって一斉に花びらが飛来し、仮面を粉々に切り刻んだ。


仮面が失われ、立ち尽くす女性パフォーマーの素顔を見て、花菜は何かを確信した。


仮面の下にあったのは、まだあどけなさの残る少女の顔だった。


少女は、虚ろな目で花菜を睨み付けていたが、仮面が粉砕されると同時に、


「アッ」

と、小さな声を上げて、その目をグルリと裏返し白目を剥くと、レオタードに包まれた身体をドゥルンと弾ませながら、地面に崩れ落ちた。


間一髪、頭を地面に打ち付ける前に、花菜が少女の身体を受け止めた。


それと同時に、もう一方の、ライオンと死闘を繰り広げていた三人の方にも変化があった。


主人である少女が倒れた瞬間、ライオンが着けていた仮面の光が失われ、ライオン達もそのまま地面に倒れ伏したのである。


「えっ!?」

倒れた拍子にライオンの仮面が外れると、三人のゴッドファイブは驚愕した。


ライオン達の正体は、人間、それも、パフォーマーの少女と同じくらいの少年だったのである。


少年たちは、薄い茶色の全身タイツを着せられ、お尻にライオンの尻尾を(かたど)ったディルドを挿入され、作り物のタテガミやら爪やらを付けられてライオンに仕立てられていたのだ。


倒れた全身タイツの少年たちは、少女と同じく白目を剥き、全く動かなくなった。


「こ、これって、どういうことだよ、花菜!?」

赤のゴッドファイブ、烈が戸惑ったように言うと、花菜はヘルメットの下で表情を曇らせた。


「多分・・・」

「みんな、聞いてくれ!」

花菜が言いかけたとき、緑のゴッドファイブ、聡太が姿を表した。


「花菜の言うとおりだった。このサーカスにいるパフォーマーたちは、仮面を付けられて操られた人たちだ!」

聡太が言う間に、聡太の背後から、空中ブランコや玉乗りをしたパフォーマーたちがウジャウジャと押し寄せてきた。


「ひいぃっ!」

一般人とわかった今、彼らを攻撃することも出来ず、聡太はこのように一目散に逃げて来たのだった。


全員、レオタードや全身タイツに身を包んだサーカス団員だが、聡太の捨て身の努力によって、その仮面を()がされたあとには、女性パフォーマーやライオン達のように、正気を失い、何者かに操られた少年と少女たちの姿があった。


「な、何だって!?」

聡太の言葉に、一同は驚愕する。

だが、花菜だけが、府に落ちた態度を見せていた。


「その通りよ」

そう言葉を放った花菜に、他のゴッドファイブたちは視線を向ける。


花菜は、抱き抱えている、白目を剥き気絶しているレオタード姿の少女に、哀れみの視線を向けた。

「きっと、この子たちは、さっきの高校からさらわれた生徒たち。こんな風に洗脳されて、サーカスの一員にされているんだわ」


「そんな、じゃあ、マリアちゃんは・・・」

聡太が心配そうな声で言うと、花菜は弱々しく頷いた。


「今回の敵が、”人間を自由に操る能力”を持ってるのは確実よ!きっと、マリアちゃんも含め、あのクラスの全員が・・・」

花菜は、それ以上は何も言わなかった。


***

「ンフッ♪素晴らしいっ、あの白のゴッドファイブには、”魔力を浄化し、支配された人間にも干渉する力”があるようですねぇ?」


特殊な魔力により空中に映し出された、女性パフォーマー・ライオンチームと、ゴッドファイブたちの闘いを見守っていたテュポーンが、うっとりとした声で言った。


「では、ワタクシにとっての脅威は、この白のゴッドファイブ。彼女だけのようですねぇ」

テュポーンが言っている間にも、映像の中では、白のゴッドファイブが、聡太が連れてきた大勢の、テュポーンによってサーカス団員や、動物に仕立てられた高校生たちが。その魔力の支配から解き放たれていた。


「彼女をどうにか出来れば、ワタクシ達の勝利は確実になるでしょう。そして・・・」

テュポーンが振り返った先には、直立不動で立ち尽くす、二人の女性ピエロの姿があった。


「お前たちなら、それは容易なことですね?」


テュポーンに言われ、カラフルなハイレグのレオタードに身を包み、派手なピエロメイクを施されたマリアと瀬名は、双子のように、満面の笑みのまま姿勢を正した。


「ハイッ、ゴシュ、ジン、サマッ!」

二人のピエロは、そう言った瞬間、シュバッ、とその姿を(くら)ませた。


***

「ふぅ、ざっと、こんなものね」

白のゴッドファイブ、花菜が一息つくと、その場には、洗脳されたあらかたの高校生たちが、白目を剥いて倒れていた。


花菜の調合した花の香りで、一時的には気を失っているが、効力が切れる頃には、彼らにまとわりつく魔力は浄化され、正気を取り戻しているだろう。


だが、その高校生たちの姿を見て、花菜は浮かない気持ちになった。


「マリアがいねぇ」

花菜の不安を代弁したのは、赤のゴッドファイブ、烈だった。


そう。助け出した高校生たちの中に、マリアと、その親友の少女、瀬名の姿が見当たらないのだ。


そのとき・・・。


ヒュヒュン!

風を切る、乾いた音を青のゴッドファイブ、流が察知した。

「あぶない!花菜!」

流が身を挺して、花菜をかばうと、そのわずか横を、何かがかすめていった。


地面に刺さったそれは、星の形の小さなオブジェだった。


しかし、星のそれぞれのトゲの先端は極めて鋭利に研ぎ澄まされ、まるで忍者の手裏剣のようになり、地面にまっすぐに刺さっていた。


もし、これが花菜に直撃していたら・・・。


そんな想像がまた感情を刺激したのか、烈が星形手裏剣の飛んできた方向をキッと睨み付けた。


「誰だ!出てこい!」

烈の怒号に反応するように、暗闇から新たな人影が2体現れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 映像も 声も付いていないのに、まるで現場に居合わせているかのように、スリルが伝わってきます。 [気になる点] 仲間が一緒だから大丈夫とは思うけど、はなまでが チュポンの魔法にかかってし…
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